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賢者の剣  作者: 陽山純樹
動き始める物語

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王への提言

 俺は王達を引きつれ、脱出路から外に出る。


 ダミーの魔法は驚くほど精巧に王達を模倣することができた。で、隠し持っていた短剣で自殺をしたことにして――俺達は、魔族達に気付かれることなく森まで辿り着いた。

 大丈夫だとは思うが……念の為、魔族達がシナリオ通りに動くかを観察する必要はある。とりあえず使役している使い魔の一体に魔法で指示を送り、監視させることにした。


「……さて、ここからどうするべきか」


 王は森の中で呟く……これは完全にシナリオ外であるため、まず王の存在を露見しないようどうにかする必要がある。

 もっとも、俺一人で王達の行動を制御し続けるのは難しい……だからこそ、手は考えてある。


 俺はまず遠隔操作している別の使い魔に魔法で密かに呼び掛ける。とある人物達の動向を探っているのだが……その人が、近づいてきていると報告が返ってくる。

 よし……ガッツポーズしたい衝動を抑えつつ、王へ進言する。


「陛下。このまま都を離れた方がいい……まずは、近隣の町へ。とはいえ、その格好ではまずいでしょう。少々お待ちを」


 腕輪で収納箱を生み出し、そこから灰色の外套を取り出す。


「召喚魔法の応用か」


 王が言う。俺は小さく頷き、


「はい。知人にこういう魔法を使う人がいまして、便利だと思い学びました」


 俺は適当に誤魔化しつつ外套を差し出す。王は「すまん」と一言呟いた後、法衣を脱ぎそれを羽織った。


「法衣は、貴殿が預かっていてくれ」

「わかりました」


 承諾し、俺は収納箱にしまう。外套だけでも見た目でずいぶんと違うので、これで誤魔化すことはできるだろう。


「しかし、町に入った後はどうするべきか」

「まずは身を隠すことが先決です。王が存命だと知られると、今度こそ危ない」


 そう言いつつ、町への方向を手で示す。王は頷き、王女と共に歩き出す。


 茂みをかき分ける音だけが、しばし響く……俺は使い魔を呼び掛け観察対象の状況を探りつつ、森を進む。タイミング的には森を出た直後くらいが演出的にもいいかなと考えたのだが……どうやら、相手の方が早かった。

 森の外で、甲冑を着ていることで生じる金属的な音が聞こえた。王達は一瞬警戒したのだが、俺はそれに近づいていく。


 やがて森を抜けた……俺の歩みに従いついてきた王はここで、声を上げる。


「お主は……!」


 騎士――たった一人、騎士がこの場に存在していた。

 金縁の装飾が成され豪華な剣を下げた年配の男性――騎士団の副団長である。名前は確か、フオレ=オルラーク。


「陛下……!」


 フオレは王と王女を見てすぐさま跪こうとしたようだが、それを王は止めた。


「待て、そのままでよい……フオレ。ここに来たのは?」

「はっ! 私達は陛下が捕らえられたと知り……脱出路から、救い出そうと動いていたのです」

「一人か?」

「はい。隊の他の者は負傷、もしくは既に……援軍を請おうと思いましたが、一刻も早く救い出すべきかと思い、一人で――」


 フオレ……彼はNPCであり仲間になることはないキャラ。エイナのシナリオに関わる人物であり、彼が発した通りゲーム上でも俺と同じように脱出路を逆走し王を救いに来た人物である。

 だが、奪還には失敗した……その詳細が語られることはゲーム上ではなかったが、あと一歩の所で――と、ずっと悔やんでいるというのをエイナは聞くことになる。まあ一人であったこともあるし、正直仕方のない話だとは思う。


 彼が退却して以降、城は周囲の街道を含め厳戒態勢に入るため、奪還が不可能になる……まあ俺なら魔法を使って易々と突破できると思うが、牢や周辺も警備が厳しくなる可能性を考えれば、見つかるリスクは高くなっただろうな。

