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賢者の剣  作者: 陽山純樹
神霊の力

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三人の力

 瘴気を伴い突撃してくる魔物化した傭兵……シルヴィの『ベリアルスラッシュ』を真正面から受け切る以上、まともに付き合っていたらまずい。だからなのかシルヴィもソフィアも回避しようと動き出す。


 それはクウザも同じで、詠唱を行いながら後退。それに合わせ俺も引き下がり……それでも傭兵は突撃。狙いは、ソフィア。


「――押し潰せ!」


 そこでクウザが魔法を放った。水流で相手を押し潰す水属性中級魔法『ストリームインパルス』だ。怒涛のごとき水流が傭兵を飲み込み、物理的な衝撃に加え虚を衝かれた形となったためか、大きく吹き飛ばされた。


「――アマリア!」


 直後、ソフィアが叫んだ。ウンディーネの名を呼んだ彼女の刀身から、魔力が溢れる。

 水流に拘束されている傭兵に追撃をかける形か――彼女は剣を掲げる。そのまま傭兵へ向かっていくというより、立っている場所から傭兵に攻撃を繰り出そうとしている様子。


 そして彼女は剣を地面に叩き付け、刀身の先端から氷が噴き出した。これは氷属性魔導中級技『アイシクルウェーブ』――氷柱が波のように押し寄せ、相手をズタズタにする遠距離攻撃。


 傭兵は、それを回避するべく動いたが、無理だった。氷柱が彼の体を飲み込み、氷漬けとなった。


「……さすが」


 シルヴィは声を上げ、剣を構えながらゆっくりと近づく。ソフィアも警戒しながら接近し、クウザも詠唱を行い援護する態勢を整える。


 これで終わりだとは誰も思っていない。驚異的な魔力を所持している以上、戦いはまだ続く……そう思った矢先、氷が砕ける音と共に傭兵が氷から抜け出した。


『――ガアアアアアッ!!』


 獣の雄叫びを上げ、傭兵はシルヴィに迫る。彼女はそれに応じようとしたのだが、それよりも速く相手が迫る。


「ちっ!」


 シルヴィは舌打ちしながら傭兵が放った剣を受ける。だが次の瞬間、傭兵はさらに前に出て――突如、空いた左手でシルヴィの右肩をつかんだ。


 何を、と思った直後、シルヴィから呻き声。直後、ソフィアが横から剣を握る傭兵の右腕へと攻撃し、シルヴィは相手の拘束から逃れた。


 傭兵はすぐさまソフィアに標的を変える。左手を伸ばし、それを回避しようと動いたソフィアだったが、攻撃に転じていたため一歩対応に遅れる。


 シルヴィが背後から斬り込み、さらにクウザがさらなる『ストリームインパルス』によって妨害したのだが、その寸前傭兵はシルヴィと同様ソフィアの右肩に手を置いた。剣を繰り出すよりもその動きを優先するような形であり――傭兵は、吹き飛ばされた。


「そういう……ことですか」


 ソフィアは言う。後退し体勢を立て直したが、様子が変だった。

 動きが、鈍くなっている。これは一体――


「……魔物の中には、特殊な力を持っている奴がいる」


 クウザが、吹き飛んだ傭兵の姿を見ながら語る。


「そういう魔物は基本、理性が吹き飛んでしまっているが……それと引き換えに得た能力は、時として魔族の実力を上回るポテンシャルを発揮する」


 その言葉と共にソフィアとシルヴィが隣同士に立つ。迎え撃つ構えだが、やはり様子がおかしい。

 と、俺はここで一つの推測を導き出し、二人に呼び掛けた。


「まさか、魔力を……?」

「そうだ。手に触れた瞬間、結構な魔力を吸い取られた」


 シルヴィが応じる……吸収能力。それが理性と引き換えに得た傭兵の能力というわけか。


 ゲームの時、そうした能力は見せなかったが……これはもしかすると時間が経過したからこそ発現したのだろうか? どちらにせよこいつは魔物を食い能力を強化し、さらに魔力を奪う……想像以上に厄介な相手だ。さすがに無限に成長はしないと思うが、このまま放置すれば大惨事を招く可能性は極めて高い。


