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賢者の剣  作者: 陽山純樹
神霊の力

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嵐の前の静けさ

「手記だな」


 シルヴィの手に握られていたのは、机の引き出しから出てきた一冊の手記。


「もしや、さっきの傭兵が記していた物か?」


 彼女は躊躇いもなく中を読み始める。クウザが横から覗き見るような形で読み始め――


 少しして、シルヴィの目が手記に釘づけとなった。


「……これは」

「見知った名でも出てきたのか?」


 クウザが質問する。シルヴィは最初答えなかったが……やがて「ああ」と同意し、次に俺へ首を向けた。


「ルオン、一ついいか?」

「ああ、いいぞ」

「まず確認だが、ルオンは転生前の知識により、この戦いがどういう道筋を辿るのかは知っていた。そうだな?」

「うん。実際は、全然違う展開になったけど」

「この手記を読むことも、物語の流れに入っていたのか?」


 ……どう返答しようか一考し、俺は――


「ああ、入っていた」

「物語の中で、この戦いはどういう位置づけだったんだ?」

「シルヴィが仲間にいた時だけ、価値が生まれる仕事だった」

「彼女もまた、物語の登場人物の一人だったのか?」


 クウザが驚きつつ問う。それに対し俺は肩をすくめ、


「補足しておくと、クウザもその一人だよ」

「え、マジか」

「一応言っておくけど、俺にとって見知った人物だったから声を掛けた面もあるけれど、それが仲間に引き入れた理由全てというわけじゃないからな」

「物語の中で、ボク達はどういう扱いだった?」


 問うシルヴィ。俺は一度俯き、言葉を選び、


「そうだな……物語自体、主人公の同行で加わった仲間が違うからな。ただ、悪い扱いじゃなかったよ」


「ルオンのようにはならないと?」

「ああ。俺みたいに死ぬ結末は用意されていなかったよ」


 苦笑を交え語った後……俺は、彼女に問い掛けた。


「怒っていないのか?」

「怒る? なぜだ?」

「俺はシルヴィやクウザのことを知っていた……そこまで言えば、何が言いたいかわかるだろ?」

「ボクの目的についても、知っているのに話さなかった、と言いたいわけか」

「ああ」

「……話すタイミングもなかったし、仕方のない話だろう。それに、率先して話すようなことでもなかっただろうからな」


 シルヴィはそう返答した後、手記に目を落としながらさらに質問した。


「ルオン、ボクは……目的を達成できるのか?」

「ここで手記を得たことにより、目的達成の第一歩は得たことになると思う。ただ、今後俺が知っている流れになるかどうかはわからない。今回の件だって、予想外のことばかりだった。どういう流れとなるのかは、俺にもはっきりとしたことは言えないな」

