魔法と技の応酬
俺が生み出した『ラグナレク』を見て、フェウスもにわかに反応した。
『その魔法は――』
「これで二度目だ」
言葉と同時に光の剣がフェウスへ向かう。回避できず不死鳥はその身に剣を受け、光が爆散した。
圧倒的な光の奔流。それと共にフェウスの気配が一時的になくなるのを俺は確かに感じ取った。
光が消える。またも形の定まらない炎となっており、それが一気に噴きあがり同じように不死鳥の形をとる。
『なるほど、最上級魔法をこうも扱えるとは、驚きね』
「少なくとも、俺が以前の挑戦者より上であることは理解できただろ?」
『……確かに、その力は中々のもの』
認める発言――けれど次の瞬間、フェウスの周囲にいくつもの火球が生まれる。
その一つ一つに相当な魔力が込められており、後ろの仲間達では防げたかどうかわからない。
火球を連続してぶつける魔法というと、中級魔法の『クロスファイア』か……あくまで中級というのは、こちらもまだ本気を出していないと主張したいのだろうか。
『最後に勝つのは私』
宣言と共に火球が放たれる。それに対し俺はまず『フレイムシールド』を使用して防御に転じる。
火球が当たる。轟音が生じ炎が舞う。けれど俺が生み出した『フレイムシールド』は、完全に火球を阻んだ。
俺は反撃に転じるべく、まずは剣を鞘に収める。所作にフェウスは訝しんだか、微かに警戒の気配を見せた。
「――風の王よ」
その言葉と共に、俺の手に、緑色の刀身を持った剣が出現する。魔法により武器を生み出す手法の一つで、名を『風王剣』という。攻撃力は上級クラスの魔族に対抗できるくらいではあるが、終盤手に入る強力な武具に比べると劣る。けれどこいつには面白い専用技がある。
剣を構えると同時、フェウスは魔力を高めた。こちらの攻撃を受ける構え。
それが吉と出るか凶と出るか……勝負!
俺は下からすくい上げるように剣を放つ。使用した技は『風王剣』専用技である『アッシャーウィンド』。ゲーム上の説明では対象を塵と帰すという効果だったが、実際使用してみると剣を通して放った風が通った場所を消し飛ばすという効果を持っている。
フェウスはそれを真正面から受ける。俺の攻撃を防ぎ「効かない」などと語りたかったと思うのだが……その目論見は見事に外れた。
俺の風は障壁をあっさりと消し飛ばし、フェウスの体の中心を通り抜ける。結果、不死鳥が真っ二つとなり、またも形を失くし炎となる。
「三度目……そろそろ、そっちも本気を出した方がいいんじゃないか?」
挑発的に告げた後、詠唱を開始――その矢先、不死鳥の形が定まらないうちに、炎が来た。
「おっと」
だがそれを余裕で避ける。それと同時にフェウスの体が元に戻る。
『よくぞかわしました』
なおかつ声を発する。
『なるほど、確かに言うだけのことはあるのでしょう。ですが――』
「言っておくが」
俺はフェウスを見据え、宣言する。
「お前に攻撃する暇はないぞ」
魔法解放。突如周囲が闇に包まれる。
『これ、は……!?』
使用したのは闇属性最上級魔法『エンド・オブ・クリーチャー』。一瞬で闇に包まれたフェウスの存在は、闇に飲まれ消えゆくか細い炎のように見える。
さすがにフェウスも抵抗しようとしたが、闇の応酬によって四度目の消滅を迎える。
「さて、次はどうするか」
少し思案し、剣技にしようかと思い――今度は『氷霊剣』の詠唱を開始する。魔法により生み出せる剣というのはいくつか種類があり、代表的なのが『風王剣』と『氷霊剣』の二種。ただ『氷霊剣』の方は専用技の威力が低いので、ここは魔導技を行使することになる。
剣を生み出す間に、フェウスが四度目の復活を遂げる。俺は少し様子を見るべく剣を構え、出方を窺う。
『……来ないのですか?』
「さすがに四度目ともなったら、罠の一つでもあるんじゃないかと思ってさ」
こちらの言葉にフェウスは、無言でその体に魔力を溜め始める。
魔力の感触的には……火属性上級魔法の『イフリートフォース』かな。炎の魔人を象った炎が襲い掛かる魔法なわけだが……フェウスなら最上級魔法を使えるはず。そこまでまだ本気を出さないというのは、まだ余裕だと考えているからだろうか。
俺は剣を構え相手の魔法に応じる構えを見せる。今度はフェウスが攻める側。すると相手は俺の予測通り『イフリートフォース』を使用してきた。
フェウスの正面に、魔人を象った炎が生まれる。それに俺は剣に魔力を込め対抗する構えを見せる。炎が向かってくる。まだだ――もっと引き寄せて……今だ!
