最大の障害
町を駆け抜け、俺とソフィアは障害も無く王の所へ辿り着く。そこは町の中央に存在する広場であり、いつもは人が賑わうこの場所。けれど今は戦場と化していた。
「――てっきり将軍が来ると思っていたが」
親衛隊への猛攻を中断し、魔族――バレンは発言した。
王達を挟んで反対側の道に魔族がいる。そして親衛隊はその魔族を止めようと王を後ろに控えさせ戦っているが……既に幾人も倒れているところを見ると、魔族の力は分身で減っているにしろ、まだまだ大きい。
使い魔で探ると、北門における戦いは長期戦の様相を呈している。分身は魔法などを行使することはなく、基本的には直接攻撃のみ。技術的に優れているボスロは対応が容易で、なおかつシルヴィ達もまだ余力があるのか相手に応じることができている。分身との戦いは問題なさそうだ。
そして、俺達はどう動くべきか。そもそもバレンはカナンの持つ宝剣であっさりと倒されてしまう敵なので、強さはどれほどなのかわからない。分身とはいえボスロ達を食い止めている実力を考えると、魔族の中でも高位に位置するのは間違いないはずだが。
また、俺やソフィアが対峙して戦うだけでは、カナンの覚醒イベントがご破算になるが……こうしてシナリオにはない戦いが始まった時点でやはりその流れは消滅してしまったのだろうか?
疑問は尽きないが、ひとまず俺はカナンの近くへ移動する。
「王、無事ですか?」
「ああ」
若王は頷くと、ソフィアに一度視線を向ける。
「君の従者か」
「はい」
ソフィアのことは気付いていない様子。まあボスロの察しが異常だったということだろう……考えつつ、俺はバレンに視線を向ける。
分身と同様、魔法などは使わず基本的に拳にまとわせた魔力によって戦っている。その時親衛隊が仕掛け、魔族はそれに対抗すべく動く。
差し向けられた剣をあっさりと弾き返すと、バレンは反撃に出た。放たれた拳の速度はかなりのもので、親衛隊の体を鎧の上から突く。結果、親衛隊の体が大きく吹き飛び――その間に、バレンはカナンを見据え右腕を振った。
「くっ!」
親衛隊数人が構え、王や俺達を守るような障壁が形成された。複数人が同時に障壁を生み出す多重魔法だ。
直後、バレンの拳から練り上げた魔力によって生み出された光弾が放たれる。それが障壁に直撃し……威力は相当なのか、障壁が大きく軋んだ。
「その人数では、限界のようだな」
バレンは呟きながら一歩近寄る。親衛隊が多重障壁を構成するため、まずは王より親衛隊の数を減らそうという魂胆か。
「新たに客が来てしまったし、そろそろ決着をつけないといけないな」
バレンは言葉を発し、両腕の魔力をさらに高める。それを見たソフィアは、カナンの前に出て守るべく魔族と対峙する。
俺もまたカナンの前に。するとバレンが笑みを浮かべた。
「言っておくが、俺を倒せるとは思わないことだ」
ゲームでやられ役だったお前が何を言う、などと心の中で軽口を叩いてみたりするが……状況は、非常に悪い。
カナンが覚醒を果たすことができるのか――それが一番の問題か。もしそれができなければ、目の前の魔族を倒すこと以外に問題が発生する。
しかし――こういう事態を招いたのは、俺の責任でもある。
「……王」
俺はカナンに呼び掛ける。
「魔族はどうやら相当強い……親衛隊と共に俺達もお守りします」
「……私は」
その時、王が声を上げた。見れば宝剣を握り締め、魔族と戦うか思案している様子。
これは、後押しすればもしかすると……考える間にバレンが動いた。障壁を構成する親衛隊。だが、
「終わりだ」
渾身の一撃だったのだろう。バレンが放った右ストレートには相当な魔力が存在しており、障壁をとうとうぶち破った。
