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賢者の剣  作者: 陽山純樹
神霊の力
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王の声

 その後、俺はクウザについてはシルヴィと同行させることを告げる。ボスロはそれに従うとのことで、話し合いはほぼ終わった形となった。


「……あ、そうだ」


 俺はここで「少々お待ちください」と告げ、収納箱を召喚魔法で呼び寄せる。するとボスロが声を上げた。


「召喚魔法か……? それを利用し道具などを貯蔵しているようだが……どうした?」

「指揮官を失えば、形勢が不利になるのは王国側も同じ……その備えを一つ」


 そう言って、俺はソフィアなどにも渡している緊急回避の腕輪を取り出した。


「危機的状況に陥った場合、結界を構築する腕輪です。門を守る指揮官の分はありますから、渡してもらえれば」

「ふむ……」


 ボスロは声を発する。こちらが善意であることは認めているようだが、進んで受け取ろうとしない雰囲気。

 ただそれはプライドがあるから、などという感情的なものではない。これは――


「……私もそうだが、基本的に騎士の装備はそれぞれの魔力に合わせ調整がされているからな。問題ないとわかった場合、使用させてもらおう」


 ボスロはそう語ると、俺に笑みを見せる。


「君が私達のことを気にしているのは理解できた。すまないな」

「いえ、大丈夫です」


 この辺り、ゲームとは違い融通のきかない部分かな。防御力を上げる場合、ゲームでは単に装備を変えればいいだけの話だったが、現実世界となった今では魔力障壁を活用する必要があるため、一考する必要がある。


 シナリオ序盤に出てくる素材なら基本大丈夫だが、後半に見つかるような強力な素材は、使用者の力量次第では魔力障壁自体が機能しなくなるなんてケースもあるため、ゲームのように簡単にはいかない。もっともソフィア達は魔力障壁で応じれるくらいに成長しているため、まだ必要としていないが……今後、色々と考慮する必要はあるか。


 そして騎士の場合――特に指揮官に抜擢されるくらいだと、ボスロが語った通り装備は念入りに調整がされているのだろう。この場合、俺が渡したような腕輪などを身に着けることもまずいということか。


「改めて、ルオン殿。よろしくお願いする」


 ボスロが言う。こちらはその言葉に頷き、


「はい……それでは、失礼します」


 俺は一礼して立ち去る――いよいよだと思いながら、レーフィンと共に宿へ戻った。






 それからは、魔物の襲来に際し慌ただしくなる町を眺めながら、準備をすることになる。そして敵影が都にいよいよ――という朝、俺達は騎士に呼ばれた。


「行くとするか」

「はい、ルオン様」

「ボクとクウザは東側だったな?」

「頑張るとしよう」


 ソフィア達が口々に声を出す。俺はシルヴィの質問に「そうだ」と答え、宿を出た。


「俺は西側で、ソフィアは北……ソフィア、将軍と同行することになるが、大丈夫か?」

「はい」


 頷く彼女。これから始まる戦いに緊張している様子ではあるが――


「覚悟はできています。ルオン様、シルヴィ、クウザさん……御武運を」

「ソフィアも、気を付けて」


 言葉と共に俺達は行動を開始。四人がそれぞれ分散し始め、俺の視界に仲間が見えなくなった段階で、使い魔を呼び出した。

 それぞれ仲間達を観察するように指示。加え、四方の門の状況を把握するための使い魔も生み出す。


 俺にとってもこうした軍団同士の戦いは初めてであるため、どうなるか読めないところがある。いずれ来る南部侵攻に対し備えておくという意味でも、今回の経験は役に立つはず。気合を入れよう。


 通りを歩き、ほどなくして西門に到達。騎士に呼び掛け名を明かすと、既に話は通っているのか、アティレのいる場所へと通された。


「……どうも」


 俺は騎乗するアティレへ呼び掛ける。彼はこちらを見返し、


「話は聞いています。将軍が色々とお世話になりました」

「……ボスロ将軍は、どこまで事情をお話しに?」

「あなた方を見込み、私と共に行動させるようにと……将軍が絶対の自信を持って語っていた以上、我らもあなた方を信用します」


 将軍の言葉は相当重いらしい。俺は「わかりました」と応じ、西門から外を眺める。

 周囲は平原であるため、かなり遠くにある山まで見える。とはいえ、ここからはまだ敵影の姿はない。


「いずれ、魔物が見えてくるでしょう。コボルトを中心とした歩兵なので、我らでも十分対抗できます」


 アティレが言う。同時に手に持っている槍を強く握る。


「我々の存亡を賭けた戦いです。こちらも命を賭して……将軍の策を遂行します」


 敵の指揮官を狙うということだ。おそらく反対側にいるシェルクもアティレと同様の心理状態だろう。

 策を成功させる――そういう意図をもって戦う以上、無茶をする可能性は高まるだろう。実際ゲームでも主人公達が協力しなかった騎士の片方は戦死している。それは間違いなく、策を遂行するために動いたことが要因だろう。