 考える間に、王が一切の事情を説明する。するとフオレはこちらに視線を向け、


「感謝する……ルオン殿」

「いえ、私は依頼に従ったまでですので」


 手で制し――俺は、騎士へ言及する。


「騎士フオレ。こうして王様を救い出すことには成功しました……が、健在であると魔族に知られれば、護衛も少ない以上今度こそ危機的な状況に陥るのは間違いありません」


 語った直後、フオレも沈痛な表情を浮かべる。


「……魔族が襲来した時点で迎え撃つ準備は完全ではないにしろ整ってはいた。しかし、奴らは容易く蹂躙した……」

「力が足りないのは明白です……今は存命という事実も隠すべきだと思います」


 ――これが、シナリオを変えないための策である。王達は潜伏するべきだと進言し、物語の後半まで隠れてもらうことにする。


「現在、魔族の脅威が大陸を襲っています……まずは力を蓄えるべきです。しかし、繰り返しますがもし王様が健在だとわかれば――」

「うむ、儂もそれは理解している」


 王が述べる。そしてフオレに対し発言した。


「反撃の機会を待たなければならないだろう……周辺諸国がどのようになっているか情報収集を行いつつ、反撃の時を待つ」

「はい……しかし、反撃とは――」

「それに関しては、一つ提言が」


 俺が言う。同時に視線が集まり……緊張状態に陥りつつも、言葉はしっかりと出た。


「周辺諸国も現在、魔族達の攻撃を受けているはず……この国の騎士達だけが行動してもおそらく押し潰される。今後情報を収集し、他国も反撃ができるようになるのと同時に動き出すべきだと思います」


 ――これには、ある程度考えがあった。五大魔族の内四体を倒した段階で、様々なイベントが発生し始める。その時各国の騎士達が一斉に蜂起する。そして最後の五大魔族が攻撃を仕掛け……主人公がそれを倒し、魔王の結界を打ち破る力を得る。


「他国の騎士団と連携し、全ての準備が整った段階で反撃を行うべきです。それくらいしないと、今の魔族の勢いには抗えない」

「うむ……悔しいが、それしかあるまい」


 準備が整った段階、というのが王の中でどういう基準なのか多少気になるが……とはいえすぐ、というわけではない。

 エイナが主人公である場合、他国の騎士団に関する情報が出てくる。彼女はまず魔族達と対抗するために他国の騎士団へ援軍を請うべく動くのだが、その大半が全く動けなかったり、あるいは人数が少なすぎて協力するのも難しいというレベルである。


 だからこそ王達も動けないだろうからこういう提案をするのだが……この辺りについては適宜使い魔を用いて観察する必要があるだろう。行動のタイミングが早ければ諌めに行くのも一つの手。厄介事が増えたが、本来死ぬはずだった人物を助けた以上、やらなければならない。


「陛下……ひとまず、移動を行いましょう」


 ここでフオレは語る。


「その格好ならば、町の中でも自然に行動できましょう。馬を用意します」

「わかった」

「ルオン殿の言う通り、しばらくの間は力を溜めるために隠れる必要があります……私の兄が保有する別荘があります。ひとまずそこへ」

「……うむ」


 王は頷く――よし、俺の考えた通りの場所だ。フオレは王の救出ができなかった後、彼自身今語った場所に潜伏する。そしては彼自身最後は発奮し、他国の騎士達が動き出すと同時に行動し始める。シナリオ通りに動いた段階なら王の存在が認知されても大丈夫だと思うが、それまでは……エイナがその場所を訪れることもあるので、さらに釘を刺しておこう。


「騎士フオレ。隠れる場所は都などから離れていれば問題ないと思いますが……不愉快かと思いますが、これだけ劣勢である以上、もしかすると騎士の中にも造反者が出るかもしれません」


 ちなみにそういう人物はサブイベントで出てくる。フオレも王もその可能性を考慮してか、険しい顔をする。一理あると思っているようだ。よし、これなら――


「魔族と手引きする者などが出現するかもしれない以上、当面王様が存命であることは仲間内でも隠した方がいいと思います……先ほど言った通り、他国の騎士達が反撃できるくらいに力を取り戻すまでは隠さないと、危険でしょう」

「そうだな……」


 王も同意。そしてフオレへ首を向け、


「悔しいが、今は逃げなければならない」

「陛下……」

「フオレ。非常に厳しい……とてつもない戦いが始まろうとしている。焦燥募る日々もあろうが、ついてきてくれるか?」

「もちろんです」


 一礼するフオレ。よし、とりあえず大丈夫そうだ。もし何かあったのならば都度対応する必要はあるが……王は全てを了承しているかのように俺と視線を合わせると小さく頷いた。

 これで目的は達した……あとは王と王女をフオレの言う隠れ家まで護衛するだけでいい――そんなことを考えていた時、


「お父様」


 沈黙を守っていたソフィーリア王女が、声を上げた。


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