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賢者の剣  作者: 陽山純樹
神霊の力

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将軍の要求

 どうやら、簡単な話ではないようだが……俺とレーフィンが沈黙していると、ボスロは語り出した。


「戦術については、二通りある。耐え続け反撃の機を窺うか、こちらから攻勢を仕掛けるか」


 ボスロは腕を組み、俺達へ続ける。


「仕掛けるにしても、防衛をしながらであるため兵力を傾けるのは難しい。今回は増援も期待できないような戦い。となれば必然、攻撃を行う場合はやれることが限られてくる」

「とはいえ耐え続ける、というやり方はあまり考えていないようですね」


 レーフィンが言う。ボスロは当然と言わんばかりに頷いた。


「ただ守るだけでは、いずれ突破されてしまう……という懸念を誰もが抱いている。籠城して耐えることも私達は想定しているが、相手は魔族だ。短期決戦に持ち込まなければ、物量で押し潰される可能性が高い」


 魔族の力ならば、一夜である程度の魔物を生み出すことが可能。特に今回の魔族は魔物を生み出すことに長けた存在だったはず。なおかつアラスティン王国側は援軍を期待できないとなれば――


「つまり、敵の指揮官を狙うと」


 俺の言葉に、ボスロは深く頷いた。


「魔族が侵攻した国の情報を集めた結果、魔物を率いる指揮官を撃破すれば、魔物の動きが非常に鈍ることがわかっている。これはおそらく、指揮官が魔物をある程度操作する権限が与えられているということだろう。つまり、そこを断てば私達の勝利が近づく」


 ……ゲームでも、確か東西の軍は指揮官を倒せば周辺に残っていた魔物の部隊が消えていた。これは瓦解を意味しているのは間違いなく――ボスロの言っていることは正解で、ゲーム上では部隊自体が消えるという表現になっていたのだろう。


「そこで私達の立てた策は、まず本隊である北からの軍を、北門を守護する私が抑える。その間に北を除いた三方向からの魔物を率いる指揮官を撃破。最後に北部の軍を東西の騎士達と連携し攻撃する……指揮官の権限が戦争中に移行したという情報はない。魔族側もおそらくそれはできないのだろう。ならば、指揮官さえ倒せば……」


 ボスロの作戦は、ゲームで見せていた作戦と同じだ。まず東西の騎士達が敵の指揮官を撃破。この時点で東西を守る騎士のシェルクとアティレのどちらかは戦死してしまうのだが……ともかく、残った戦力は指揮官撃破後北門へ移動を開始する。


 北門の戦いは将軍が防戦し……東西の敵を撃破した後、動き出す。ゲームにおいて作戦内容は詳しく語られなかったが、騎士達の動きからボスロの語った作戦で間違いないだろう。


「ここで問題は、東西の戦力だ」


 ボスロは、なおも俺達に語る。


「精鋭であることは私も自信を持って言える。相手がコボルトであることから、十分勝機はあるだろう。しかし敵の指揮官は一筋縄ではいかないはず」

「……つまり、将軍はこう言いたいのですか」


 俺は、将軍の言いたいことを予測して口を開く。


「俺達に、その援護をさせると」

「そうだ。騎士達を守る、というよりは敵指揮官を撃破するのに協力してもらいたいということだ」


 ――これは、ある意味俺の理想に適っている話だ。元々アティレやシェルクの近くで交戦し、守るような形を想定していた。その考えとは異なり攻撃主体となるわけだが、騎士と共に行動できるのは間違いない。


「ルオン殿、どう思う?」

「……確認ですが、俺達はそうしたことができる実力があるという見立てなんですよね?」

「当然だ。ルオン殿はもちろんだが、もう一人の剣士についても、十分な力を持っていると私は判断した」


 なるほど……ただ、そうなると将軍の方が心配になってくる。


 どういう振り分けなのかまだ確認していないが、まず間違いなく俺は東西のどちらかに振り分けられるだろう。となると将軍は……いや、将軍が戦死するのは東西の戦いが終わり攻勢に出てからだ。急げば間に合う……か?


