騎士への援護
アティレと魔物の動きを見る中で、俺は一つの推測を行う。指揮官の魔物はおそらく、アラスティン王国側の指揮官を倒すために強くされている。先ほどアティレの槍を平然と受け流したところから、間違いないだろう。
その強化がどれほどのものなのかはわからない。けれど、単純に技量面を強化するだけでは済まないだろう――と、思った。
だからこそ、俺は『デュランダル』に代わる魔法を生み出す――それは同じ光属性中級魔法の『ホーリーランス』だ。
アティレが馬上から槍を振るい、必殺の一撃を加えるべく動く。所作からおそらく汎用中級技の『サイクロンスピア』だと察する。ゲーム上では気流すら発生するような高速の刺突という説明だったが、彼の場合は本物の風をまとわせたもので、多少アレンジが施されている。
一方指揮官の魔物は、大剣をかざし馬上のアティレを仕留めようと構える。その動きを見て、おそらくダメージ覚悟でアティレに攻撃を与える腹積もりなのだろう。
アティレはわかっていても攻撃態勢に入っている。止めることはおそらくできない――次の瞬間、両者の攻撃が放たれ、俺もまた光の槍を生み出した。
青白い光が、魔物へ向け真っ直ぐ放たれる。それは一瞬で、俺の狙いの場所を射抜く。
推測から、能力が強化されているのは間違いない。それは魔物の身体能力もそうだが、おそらく鎧も――そう考えた結果、俺は魔法の狙いを体とは異なる場所にした。
それは、大剣を握る魔物の手先。
剣が薙がれようとした直後、光の槍が腕に着弾した。同時、青白い光が拡散し、衝撃波が腕を飲み込む。
『デュランダル』を使って腕を狙うという方法もあったが、小手に覆われた魔物の腕を見て、加減した状態ではダメージを与えることができないのではという懸念と、斬撃だけでは軌道が変わらない可能性を考慮した。よって、攻撃が通用しなくとも衝撃により剣の軌道を変えられる光の槍を選択した。
光の槍が魔物の腕に衝撃を与える。目論見通り剣の軌道はグチャグチャになり、アティレに届く遥か手前で失速。直後、アティレの刺突が魔物の頭部に入った。
大きくのけぞった魔物だが、すぐに体勢を立て直す。頭部を貫かれたにも関わらず魔物の動きは鈍くなっておらず――いや、それどころかアティレに向け威嚇のためか魔力を発する。
コボルトなどの種族は頭部や心臓が急所のはずだが、魔族の手によって一撃食らっても大丈夫なよう強化されていたのか――俺はすかさず『デュランダル』の詠唱を始める。アティレが追撃の一撃を加えるべく動き出し、魔物はそれに対抗するべく剣を再度構えようとする。
それと同時、俺は魔法を完成し光の剣を生み出し、容赦なく指揮官へと振り下ろした。
さらにアティレの突きも加わり――魔物はその二つを弾こうとしたが、立て続けに放たれる刺突と斬撃に、後退を余儀なくされる。
確実にダメージは与えられている……その直後、周囲の魔物を相手にしていた騎士数人が、指揮官へ向け槍を差し向ける。反撃に転じようと魔物は動こうとしたが、俺やアティレも追撃を仕掛けたため、どうするべきか迷ったか、動きを止めた。
刹那、一斉に攻撃が放たれる。魔物は俺の光剣を防いだが、騎士達の渾身の刺突を体中に浴び……とうとう、大きく体を震わせる。
「――これで」
アティレが呟く。槍先には、相当な魔力が乗っている。
「終わりだ!」
数々の刺突によって魔物の動きも鈍くなっている。そうした中で放たれた槍の一撃は、魔物の頭部に再度入り、吹き飛ばした。
首から上が消失し、その瞬間今度こそ魔物は倒れ伏し、体もまた消滅する。それと同時、アティレは叫んだ。
「指揮官は撃破した! 一度離脱するぞ!」
アティレが叫ぶと同時、周囲にいた騎士達が侵入した右側の道へと動き出す。俺もそれに追随し――それと共に、魔物の動きが鈍っていることがわかった。
