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賢者の剣  作者: 陽山純樹
神霊の力

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騎士の突撃

 一瞬、何事かと警戒したのだが――それが伝令の騎士だと気付くと同時、彼がアティレに向かって声を上げた。


「物見からの報告です! 敵の指揮官らしき存在を、発見したとのこと!」

「――わかった」


 襲い掛かってくるコボルトを槍で一蹴し、彼は指示を出す。


「後方に控える残り部隊の半数を前進させろ。後続からの魔物を抑える間に、一気に決着をつける」

「はっ!」


 一礼し、騎士は戻る。一方アティレはなおも槍を向けながら、俺へ口を開いた。


「ルオン殿、一度退き、騎兵と共に突撃を」

「……わかりました」


 俺とアティレは後退を開始する。乱戦であるため俺達の後ろにも敵はいたが、通る道にいた敵は全て撃破。乱戦の中を抜け出す。

 それと同時、後方に控えていた部隊が突撃する様を捉える。士気も高く、見る見るうちに魔物達を撃破していく。後続の魔物をどれだけ抑えきれるかわからないが、少なくとも騎兵が突撃する間は大丈夫だろう。


 使い魔で周囲の他の門の状況を探ると、東側も似たような作戦。一方北側は騎兵によりダメージを受けた魔物の軍が、多少慎重になっている光景が。北門にいる指揮官の質は、将軍と相打ちするくらいの実力を持っている以上、指揮能力もおそらく東西と比べ高くなっていると考えてもいいだろう。よって単純に攻め立てるだけでなく、戦況を見てどう動くか判断している様子だ。


 また、南側には魔物が攻め寄せていない。これについてはゲーム通りであることは間違いない。


 後方に脱し、騎兵部隊がいる場所へ。俺とアティレの馬が用意されており、俺は迷わず騎乗した。

 アティレの方は騎士からいくらか報告を受けた後、馬に乗り――次の瞬間、後続の魔物が兵士達と激突した。


 (とき)の声が聞こえ、兵士達が奮戦する様がはっきりとわかる。士気が高いことは間違いないが、やはり新たな魔物が追加されたことにより、押し返していた味方側が止まる。


 それと同時――アティレは、槍を掲げ叫んだ。


「この戦いを終わらせるぞ!」


 言葉の後、騎士達が呼応するように叫ぶ。同時、アティレを先頭にして馬を走らせた。

 俺は彼の後方を陣取る形となり……乱戦の場所を右から迂回し、指揮官がいると思しき場所へと向かう。


 現在魔物達は真っ直ぐ門へ向かい、味方である兵士達と交戦している。俺達は回り込んで右横から指揮官のいる場所へ迫ろうとする形だ。魔物達もその動きは気付いているはずだが、味方側の奮戦により動きを縫い止められたようで、障害も無く迂回することができた。


 やがて敵本隊の横手に回る。そして、馬上から一際体格の大きいコボルトを発見する。他のコボルトと比べ一回り以上デカイ体つきに加え、握る剣も長剣ではなく大剣。俺はそれを見て『コボルトジェネラル』であると理解する。


 魔物の強さはシナリオ中盤に登場するくらいのもの。一騎打ちであるならばシルヴィやソフィアでも十分倒せるが、騎馬で突撃しながらの交戦だと、厄介かもしれない。


 俺はシルヴィやクウザのいる東側の使い魔から情報を探る。あちらも俺達と似たような作戦をとっている。シルヴィやクウザもどうやら馬には乗れるらしく、既に騎乗し移動を開始している。

 彼らなら大丈夫……そう心の中で呟きながら、俺はアティレと共に指揮官のいる魔物の本隊へ、突撃した。


「指揮官の所へ向かうのが目的だ! 魔物の撃破は最小限に留め、突破を優先しろ!」


 アティレが槍で魔物を討ちながら叫ぶ。俺はそれに従い――魔法を発動させた。


 剣でも迎撃については問題ないかもしれないが、やはり騎乗に応じた攻撃をするべきだろう。武器である槍を生み出してもいいのだが、ここで俺が発動させたのは光属性中級魔法の『デュランダル』。出力はやや弱めではあるが、コボルト達に対しては決定打となる。