 ゲーム通りの構図で戦う以上、戦いもそれに近い感じになる可能性もありそうだが……使い魔を周囲に飛ばし、状況を探りながら動くとしよう。


 あとは、東西にいる魔物の指揮官の強さ……この戦いに到達する推奨レベルよりも強くなっているシルヴィやクウザならば、対応できるだろう。


「わかりました。それで、俺達はどのように動けば?」

「まずルオン殿ともう一人の剣士……両者は東西に分かれて欲しい。魔物の動きは現在南を除いた三方向から。南部から攻めてくる可能性は十分あるが、ひとまず東西の守りを厚くする」

「わかりました」

「残る二人だが……ここで一つ相談したい」


 ――むしろここからが本題なのだろうと、俺は内心で察する。


「魔法使いの男性については、そちらに任せる。だが、王女については――」

「場所を指定すると?」

「うむ……北門の守護を願いたい」


 これは、意外な言葉。ソフィアのことを知るボスロなら、むしろ安全な場所へ移動させると考えていた。


「ルオン殿、確認だが王女には私がわかったことは話したのか?」

「話しました」

「ならば、こちらの提案は不思議に思うはずだ……しかし、私は安全な所に身を隠していろと指示されて、はいそうですかと頷くような王女ではないと認識している」

「その中で、北門に配置する理由は?」

「まず前提として、王女については私が命に代えても守る。そして、東西の戦いが終わるまでは相手の出方を窺い、できるだけ動かないことを約束しよう」


 俺に言い聞かせるような言葉。それはきっと、以前俺が将軍について懸念を表明したためだろう。


「魔族側の動き次第ではあるが、もし戦線が崩壊したのならば、城を守るよう王女には指示し後退させる」

「……ソフィアの動向については、申し訳ありませんが俺にも確認させてください」

「いいだろう。むしろその方が私としてもいいと思う」

「そして、なぜソフィアを?」

「これからのことを考えて、だ」


 ボスロの言葉は、ずいぶんと重い。


「いずれ、王女もまた魔王との戦いで矢面に立つことになるだろう」

「……将軍自ら、その役目について教えると?」

「教える、とまではいかないだろう。兵を率いることがどういうことなのか……私の近くでそれを見させようかと考えただけだ。しかし必要なことだと思うが、どうだ?」


 ――ボスロがそう語るのも理解できる。どれだけ強さを身に着けたとしても、それはあくまで個人能力の話。軍を指揮する、というより軍を率いるという能力については結びつかない。


 今回の戦いによって、ソフィアに戦う姿を見せてそれを伝える――そこまでするのは、ボスロもソフィアを見込んでのことだろうか。


「……今後、魔族と戦っていくに従い、人間側は力を結集しなければならないだろう」


 ボスロは、なおも俺とレーフィンに語る。


「今回のような戦いだって存在するだろう。だからこそ、経験させるべきではないかと思ったまでだ。もっとも、戦術そのものを教え込むわけではないため、無意味になるかもしれないが――」

「いえ、必要なことだと思います」


 ここでレーフィンが語り出した。


「将軍と共に、行動すること……ソフィア様にとっても、大きな意味を持つことになるかと思います」


 ――レーフィンは以前、ソフィアが今後どうするべきなのか迷っていると語っていた。ボスロに「必要なこと」だと語るのは、その辺りを決断させる後押しになると考えたのだろう。


 そう考えた直後、レーフィンは俺に体を向けた。


「私もまた、ソフィア様をお守りすべく、尽力します。アマリアやロクトもまた、同じく」

「……わかった」


 頷く。それに、ボスロも王女が近くにいるのならば、先ほど俺に約束したことについても守るだろう。ならば――


「ボスロ将軍、よろしくお願いします」

「うむ、ルオン殿も、頼む」


 ボスロは俺に、どこか懇願するように返答した。


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