指示を受けることができなくなったためか、理路整然とした動きもなくなっている。だから離脱する時魔物の攻撃は少なかったし、存分に騎士達は魔物を撃破した。
やがて俺達は離脱に成功。多少の損害は見られたが、味方側の指揮官であるアティレは無事。なおかつ敵の指揮官を討ち果たした――大戦果と言ってよかった。
「助かりました、ルオン殿」
アティレが俺に声を掛ける。
「予想以上に魔物は手強かった。あのまま一騎打ちを続けていたら、敗北していたでしょう」
断言するアティレ――その時、東側から使い魔の報告が上がる。
兵士や騎士が奮戦し、魔物を押し返しつつ騎馬隊が敵へ突撃。それにはシェルクの他シルヴィやクウザの姿もあり……指揮官と遭遇。そこでクウザが断続的な下級魔法により動きを止め、シルヴィとシェルクが断続的に攻撃を仕掛け、撃破。さらに離脱にも成功した。
反撃もされたようだが、無事回避し怪我なども無い様子……これで第一の目的であるアティレとシェルクの生存は達成したとみていいだろう。俺は後方へ戻る際横から西側の戦況を確認する。魔物は徐々に崩れ始め、兵士達はそれを一気に押し返している。こうなってしまうと魔物側も反撃に転じることは難しいらしく、徐々に後退し始めている。
そこに、後方に残していた少数の騎馬が近づいてくる。報告だろう。
「物見からの報告です。指揮官を撃破したことによる結果か、魔物達は隊列を乱し混乱を始めました」
「そうか。他の戦況がどうなっているかはわかるか?」
「東側も戦いは佳境。そして南部では魔物の姿は見られない、とのことです」
「わかった……とはいえまだ魔物の数は多い。行くぞ」
声を上げ、アティレは騎士達に告げる。その中で、彼は俺へ視線を移した。
「ルオン殿、あなたはどうしますか?」
「……俺?」
「将軍から、あなたには特別な役割があると聞いています。西門と東門の戦いは、もう勝敗を決したと言っていいでしょう。統率を失った魔物達を撃破するのは、数は多いですがそう難しくはない」
彼はそう語ると、一度戦況を眺める。
「周囲に魔物の姿がないか改めて確認した後、騎馬隊や後方で待機していた予備軍はここを離れ、交戦が続いているであろう北部へ移動することになるでしょう」
ゲームでもその通りだったことから、彼の判断はシナリオに沿ったものだ。
「ルオン殿は、騎士団の指揮下に入っているというわけではありませんし、ここから離脱してもらっても構いません」
――遠回しに「先にボスロ将軍を援護しに行ってくれ」と言われているような気がした。アティレの言い方だと周囲の騎士達の反発があってもおかしくないが、事前に話をされていたのか騎士達は一言も発しない。
俺達のことを将軍がどう話したのか気になりつつも……俺は「わかりました」と告げた。
「ならば、ここで俺は北門へ向かいます。騎士アティレ。お気をつけて」
「はい。私も後で向かいます」
告げると共に、彼は他の騎士達と共に走り出す。残ったのは俺と伝令役の騎士。
俺はまず、馬から下りて騎士達に託す。
「え、あの……?」
「移動だけなら、魔法の方が速いので」
乱戦の中では味方を巻き込む可能性もあるため使用できないし、なおかつ他の魔法が使えなくなるが……詠唱し、俺は高速移動を開始する。
騎士達を残し、俺は一人で北門へ向かう。その間に情報をさらに収集。シルヴィやクウザはまだ東側で戦っているが、魔物は最早総崩れとなっており撃破にはそう時間は掛からなそうな状況。また南門については騎士の報告通り魔物が来ないような状況で、さらに周囲に魔物の姿も無いので、問題はないだろう。
そして北門。おそらく東西の戦いに決着がついたと報告が来たのだろう――いよいよ将軍が動き出そうとしていた。




