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賢者の剣  作者: 陽山純樹
神霊の力

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魔物化した傭兵

 魔物化した傭兵の姿を捉えた瞬間全員が剣を抜く。それに反応する相手だが――様子見なのか、動かない。


 見た目はボサボサの髪に革鎧と手には長剣――ただ瞳に宿す光が薄気味悪く、さらに禍々しい瘴気を発しているため一目で既に人間をやめているとわかる。


 その中で俺が特に注目したのは左手に握るモノ。それは――


「……動物の、足?」


 ソフィアが言う。犬や猫くらいのサイズの足……ただそれは動物の足とはどこか雰囲気が違う。これは――


「魔物を、食っているのか?」


 シルヴィが呟く。その言葉と同時、傭兵がその足を口に運び――食った。


 もしや、魔物を呼び寄せたのは食うためなのか? ただ魔物もすんなりと食われるのを待っているというのは信じられないが――


「操っている、と考えた方が無難だな」


 クウザが言う。確かに魔物達は俺達が近づいても襲ってくる気配が一切ない。となると、傭兵は魔物を呼び寄せ操り、自身の食料とするために何もさせずに待機させているということになる。


「気配的には、相当な力の持ち主ですね」


 ソフィアが言う。あくまで感じ取れる魔力による推測だが……気配の大きさだけなら、幹部級とまではいかなくとも、上位クラスの魔族と肩を並べるだろうか。


 もしや、こいつはギルドの依頼を受けた戦士達に倒されることなく、こうやって魔物を食い能力を強化してきたということか――ただ普通、魔物はこんなことできない。


 魔物は基本魔力を糧として生きていくが、取り込める魔力の総量には限界がある以上、食い続けて強くなるというのは難しい。

 だが、目の前の傭兵は違う。人間だからなのか、それともこいつが異常なだけなのか――ここで、クウザがさらに声を発した。


「……想像以上にヤバそうな相手だな。どうする?」

「相手もボクらに警戒している様子」


 次に発言したのは、シルヴィ。


「何か能力を隠し持っている可能性がある。注意して戦うしか――」


 言いながら一歩前に出たその瞬間、傭兵が動いた。


 抜身の長剣で横に薙ぐ――それが一筋の風の刃となし、俺達へ猛然と向かってくる。

 見た目上、威力は低そうに思える。というより速度を重視した技なのだろう。


 けれどシルヴィは既に反応し、防げたはずなのだが――俺は反射的に体が動く。

 剣をかざし風の刃を受け止める。ギィン、という甲高い金属音が周囲に響き、後に残ったのはシルヴィをかばうように剣をかざした俺の姿。


「……今のはおそらく傭兵の時の技かな。魔物化して強化されているとは思うけど」


 俺は分析し一歩前に出ようとする。だが、


「待て、ルオン」


 シルヴィの声。何が言いたいかわかったため、俺は彼女に声を掛ける。


「戦いたいというのは理解できるけど、緊急事態とも言えるし――」

「だからこそ、だ。確かにこいつは強いようだが、このくらいの相手、倒せなければボクらは今後魔族との戦いで役に立たないんじゃないか?」


 俺は沈黙する。その間に、シルヴィは傭兵を見据え続ける。


「ルオンが警戒するのもわかるが……それでも、ここはボク達に」


 ――予定外の事象が起きたために俺は神経を尖らせているのは間違いない。だからこそ俺も戦う気だったのだが、こうした状況下であるからこそ、シルヴィは提案しているといった感じだろうか。


「私もそれには同意します」


 ソフィアも言う。俺抜きで戦う意志は固い様子。だから俺も、小さく頷いた。


「それじゃあ、やるとしますか」


 クウザが杖を構え――三人が横並びに立ち、傭兵と対峙する。それを圧するような相手の気配だが、それと共に俺は傭兵の後方にいる魔物が気になった。


 茂みの奥から姿を現さないのだが、間違いなく周囲には魔物がいる。動き出す様子はまったくないが、傭兵自身が魔物達を操っているのだとしたら、いつ何時襲い掛かって来てもおかしくない――