 そうはさせない……心の中で呟いた後、俺はアティレに口を開こうとした――その時、


「状況はどうだ?」


 後方から、声がした。大人びた声ではなく、少年のような――


 直後、アティレは驚くような速度で振り向き、


「――陛下!」

「騎乗したままでいい。状況は?」


 ――この国の王である、カナン。アティレと同様騎乗した彼は、親衛隊と思しき面々に囲まれつつ、俺の目の前にいた。


 まず目を見張るのが光沢のある白い鎧。金縁の装飾が施され、見た目にも鮮やかなものとなっている。

 金髪碧眼に、容姿端麗な顔立ちと絵にかいたような美麗さ。その中で瞳は目が合っただけで無意識の内に背筋が伸びてしまうような、凛とした強い気配が存在していた。


 俺はふいに、王が腰に差す長剣を見る。鞘には装飾が施されており、多少ながら魔力も感じられる――間違いなく、宝剣だろう。


「そうか。では――」


 アティレから事情を聞いたカナンは、ここで突如声を上げた。


「皆の者! この戦、最大の危機であることは確かだ!」


 空に通る綺麗な声。途端、兵や騎士達が王の言葉を聞くべく動きを止める。


「民を守るため、そしてこの国を守るため力を貸してほしい! そして、この戦いを勝利で終え、かの魔王に知らしめよ! アラスティン王国の軍こそ、最大の脅威であることを!」


 王の言葉に呼応し、周囲の人々が声を上げる。王の登場により士気も上がり、奮戦する気概をさらに高めている。


「……騎士アティレ。隣にいるのは将軍が語っていた御仁か?」


 そして、話の矛先が俺へと向けられる。アティレが「はい」と返事をすると、王は俺へ話し掛けた。


「将軍から話は聞いている。中には眉をひそめる者もいたが、将軍が大丈夫だとあまりに念を押すくらいだ。私も、あなた方に協力を願うことにした」


 ボスロ将軍、やはりゴリ押しだったか。まあこの辺りは仕方がない……けれど、最後は将軍の主張に根負けしたという形らしい。


「アラスティン王国に来て頂いたこと、心より感謝する。あなた方の武運を祈っている」

「はい」


 返事をすると、王は親衛隊と共に颯爽と去っていく。おそらくああして四方の門にいる面々を見て回っているのだろう。

 まだ使い魔から報告を聞いていないということは、西門が最初……ここで俺は周囲を観察する使い魔の一体を、王へと向ける。彼の動向も観察しておいた方がいい。


 アティレが周囲の兵に指示を出す。やがて門の外で隊列が組まれ、準備が整っていく。

 開戦まで、それほど時間はないだろう……ここで、アティレが声を出した。


「ルオン様。敵の姿が確認できるまでは、休んでいてください」

「わかりました」


 俺は指示に頷き、周辺を見て回る。そこで、使い魔から全員門に辿り着いたと報告が。

 いよいよ、戦いの準備が整った。


「始まるか」


 俺は空を見上げる。天気は晴れ。雲も多少ながら存在しているが、おそらく雨が降るようなことにはならないだろう。

 シルヴィやソフィア達はシェルクとボスロ、それぞれに合流し、こちらは完全に態勢が整った。


『ルオン殿』


 その時、ガルクから呼び掛けが。


『魔物の気配も強くなった。それほど経たないうちに、始まるぞ』

「ああ、わかってる。ちなみに、そっちの作業は順調か?」

『今のところは問題ない。こちらは心配しなくて大丈夫だ。ルオン殿の考え通り、将軍が死なないよう祈っているぞ』

「ありがとう」


 俺は返事をしたその時――門の外側から声がした。警告だ。


 すぐさまアティレのいる場所へ向かう。彼は槍を握り門の向こうにある平原を見据えていた。

 その直後、黒い敵影が見えた。相当な数……直後、アティレが号令を発し、兵士達は動き始めた。


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