彼女の提案
シルヴィが復讐相手と戦うにはいくつか段取りがあるのだが、その最初のきっかけがこのイベント。ギルドの依頼内容は『野盗の退治』というものだ。この依頼、実際は野盗の仕業ではなく瘴気の影響を受け魔物と化してしまった人間が原因により発生している。
その人物は元々色々悪さをしていた傭兵で、騎士などに追われている時、瘴気のある場所に足を踏み入れ魔物化するという、ある意味自業自得な存在なのだが、このイベントの最後に到達する猟師小屋……傭兵を撃破後調べられるようになるのだが、そこにシルヴィの復讐相手に関する情報が眠っている。
ただ、これは本来ギルドの依頼を受けなければ発生しないはずだが……誰かが受けたのかもしれないし、あるいはそれとは関係なく発生しているのかもしれない。
そしてこのイベント、ソフィア達には話していない――以前アラスティン王国で説明をした際、シルヴィやクウザについても言及しなかった……話したのは転生し物語としてこの世界のことを知っている点と、これから起きる南部侵攻や魔王の魔法について。サブイベントについて事細かに説明するのもカナン達がいる手前できなかったのもあるし――
「……ふむ」
ここで、クウザが俺を一瞥し声を上げた。
「どうやらルオンさんは、知っているみたいだな」
「……態度に出てたか?」
こちらが返答すると、クウザは突如笑みを浮かべる。
「そうか、やっぱり知っているのか」
「――って、ちょっと待て。カマかけたのか?」
「うん」
あっさりと頷くクウザ。こ、こいつ……。
「で、これはどういう内容なんだ?」
「えっと、だな――」
「ちょっと待った」
ここで、シルヴィが俺達の会話を止めた。
「ルオン、質問だがこの一件は魔族と関係あるのか?」
「……魔王が襲来したことにより起こった出来事ではあるが、直接的な関係性はないな」
「それじゃあ……この件について首を突っ込んだ場合、どれだけの時間が掛かる?」
「物語の上では、長くて数日だったはず」
「それくらいなら、大丈夫でしょうか」
ソフィアが言う。彼女達の様子を見ていると、調べる気ではいるみたいだな。
「……現状、物語の主人公達が五大魔族と戦うような状況にはない。やってもいいかもしれない」
俺が言及すると、今度はシルヴィがクウザやソフィアへ話す。
「タダ働きになりそうだが、それでも?」
「放ってはおけません」
「まあそれは……私も同意だ」
相次いで答えた二人に対し、シルヴィも同意なのか頷き――俺へ首を向けた。
「今回のことだが、ボク達だけで色々調べて回りたいんだが」
「俺抜きでやるということか?」
「無論共に行動してもらうが、事件解決については事情を知らないボク達がやる。ルオンばかりに頼ってもいられないだろうし、ボクら三人で対応するような場合もあるだろう。今のうちにこういうこともやっておいた方がいい」
……シルヴィの言うことは一理あるので、俺としては頷く他ない。
「わかった……ただし危険だとわかった時点で俺も相応の動きをするからな」
「ああ」
シルヴィは頷く……依頼の難易度はそれほど高くない。面倒な敵も最後に登場する魔物化したボスだけだ。
ただ、このボスが非常に厄介……人間としての技術は高かったのか剣技を使いこなし、さらに魔物化の影響によって防御力が相当高くなっている。ゲームでも長期戦に陥るケースが多かった。とはいえステータス異常系の技といった特殊な攻撃は使ってこないので、持久戦に対応する準備をしていれば低いレベルでも対応できる。
現実となった今ではどうなのか……しかしどういう能力であれ、少なくとも現時点のソフィア達ならば問題なく攻略は可能だろう――予定外のことが起きなければ。
「では、お手並み拝見といこうか」
俺が言うと、シルヴィは「任せろ」と答え――こうして、ソフィア達だけの調査が始まった。
翌日から、俺を除いた三人は色々と行動を開始する。まず宿の前で簡単な話し合い。
「何はともあれまずは情報だ。二手に分かれて調べることにしよう」
提案したのはシルヴィ。ソフィアやクウザはそれに頷いた。
「ボクとクウザの二人で組んで情報を集める。ソフィアさんはルオンと」
「その場合、俺の扱いは?」
こちらが疑問を口にすると、シルヴィは即座に応答。
「基本はソフィアさんの動く通りに。もし正解とわかっても、できるだけ反応しないように」
――このイベントがギルドの依頼通りの流れだとすれば、まず町にある道具屋に話を聞く。その後情報を頼りにとある一軒の家を訪れると、そこには魔物化した人物がいて、それを追い掛け山へ――という形となる。
イベントの規模としては小さいのだが、これはシルヴィの復讐相手と戦うことのできる最初のイベントであり、まずは軽い導入から始める、といった按配なのだろう。ちなみにシルヴィが仲間にいない場合は、単に敵を倒して終わりというなんとも味気ない依頼となる。
「それでは、動くとしよう」
話し合いが終わり、シルヴィ達は動き始める。俺はソフィアに追随することにして……と、ここであることに気付く。
「なぜかシルヴィが仕切っているな」
「今回の形を提案したのは彼女ですし、それに加え一番行動的ですからね。性格的にもそういうところがあるようですし」
「……訓練中、こういう風に仕切っていることがあったんだな?」
「ええ。何でも一人で決めて動くという感じでしたね」
笑いながら語るソフィア。一人で突き進んでいくというのは窮屈に感じる面もあるが、ソフィアにとっては不快ではない様子。
「そうした生来の性格が出たのは、ルオン様が事情を話したからでしょう」
「……今までは、やっぱりぎこちなかったと?」
「接し方自体はあまり変わっていないと思いますけど、何かしら思うところはあったのでしょう」
……シルヴィの場合、俺が何かしら力を隠しているという事実を多少ながら知った上で仲間に入った。その辺りのことが気になって、あまり前に出なかったという感じだろうか。
「もし分かれて行動する場合、シルヴィなら臆せず前に進むことができそうだな……もっとも、警告を発したりする人物も必要だけど」
「クウザさんと性格的な相性もよさそうに見えますし、今のような分かれ方がいいでしょうね」
「そっか」
「それに私はルオン様の従者なので、離れるわけにはいけませんし」
固執するなあ……と、ここで俺達は雑貨屋に到着。まずはここに入る。見た目からゲームで話を聞いた道具屋ではないが……ソフィアが率先して店主の男性に話し掛けた。
「すみません、この周辺で起こっている騒動について話を――」
ソフィアが尋ねる間に、俺は俺で何かやろうかと考える。イベント通り事が進むというのなら、この時点でボスである魔物化した傭兵が町の周辺にいるはずだ。
俺は僅かに詠唱した後、一度店の外に出て使い魔を飛ばす。再び店に入った時、店主の声が聞こえてきた。
「ああ……騒動からずいぶんと経つんだけど、いまだに解決していないんだよ。ギルドからの依頼を受けて戦士がやってきたりもしたんだが」
……ん? と思った時、ソフィアはさらに質問する。
「その方々は?」
「どうなんだろうな。その辺りはギルドに連絡をとってみないとわからないな。けど、まだ野盗が出るってことは、倒してはいないみたいだが」
……もしかして、誰かが依頼を受け放置もしくは手におえないと判断して引き上げたのか? 俺は使い魔をイベントが起きる家へと向ける。野盗は逃げる際壁などを破壊するのだが……該当の家は、壁を直した形跡があった。
となると、これは……どうやら単純にイベントクリアとはいかない様子だと思いながら、俺はソフィア達の会話を聞き続けた。




