真実を話す時
ボスロの私室へ入ると、そこにはカナンが待っていた。将軍という地位を持った人が暮らす部屋だが、そこに王がいるというのは多少なりとも違和感が……けど、この場所が適していると判断したのだろうか。
考える間に、カナンが口を開く。
「待っていた、ルオン殿」
「……陛下、アティレやシェルクが護衛としてこの場にいたはずですが」
ボスロが問う。するとカナンは笑みを浮かべ、
「将軍が城内に入ったと報告を受け、退席を願った。まだ、話をするわけにもいかないから」
その言葉は、ソフィアのことについて語っていた。するとまだ変装をする彼女は、仮面だけ脱ぎ口を開く。
「……改めて、久しぶりです、カナン」
「ソフィーリア様も、よくぞご無事で」
本名で彼女を呼び、次いで王は俺達を一瞥。
「それで、ルオン殿を始めとしたその方々は――」
「今から、説明します」
ソフィアが俺達へ視線で座るよう促す。それに応じ俺達は着席。俺達四人はカナンとボスロにテーブルを挟んで向かい合うこととなった。
「まず、話をする前に一つ確認を」
先んじて俺は口を開いた。
「王女は健在だと理解されたと思いますが……事前に得ていた情報はどのようなものでしたか?」
「現在もまだ、バールクス王国に捕らわれの身になっている、ということだけ」
カナンが応じる。次いで彼は、ソフィアに質問する。
「バールクス国王は――」
「もちろん無事です。ルオン様に助けていただきました」
その言葉でカナンとボスロは俺を見る。
「それについて、今からお話いたします――」
彼女は、俺に助けられたことから始まり、どのような旅をしてきたかを説明する。カナンは五大魔族と戦ったという事実に驚き、また精霊と契約している事実にも、驚いた様子だった。
説明の時間はそれほどかからず……最後まで話し、彼女は自身の考えを語る。
「――そして、私自身ルオン様と共に魔王を討つべく、今後も旅をしていく決意を持っています」
「その中で、この国の戦いに参加した、と」
「はい」
「……事情は、わかりました」
カナンはゆっくりと息を吐き――ソフィアを見据え、話し出す。
「本当に、心配していました……以前、あなたの従妹であるエイナ様がこの国を訪れた。その時からあなたについての情報を必死に収集していましたが……こうやって、無事な姿を見れて安心しました」
「私も、こうして場を設けカナンと話ができたこと、嬉しく思います」
「……まだ、エイナ様には話していないのですか?」
「はい」
「それは、仕方のないことでしょう」
ボスロが、口を開く。
「現状、王達の生存が明らかとなれば、魔族達が狙うのは必定……人間側が反撃し始めた状況ではありますが、まだまだ予断を許さない状況。今はまだ、公表する段階ではないでしょう」
「しかしいずれ、話をすることになる……どのタイミングで公表を?」
カナンがソフィアに問う。彼女はしばし考え、
「まだわかりません……魔族との戦いがさらに優位になれば、話は別かと思いますが」
「ならば、その道筋を私達が」
強い言葉を放つカナン。ソフィアは彼を見返し――
「……私と同様、戦う意志を持っていると」
「ええ。無論、ソフィーリア様と再会できたことだけが理由ではありません」
「ならば、共に協力していくことにしましょう」
互いに頷くカナンとソフィア。ようやく彼女も王族と一定の関係を得ることができた。
今後は彼らと共に魔王との戦いを乗り越えていくことになるだろう……と、ここでボスロが俺へ顔を向けた。
「そしてルオン殿、あなたには感謝してもしきれないな」
「……いえ、私は当然のことをしたまでです」
「そうか……ソフィーリア様を助けた経緯だが、とある騎士の依頼という話だが、何かしらバールクス王国と関係があったのか?」
問われ、俺はどう答えようか迷った――が、ここで思う。隠し立てをするつもりはもうない。だから、
「……ソフィア」
名を呼ぶ。すると彼女は「はい」と答え、
「レーフィンを呼ぶのですね?」
「ああ」