数を減らし、親衛隊も耐え切れなかった――即座に彼らは迎撃に入るが、魔族の攻撃を受け吹き飛ばされる。殺してはいない。というより、王の首を狙うことができる時間を稼げばいいという魂胆か。
気付けば他の親衛隊達も王から離れてしまい、彼を守るのは俺とソフィアだけ。
バレンが近づく。それに対し、俺が動いた。相手は右拳を振るう。先ほどコボルトの戦いで剣を受けたように、俺は魔族の魔力を感覚や経験から察し――魔力収束を果たす。
まだ本質的な能力を露見するレベルには至らない。だがこれを受ければ相手もさらに警戒するだろう。
拳と剣が激突する。魔力により強化した結果……俺はバレンの拳を受け切った。
「やれやれ、最大の障害が傭兵とは」
どこか親衛隊をあざ笑うような――同時に、俺を警戒するような声音。すると一度バレンは退いた。
「次で、決着だ」
さらに魔力を強くする。周囲の人間を震撼させるほどのものであり、その中で俺は黙って収束する魔力を見据える。
あれを受け切るのはかなり難しそうだが……いや、待て、やり方はあるか。俺は魔法詠唱を開始する。
「対抗する気か?」
バレンが問う。俺はそれに応じることはせず、魔族に視線を合わせたまま後退し、王へ呼び掛けた。
少々強引だが……やるしかない。
「王、あなたの宝剣の力を……お借りしたい」
「……私の?」
「退魔の力を持つ剣ならば、目の前の魔族に対しても決定打となるはずです。俺があいつの動きを止めます。その隙に」
これだけの出力を生む魔族を倒すとなると俺も本気を出さなければいけないが、それはまずい。ならばどうするか……カナンの力をここで引き出す。分身能力を使わなかったバレンをゲームでは一撃で葬っていた。ならば、彼が全力を出せば撃破することができる。
とはいえ、カナンは俺の言葉に逡巡する様子。おそらくだが、ゲームの時は最早守ってもらう人間がいなくなり、魔族を倒す以外に道はなかった――つまり、開き直った面もあったのだろう。けれど今は違う。だからこそ迷い、また魔族の力を目の当たりにして尻込みしている。
しかしそれしか……と思った時、
「――カナン」
俺にしか聞こえない程度の音量で、ソフィアの声が聞こえた。それは間違いなく――
「……え?」
声に憶えがあった様子――誰なのかを理解した。
ソフィアはカナンの逡巡に対し自らのことを明かした。それがどういう意味を持つことになるのか――考える間に、バレンが動き出す。
「まずは、お前からだ!」
声と共に猛然と駆けるバレン。親衛隊も妨害しようと動き出すが、それよりも早く俺へ間合いを詰める。
対抗すべく、剣に魔力を込める。まともに受けたとしたら、力負けして吹き飛ばされる可能性がある。
その対抗策として――俺は魔法を発動する。
「光よ、我が敵を滅せ!」
光属性中級魔法『シークレットエリア』――本来は敵の足元に魔法陣を生み出し、光が敵を飲み込むという魔法。威力は他の光属性中級魔法と比べると低め。
それに現実世界となった今では、足元に発生した魔法陣から光が生み出されるまで若干のタイムラグがあるため、避けられる可能性からあまり使い勝手はよくない。
しかし、俺はこれを応用する――魔法陣は、俺の真正面、バレンを迎え撃つように空中に生み出された。
「何――?」
バレンが声を上げると同時、魔法陣から光が。それは拡散せず一つにまとまり、一本の槍のように鋭く尖る――だがそれを見ても相手は、構わず拳を放った。
「こんなもの、突き破ってやろうではないか!」
光が射出。目標はバレンが放った拳。狙いは正確で、光はバレンの右拳へ向かって収束を果たす。
激突し、光と拳は一時せめぎ合うが、やがてバレンの方が押し込んでいき……均衡が崩れ、とうとうバレンが突破する。
だが右拳の魔力も落ちた――俺はバレンの攻撃を抑えるべく、さらに魔法を発動させた。




