旅の途上の騒動
翌日、俺達はアラスティン王国の都を離れ、改めて北へ向けて出発する。事情を話したためなのか、移動する時の雰囲気も多少ながら変わっていた。
「――で、ルオンさん。南部侵攻についてはどうなんだ?」
というか、クウザがずいぶんと訊いてくる。おそらく好奇心からの事だと思うが、俺としては大変面倒。
「……物語の出来事に遭遇できるかどうかはわからないし、まだ南部侵攻の状況も決まったわけじゃない。下手に固定観念を持つのはまずいと思うが」
俺が見解を述べると、クウザは小さく息をついた。
「まあそうなんだが……けど、事情を知っているというのは相当なアドバンテージだな」
「それには同意するが、ボクらはそれに頼るような真似はすべきじゃないだろ」
そう意見したのは、シルヴィ。
「ルオンが把握しているからといって、彼に頼ってばかりでは強くなれない」
「ああ、それもそうだな……ま、いいや。話はこれまでにしよう」
どうやら終わりみたいだ……しかし、
「で、ルオンさん。本気を出して戦ってみないか」
「……唐突にどうした?」
「レーフィンさんや神霊ガルクが証言をした以上、疑う気はもうない。だが、実力については一度見てみたい」
……まあ間違いなく、一番興味のある部分だろうな。
「言っとくけど、その辺の魔物じゃあ相手にならないし意味ないと思うけど」
「本気を出すような必要もないと?」
「ああ」
「そうか……」
残念がるクウザ。肩を落とした姿に俺は苦笑するしかない。
「ボクも興味はあるけどね」
シルヴィも言う。一方ソフィアはこちらをチラチラみるだけで声は発しないのだが……クウザと同様、興味はあるといったところか。
「ちなみにだが、ルオン」
今度はシルヴィが語り出す。
「実は以前から開発している技があるんだが」
「技? ああ、それがどうした?」
「完成しているわけじゃないんだが、どれほど威力があるか一度攻撃を受けてもらって感想を聞かせてほしんだが」
「おい」
思わず呼び掛けると、シルヴィは肩をすくめた。
「何しても通用しないというのなら、技の流れを試す相手としては最高じゃないか」
……なんというか、仲間との雰囲気は変わっているが、悪い方向になってないか?
まあシルヴィやクウザからしたら茶化す意味合いもあるんだろうけど……というか、シルヴィが開発している技ってもしや固有技の『一刹那』だろうか。もしそうだとすると、習得時期としては早い気もするのだが。
ソフィアは俺達のやり取りを聞いてちょっと笑っているし……今後も同じ様子なら何か言おうかと考えた時、再びクウザから話が。
「ルオンさん、予定としてはサラマンダーの住処とアカデミア、どちらに向かう予定なんだ?」
「……都へ行くとなると少々回り道する必要があるからな……ソフィア、どう思う?」
「私は直接住処へ行くということで構いませんが」
まあそうなるよな……と、ここでクウザが口を開いた。
「それで、神霊フェウスと戦うことになるんだろ?」
「戦うかどうかまではわからないけど……そうだな」
「で、その住処と神霊がいる場所は近いと」
「レーフィンの話からするとそうらしいけど――」
俺はここまで言って、クウザが何を言いたいのか悟った。
「クウザ、それはつまり――」
「いや、ほら。神霊ガルクは分身だし、俺達はまだ神霊そのものを目の当たりにしたことがない。どういう存在なのか間近で見たいと思ったし……そのついでに、ルオンさんの実力を拝見しようかと」
「おい」
声を上げると、クウザは不満そうに言う。
「だってだな、神霊を従えるくらいに実力があるんだろ? 魔王の存在もあるからそれを現時点で隠しているのはまあいいとして、どの程度の力量を持っているのか詳しく知りたいって思うのは当然だろ?」
……もし俺がクウザの立場ならそう思うし、興味を示すのは仕方ないと思うけど……ちなみにシルヴィは沈黙を守っているが、クウザの提案に同調するような気配を示している。
そしてソフィアは、クウザの提案にオロオロとしている感じだが、彼に横槍を入れるようなことがないのを見ると、興味はあるのだろう。
「……ただなあ、それは俺の一存で決められないぞ」
「どういうことだ?」
「例えば水王アズアの住処は、海底洞窟だった。そんな場所、当然ついてはこられないだろ?」
「うんまあ、そうだな」
「そしてフェウスの住処……サラマンダーの住処の近くだったら、火山とかじゃないのか? ほら、住処の近くには活火山があったし」
「ガルクさんは知らないのか? もし安全なら、行ってもいいんじゃないか?」
どこまでもついてくる気のようだ。
「……ガルク」
『うむ』
子ガルクが俺の右肩に出現し、クウザへ話し始める。
『確か我が保有している知識では、フェウスの周辺には魔物がいないはずだ』
「それ、何か理由があるのか?」
『さあな。単に魔物の存在を避けたいだけなのかもしれん』
「ともかく、魔物の姿はないと……私達が行っても問題はなさそうなのか?」
『たぶんな』
「よし、なら行こう」
「簡単に決めすぎだろ」
俺は思わずツッコミを入れた。だがクウザは悪びれた様子もない。
「何を言う。仲間の戦力を把握するのは重要だと思わないか?」
下心満載なんだよなあ……それを隠そうともしないし。
「はあ……来るなと言っても無駄なんだろ? ただし、危険だとわかったら即退場してもらうからな」
「よし」
指を鳴らすクウザ。そうした姿を俺はため息をつきつつ眺めることとなった。
その日も予定を順調に消化して宿場町に到達。宿をとり酒場で食事でも、ということになり一同席についたのだが――
「……なんだか、雰囲気が暗いですね」
ソフィアが言う。クウザやシルヴィも同意するのか、店内を見回す。
彼女の言う通り、酒を飲む人間はちらほらといるのだが、その表情が一様に暗い。この辺りで魔物が出現したなんて話はなかったはずで、違和感があるのだが――
「訊いてみるか」
俺は声を発すると、近くを通りがかった女性の店員に声を掛ける。
「すいません……少々いいですか?」
「はい」
ここで俺は声量を落とし、
「……もしかして、この町の周辺で揉め事とか起きています?」
問い掛けに、女性はビクッと体を震わせた。ふむ、間違いないようだ。
俺はここでゲームの記憶を引っ張り出す。現在地と、シナリオの時期から考えてこの周辺の騒動と言えば――
「差し出がましいかもしれませんが、明日にはここを離れた方がいいかと思います」
女性が述べる。すると今度はソフィアが質問。
「何があるんですか?」
その言葉に女性は最初言いにくそうにしていたのだが、やがて話し始めた。
「野盗です。どこからともなく現れては人に怪我を。今は犠牲者は出ていませんが、そう遠くないうちに被害が……と、誰もが言っています」
「野盗、か」
シルヴィは頭をかきつつ、女性に言及。
「近隣に盗賊団などがいるのか?」
「いえ、そうした話は一つもないんです。」
――そこまで聞いて、俺の頭に一つの可能性が思い浮かんだ。ゲームの内におけるギルドの仕事でそういうのがあったはず。
これだけなら、単にそうしたイベントに関わるきっかけが生まれた、というだけにすぎない。けれど、俺は内心驚いていた。なぜなら――
「……ボクの顔に何かついているか?」
気付けばシルヴィへ視線を向けていた。俺は「何でもない」と答え、視線を外す。
そう、これは彼女に関連すること……このギルドの依頼は、シルヴィの復讐相手の情報を得ることができるイベントでもあり、この巡り合わせに少なからず驚いた。