「ふっ!」
僅かな声と共に放った俺の剣には、氷属性上級魔導技『ホワイトダンス』が放たれる。多量の氷が津波のごとく対象者まで迫る攻撃技で、剣を直接決めたわけでもないのになぜか斬撃主体の威力になるという変わった技。
炎と氷が激突する。一時俺の氷は進撃を止められたが……一瞬の後、炎を一気に飲み込んだ。
フェウスが氷に飲み込まれる。結果、あっさりと凍りつき氷が砕け……不死鳥は形も残らなかった。
「これで五度目……」
呟いた矢先、またも炎が噴き上がりフェウスが復活する。何もないところから再生する能力は驚くべきものがあり、さすが神霊となんとなく思った。
『……ガルクやアズアを従えたという力、さすがだと言っておこうかしら』
フェウスが語る。それと共に俺を威嚇するように魔力を発する。
「ここまで負け続けだが……次は、どう動くんだ?」
フェウスは反応しない。俺は『氷霊剣』を発動させた状態で様子を窺う。
相手は俺の能力をここまででしかと理解できたはずだが、余裕の態度を崩していない――いや、これは策もしくは奥の手があると考えるべきだろう。あるいは復活を繰り返すことで、フェウスにメリットがあるのかもしれない。
それが一体何なのか。またどういう手なのか……考える間に、フェウスから言葉が。
『ならば、これでどうです?』
炎の収束。おそらく炎属性上級魔法『フレアハリケーン』だ。炎の渦が対象者へ向け襲い掛かる魔法。
俺はそれに対抗するべく、剣を構える。使用するのは先ほどと同じ『ホワイトダンス』。
『同じ攻撃で、通用すると思っているの?』
フェウスの見立てでは、『フレアハリケーン』ならば防がれることはないと思っているのかもしれない。俺は構えを崩さないまま、フェウスを見据える。
『いいわ。ならば、見せて差し上げましょう――今までのお遊びとは違うわよ』
魔法が放たれる。圧倒的な魔力が炎の渦と共に襲い掛かり――俺は、剣を薙いだ。
先ほどと同様、炎と氷がせめぎ合う。さっきと比べフェウスの魔法も相当な魔力を乗せているためか拮抗する。
下手をすると俺が押し負けるかもしれない――などと思った直後、氷が僅かに炎を飲み込んだ。今だ、と思った俺は追撃の一撃を放つ。結果炎の渦さえも飲み込み――また同時に俺は相手の目論見を察し、魔法詠唱を開始した。
氷が再びフェウスを飲み込もうとする。だがさすがに相手も二度目ということもあり軌道を読み、避けてみせた。
『――ここまでは、予想の範疇』
フェウスとしては『フレアハリケーン』で気を引かせておいて別の魔法を、という感じだろうか。そして収束する魔力は――間違いない。
火属性最上級魔法『エクスプロード』。大規模な爆発により周囲を焦土とする魔法。
「そんな魔法まで使ってくるとなると、評価はしてもらえたみたいだな」
『あなたは他の人間とは異なり、膨大な力を内包していることは認めるわ。けれど、私を倒すことができない以上、敗北することなどありえない』
「なら――そのありえないを実現してみせるさ」
俺は唱えていた魔法を発動する。フェウスが使用する魔法は爆発を引き起こし無差別に業火を撒き散らす厄介な魔法だが、俺が発動したのはその対抗策としてのもの――氷属性の、最上級魔法を繰り出した。