 直後、シルヴィが動いた。疾風のごとき速度で間合いを詰め、剣を薙ぐ。それは中級技の『ベリアルスラッシュ』。横に一閃された剣は吹き飛んでもおかしくない威力を備えているのは間違いなかった。


 だが、傭兵は平然と受けた。そればかりか勢いのついた彼女の刃を、しっかり受け止めさらには弾き返す。


 身体強化も相当なレベルでなされているらしい。シルヴィは力勝負は不利と悟ったか、後退する。傭兵は追撃でもするのかと思ったが、仕掛けてこない。迫られても冷静に対処しているが……俺から見れば、相手にするのが面倒で動きたくない、という風にも見える。


「――光よ!」


 彼女が後退した直後、今度はクウザが魔法を放った。青白い光ということは『ホーリーランス』か。

 大いに魔力を収束した光の槍が、傭兵へ向かって放たれる。威力は十分。対する相手はやや緩慢な動きで剣を構え、


「――雷光よ!」


 さらにソフィアの『ライトニング』が繰り出された。光の槍は傭兵も受けたが、雷撃に対しては完全に対応に遅れ、まともに当たった。

 雷光が傭兵の体を貫く……が、動きを一瞬止めただけで見た目上ダメージはない。


「耐久能力も、高いようだな」


 シルヴィはコメントした後、さらに動き出す。繰り出そうとするのは先ほどと同じ『ベリアルスラッシュ』だが、傭兵が応じようとしたその瞬間、剣の動きが大きく変化する。


 フェイント――理解した直後傭兵も何をするのか悟ったか初めて反撃に転じようとする。だがそこにクウザの『ホーリーショット』が入った。腕の部分に直撃し、ダメージはないにしろ動きを一瞬だけ硬直させる。


 シルヴィとしては、その一瞬で十分。続けざまに高速の剣である『瞬息の太刀』が、見事決まった。

 そこに、ソフィアが接近して攻撃を仕掛ける。その魔力の大きさは相当なもので――今までも放っていた魔導上級技『暁の地竜』だとわかった。


 渾身の剣戟がソフィアから放たれる。傭兵は回避に動こうとした様子だったが、一歩遅れ、直撃。右肩から縦に入った剣から、間違いなく手ごたえを感じたはずだ。


 これで撃破か――と俺も思ったが、傭兵は動きが鈍くなることなく仕掛ける。その狙いはソフィア。防御を捨て攻撃に転じた傭兵の一撃だったが、対する彼女は剣で受けその反動で後退した。


 その間にシルヴィは追撃を行う。クウザが『ホーリーショット』でさらに援護をして剣の動きを留め、今度は『天衝烈波』により斬撃を傭兵に叩き込んだ。結果、傭兵もとうとう後退する。


 だがまだ滅ぶ様子はなく、シルヴィはさらに仕掛けようとした。

 刹那、傭兵から魔力が噴きだす――それは、俺ですら驚かせるほどの量だった。


「っ――!?」


 反射的にシルヴィは引き下がる。ソフィアもまた即座に後退し、そこへ傭兵が剣を振った。

 彼女達を狙ったものではなかった。剣先から黒い衝撃波が放たれ、俺達へ向かってくる。


「――守れ!」


 その時、クウザが魔法を行使する。おそらく『マジックシールド』の応用で、ソフィア達の前に薄緑色の防壁が出現した。

 これなら――そう思った直後、障壁と黒が激突する。クウザの魔法はどうにか堪えきったが、それでも思いの他威力があったのか、相殺した。


「……攻撃は、食らったら危なそうだな」


 シルヴィが言う。


「加え、相当耐久力も高い。こちらに仕掛けてこないのは余裕なのか、他に理由があるのか――」


 言葉の直後、さらに傭兵の魔力が満ちる。戦いで慣れている俺達なら問題はないが、一般の人なら立ちくらみや、下手すると倒れ込む可能性すらあるほど。

 どれだけの魔物を食ってここまで強くなったのか……疑問が尽きない中で、ダメージを受けたためか――傭兵が先に動き出した。


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