「私やお父様を助けて頂いた経緯……それにも、事情があるのですね」
俺は頷く。次いでレーフィンが姿を現し、俺は口を開く。
「……カナン王、今語ることについては、ここだけの話にして頂きたい」
「無論です」
頷くカナン。次いで俺はシルヴィとクウザに目を向ける。
「二人も、いいか?」
「念を押さなくとも、秘密にするさ」
「私も同意だよ」
二人が相次いで答える。それを聞き、最後にソフィアと視線を合わせた。
「……今から話す内容は、ソフィアにとって良いか悪いかはわからないけど――」
「ルオン様には私の命を助けて頂いた。そしてここまで強くしてくださった。思いは、十分に伝わっています」
「――そうか」
俺は最後にレーフィンに視線を送る。彼女は頷き、俺は改めて口を開く。
「では、話します。とはいえ、信じられないことも多いと思いますが――」
俺はゆっくりと、この世界に転生したことから説明を始めた。
本来ならば信じられないと一蹴されてもおかしくない内容なのだが、レーフィンが「事実です」と後押ししたおかげで話を聞いてもらえた。さらに子ガルクまで話に加わり、今後この大陸で起こることを説明――そして、
「――大変興味深い話だな」
最初に感想を漏らしたのは、ボスロだった。
「まず、転生したという経緯については措いておくしかないだろう。私が特に気になったのは、魔王を倒す条件についてと、南部からの侵攻についてだ」
その言葉に対し、俺は説明を加える。
「現状、一人に賢者の力を集められなかったため、魔王が大陸を破壊する魔法を行使できる条件が整っています。しかし、最悪の展開だけは回避しようと動いている」
『それは我らが対応している』
ガルクが言う。とはいえ現状を認識した仲間やカナン達は表情が険しい。
「南部侵攻について、対策はしているのか?」
ボスロがさらに問う。するとそれにはレーフィンが答えた。
「私達、精霊が侵攻に際し動くつもりでいます。けれど、どれほどの戦力が来るかわからない以上、足りない可能性もある。戦力は集められるだけ集めるべきだと思います」
それには同意。なにせ時を巻き戻したリチャルが何度も失敗しているくらいだ……俺の能力を活用すれば乗り越えられる可能性は高いが――俺がいなくても大丈夫なようにしっかりと態勢を作っておくべきだ。
ある程度ゲームのシナリオに沿って魔王との戦いは進行しているが、予定外なことだって起こっている。南部侵攻の時だって想定外の事態があってもおかしくない。だからこそ、盤石の備えをするべきだ。
「その辺りについて協議をする前に、確認をさせてくれ。これは興味本位の部分だが」
さらにボスロは言う。何を言いたいのかは、俺にも理解できた。
「もし、君がこの戦いに介入しなかった場合……君の前世にあった物語で、この戦いはどうなっていた?」
「勝利ではありました……けれど騎士アティレ、騎士シェルクのどちらかと、将軍が戦死していました」
正直に答えると、ボスロは「そうか」と答え、
「ならば、私は君達に全力で協力しなければなるまいな」
「……いいのですか?」
「魔王との戦いに私の存在が必要だとして、今回戦いに介入したのだろう? ならば、相応の活躍をせねばなるまい」
「私も、応じる所存です」
カナンも応じる……が、彼は他に気になることがある様子。
「もう一つ、確認を」
「ああ」
「その、あなたがいなければソフィーリア様は……」
俺は何も答えなかった。けれど、その沈黙がどういう意味を持っているのかは、カナンもソフィアも理解した様子だった。
「……ならば」
ソフィアが口を開く。
「私もまた、命を救われた身……できる限りのことをしたい。けれどルオン様、私でよろしいのですか?」
「……少なくとも、魔王を討つ資格は持っている」
断言に、ソフィアも緊張を示した……けれど、
「資格を得ているのならば、やります」
強い言葉にレーフィンやガルクが頷く。俺もまた頷き、
「俺も共に戦うから――頼む」
「はい」
ソフィアは、力強い返事で俺に応じた。