 光剣は通常の剣よりもリーチが長い――俺はすかさず剣で薙ぎ払う。すると迫ろうとしていたコボルト達を蹴散らすことができた。

 乱戦時には周囲に味方もいるため使えなかったが、突破が目的の今ならば存分に振るうことができる。他の騎士達も呼応するかのように魔物達を打ち崩し――驚くべき速度で、指揮官のいる場所へと到達する。


「一気に、決めるぞ!」


 アティレが叫ぶ。騎馬が突撃する勢いそのままに、指揮官を倒すということか。俺は黙ったままその指示に頷きつつ、周囲にいる魔物を吹き飛ばす。

 その時『コボルトジェネラル』が動いた。大剣を構え、その狙いを、アティレへと向ける。俺はいつでも援護できる構えを整え――


「――おおおっ!」


 声と共にアティレの槍が指揮官へ向けられる。それは今までひた隠していた鋭く洗練された刺突。この一撃で決めるという気概を大いに含んだ槍。


 周囲にいる『コボルトソルジャー』であれば、何をしようとも一撃で吹き飛んでしまっただろう。だが『コボルトジェネラル』は違った。アティレが放った渾身の一撃を、剣の腹で器用に受け、さらに流した。


 その瞬間、指揮官は通常の『コボルトジェネラル』とは違うと悟る。同じ魔物の中でも、特に剣術に優れた存在――


 そう認識した直後、周囲にいた魔物達が襲い掛かってくる。指揮官周辺にいる魔物もこれまで戦ってきた魔物と同じ『コボルトソルジャー』で容易に倒せるのだが、今いるのは敵陣の中。コボルトが一気に押し寄せてきた場合、俺は平気でも騎士達はタダでは済まない。


 ゲーム上では、アティレかシェルクのどちらかは戦死してしまうわけだが、こうして突撃を仕掛け、指揮官に敗北。けれど騎士達が決死の攻撃で倒した――という流れがあったのだろうか。少なくとも、今の光景を見るとそのように思える。


「くっ!」


 アティレと指揮官の魔物がすれ違う。彼は即座に馬を反転させ再度突撃を仕掛ける体勢に。一方他の騎士達は周囲の魔物へ攻撃し、アティレの露払いを務める。

 このまま彼を放置していてはまずい……そう思うのと同時、俺は手始めに手に握ったままの光剣を、周囲の魔物へ向け掲げた。


 僅かにだが、魔力の出力を高める。それにより『デュランダル』のリーチがさらに伸び――取り囲もうと近づいてきている魔物へ、豪快に一閃した。

 吹き飛ぶ魔物。さらに衝撃波が生まれ、一時俺の周りに魔物の姿がいなくなる。そこで素早く手綱を操作しながら、アティレ達へ視線を送る。


 アティレがさらなる突撃を見せ、指揮官の魔物はそれに応じるべく大剣を構える姿を捉える。騎士達の援護もあり、両者は完全な一騎打ちの様相を見せている。俺は周囲に魔物がいなくなったことで彼らに集中することができ、援護するべく馬を駆る。


 指揮官の魔物はこちらの動きに気付いた様子だったが――アティレが風をまとわせた槍を構えると、そちらに集中。ここで俺は、どう動くかを僅かな時間の中で思案し始めた。


 このまま『デュランダル』で横から斬りかかるか、それとも他の魔法で――光剣ならば横から両断すればいいのだが、一つ懸念があった。

 出力を上げれば当然一撃で倒すことができるが……魔族に俺の能力が露見しないよう出力を抑えている今の場合はどうなのか。こいつは技術的に同種を上回る存在の様子。ならば、能力的に同種よりも強い可能性がある。


 加減した『デュランダル』でも対処できる可能性は高いが、援護の失敗はアティレの死を意味するだろう。もし光剣を振りおろし、それが通用しなかったら――


 俺は『デュランダル』を解除し、すぐさま詠唱に入る。『デュランダル』と同様修練した魔法であるため、短時間で一気に魔力が俺の左手へと収束する。


 その間にアティレと『コボルトジェネラル』が接近する。周囲の騎士に押し留められ魔物達は両者に近づくことができない。その中でアティレは槍を。そして魔物は大剣を構え、攻撃を決めるべく動き始めた――


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