「思った以上に魔力を奪われたことを考えると、あまり余裕もなさそうだな」


 シルヴィは言う。次いで剣を構え、呼吸を整える。


「ソフィア、次で決めるくらいのつもりでやるぞ」

「わかりました」

「なら、私もできる限りのことはする」


 クウザも言う。三人がそれぞれ力を収束させている間に、傭兵もまた体勢を整える。


 確かにダメージは与えられているはず。だが見た目の上で変化がほとんどない。動きも変化がないのがあまりに不気味であり、ソフィア達で倒せるのかと思ってしまう。


「……ルオン、手出しはするなよ」


 そこへ、シルヴィが再度俺に釘を刺す。


「ボクらで対処する。これほどの難敵……厄介だが、ボクらで対処できるくらいの存在ではあるはずだ」


 語った後、シルヴィは小さく肩をすくめた。


「それに、ボクの目的を考えると……こんな相手に負けるようじゃあ、どうしようもない」

「なんだ、戦う目的はあるんだな」


 クウザが茶化すように言う。シルヴィは俺達の仲間になる時目的があると語っていたわけだが、クウザに対しては目的があることも話していなかったようだ。

「当然だ……見ていろ、とっておきを奴にくれてやる」


 宣言し、さらに魔力が高まる。そこで俺はソフィアを見た。すると、


「……ルオン様」


 視線を感じ取ったのか、彼女が声を上げた。


「私にも、目標があります。そこに到達するためには、ここで助力を願うなんてことはできません」

「その目標は、魔王を討つということではなくてルオンに並ぶといったことか?」


 シルヴィが面白そうに言う……と、ソフィアは肩を一瞬震わせ、


「……聞いていたんですか?」

「まさか。そのくらいの目標は持っているだろうと、ボク自身思っていただけさ。ソフィアならできると思うけどね」

「……ええ」


 言葉と共にソフィアの魔力も高まる。しかし、生じる魔力は今まで感じたものとは異なっていた。これは――


「ソフィアさんも、色々と頑張っているようだな」


 クウザの指摘、するとソフィアは律儀に応えた。


「まだ未完成ですけどね……しかしこれが今、私が持ち得る中で最高の技」

「なら、それに応じないといけないな」


 彼は声を発し――詠唱によりさらに魔力を高める。今までと雰囲気が違うところを見ると、見せてこなかった新たな魔法か。

 傭兵もただならぬ空気を感じ取ったか、警戒し始める。同時に俺はこの攻防で決着がつくだろうと直感。そして、傭兵が先に動いた。


 突撃を仕掛ける傭兵。それに応じたのは、クウザ。


「氷霊よ! かの脅威を眠らせよ!」


 言葉と共に、傭兵が走る空間が突如凍結を始め、大輪の花を咲かせた。これは氷属性上級魔法『ロストダイヤモンド』。空間自体を凍らせ一瞬で対象を氷結させる魔法だ。


 傭兵は凍り、動きを止める。しかしそれが一瞬のことだというのはすぐに理解できた。傭兵は持ち得る魔力を利用し、突破を図る――だがそれよりも先に、シルヴィとソフィアが動いた。


「――終わりだ!」


 シルヴィが叫ぶ。傭兵は氷を砕き突破しようとしたが、それよりも先にシルヴィの斬撃が入った。


 動きがどこかぎこちないが、一目で彼女の上級固有技『一刹那』であることがわかった。目にも止まらぬ速さで連撃を重ねる。とはいえやはり未完成なのか、ゲーム通りの十五連撃とまではいかなかった。


 しかし、確実にダメージは入った。もしゲームと同じ威力ならば、相手を窮地に追いやった可能性もある。

 傭兵は氷と彼女の剣により大きく動きを止め――刹那、ソフィアが魔力を込め渾身の一撃を繰り出す。


 その剣先に秘められた魔力は、これまでの魔導技とは明らかに違った。俺にも理解できる。それは、彼女と契約する三精霊の力が融合した、最高の一撃――


「やあああっ!」


 声と共に剣が傭兵に振り下ろされる。縦に両断する勢いで放たれた彼女の剣……それが確実に傭兵を捉え、とうとう相手は動かなくなった。


 決まった――そう思った直後傭兵は塵となり、戦いが終わった。


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