「そうか」


 手記を閉じ、彼女は俺に向き直る。


「この手記についてはボクが貰うことにしよう」

「横から見ていたが、どうやらさっきの傭兵はこの猟師小屋にいた人物と手を組んでいたようだな」


 クウザは小屋の中に視線を巡らせながら言った。


「シルヴィはその人物の知り合いということか……ま、いいか。そのうち事情を話してくれよ」

「場合によるけれど、善処しよう」


 シルヴィはそう応じた後、俺と視線を重ねた。


「戻るか?」

「そうだな、ここでやるべきことは全て終わった」


 断定した後、俺は仲間達に告げる。


「戻るとしよう……野盗もとい、魔物化した傭兵を倒したことについては、町の人に伝えないといけないな」






 町長に全て魔物を倒したことを報告し、翌日――俺達は町を出た。


「戦いの疲労は残っているか?」

「結構魔力を吸われたからな。体は多少重いが、あと半日もすれば回復するだろう」


 シルヴィは俺の質問にそう答えると、空を見上げた。


「しかしルオン。ボクやクウザのことが描かれているとなると、ボクらもまた、魔王との戦いに関わる人物だったというわけか?」

「そういうケースもあった、という感じかな」

「物語の中に出てくる人物については、何か理由があるのか?」

「それはわからないな……ただ一つ言えるのは、神霊などの存在についてほとんど語られていなかったから、人間中心の話だったということくらいか」


 なぜゲームの世界がこうして現実となっているのか、という疑問はあるが……ま、それは魔王との戦いが終わった後にでも解明すればいいか。


「で、今後の予定はサラマンダーの契約へ向かう、ということでいいんだな?」


 クウザが問い掛ける。俺は即座に頷き、


「ああ、ひとまず賢者の末裔達も目立った動きを見せていない……今のうちに、やれることを済ませてしまおう」

「よし。案内役は任せてくれ」


 クウザが先導。俺達はそれに追随。

 道中、話題としてはもっぱらサラマンダーとフェウスのこと。


「ルオン、契約をする際問題となりそうなことはないのか? 例えばサラマンダーの住処を魔族達が狙っているとか」


 ふいに発せられたシルヴィの疑問。けれど俺は首を左右に振る。


「大丈夫。騒動はあったみたいだが、解決している」


 使い魔による事前の情報で、サラマンダーに関するイベントについては決着がついているので、住処を訪れてもさして問題はない……まあイベントがあったとしても今のソフィア達の能力なら楽勝だろう。


 場所は大陸に複数ある火山の一つ、リテオ火山の麓にある洞窟。中は火山の影響からかそこそこ暑く、場所によっては溶岩なども散見される。


 で、サラマンダーなのだが……名前から考えると火の力を持ったトカゲに似た生物のはずだが、このゲームでは人間の姿をしている。見た目は男性で、性格は……まあ、なんというか。


「個体によって違うけど、文献では基本大真面目とか記されていたな」


 クウザが語る。精霊と契約しているわけではないが、生態については把握しているらしい。


「概ね、そんな感じのイメージでいいと思うぞ。ま、ソフィアさんならあっさりと契約できるだろ……ところで、サラマンダーについてもレーフィンさんとかアマリアさんのように、精霊達を統括する存在と契約するのか?」

「そもそも、他の精霊のように統括する存在がいるんですか?」


 ソフィアの疑問。そういえば他の住処では同族の姿をゲーム上でもよく見るのだが、サラマンダーだけはあまりいなかった気がする。


「その辺りの心配はしなくていいですよ」


 レーフィンの声。彼女は姿を現すと解説する。


「サラマンダーは住処にいる時、基本眠っていることが多いですからね。人間が来れば相応の精霊が姿を現します」

「王といった存在はいるのですか?」

「いえ、基本は個々に活動するばかりなので……ただ、ソフィア様に付き従う力を持つ精霊は私も知っていますよ。おそらくその精霊が加わることになるかと」

「レーフィン、当然事情は話すんだよな?」


 確認の意味を込めて問うと、レーフィンは即座に頷いた。


「はい。これで我ら四大精霊と契約できるわけですが……ちなみに、物語の上ではどういった効果がありましたか?」

「多少の身体能力向上と、魔法の威力が増加するってことくらいかな。契約そのものについては取り立てて大きな出来事はない。要は契約者自身の扱い方次第ってことだ」

「アカデミアでその辺りはじっくりやろうじゃないか」


 クウザが言う。俺は小さく頷きつつ、先へと進む。

 先は少々長いが、さしたる障害もなさそうなので問題なく辿り着けるだろう……そうした中で、フェウスのことを考える。


 火と風を司る存在であるフェウスだが、不死鳥という前世でもわかりやすいイメージを兼ね備えた神霊だった。もし前世のイメージ通りであるとしたら、倒しても蘇ってくるはずだが……まあその方が個人的にはいい。もし戦うとなれば全力でやれる。


 ただ倒せないというのは、決着をつけることが難しいという見方もできるわけだが……この辺りは出たとこ勝負かもな。

 色々考えつつ、俺達は進む……旅程は順調。今は嵐の前の静けさという感じなのかもしれないと思った。


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