防衛手段
宿に戻り、一度将軍と話した食堂を確認。既に仲間達の姿はなかったので、部屋に戻る。
「ああ、やっと戻って来たか」
クウザが出迎えてくれた。部屋の奥にはシルヴィやソフィアの姿もある。
「待っていた、という感じか」
扉を閉めながら言及すると、シルヴィが話し始めた。
「その様子だと、色々と話をしてくれるのか?」
「……いずれにせよ、全てはこの戦いが終わってからだな」
俺の言葉に、シルヴィは肩をすくめた。
「ま、そう言うと思っていたよ。ボクとしてはいずれ話す気でいるようだし、それで今は満足しておこう」
あっさりと言い、彼女は部屋を出た。残されたクウザとソフィアに目を向けると、クウザはシルヴィに同意するような考えなのか、小さく頷いた。
残るソフィアだが……彼女は、俺についてではなく別の点について言及した。
「……度々レーフィンなどが私の傍を離れていましたが、それはルオン様と関係があるのですか?」
どうするかな……と思ったが、嘘を言うのもと思ったので、
「関係があったのも事実だが、それが全てというわけではないと思う」
「わかりました。私も今はそれだけ聞ければ十分です」
「……怒らないのか?」
なんとなく質問をぶつけてみると、ソフィアはほのかに笑みを浮かべた。
「命を助けて頂き、さらにここまで鍛錬をして頂いた。怒る理由なんてありませんよ」
「そっか」
俺は心の中ですまないと呟きつつ、将軍について言及。
「あ、それとだが、ソフィアのことは将軍も看破していたぞ」
「……あそこまで鋭い洞察をされた以上、私の事を気付いてしまうのは至極当然でしょうね。どうすると言っていましたか?」
「戦いが終わるまでは、秘密にしておくと」
「わかりました。戦いの後どうするかは、落ち着いた後に考えましょう」
結論を出し、ソフィアはシルヴィと同様部屋を去った。
結局、仲間達は全員俺のことを待つ構えらしい。それはきっと三人で話し合っての結論なのだろう。
俺は残るクウザに視線を移す。
「……戦いについては、将軍の指示に従うことになると思う」
「だろうね。で、私達の扱いは?」
「悪いようにはしない、と。やっぱり魔族の侵攻度合いによって俺達をどうするか判断しなければならないみたいだし、明言は避けられたよ」
「どういう状況になるかわからない以上、当然だな」
クウザも納得の声を上げる。その顔には、ちょっとばかり不満の様子も窺えるが――
「ルオンさん、一ついいかい?」
「ああ」
「ルオンさんが俺達を騙すような真似をしているようには思えないんだが……ルオンさんがそこまで語らないというのには、深い理由があるのか?」
「……正直、説明しにくいな。ただ一つ、現時点で俺から言えることは」
「うん」
「俺一人の問題じゃない、ということだけだ」
言ってから、ヒントを与えてしまったかなと思ったが……クウザはそれ以上言及せず「わかった」とだけ返した。
「ま、今はひとまず目先の戦いだな」
「ああ」
「頑張ろうじゃないか」
気合を入れたクウザの声。俺はそれに頷き――戦いに備え、今はゆっくりと休むことにした。
それから数日後、とうとう魔族の存在が王国側にも鮮明になる。
加え、軍となった魔物が都へ迫っている状況が報告される。北と、東西に敵影あり――そういう報告が成されたはずで、俺は将軍から呼び出しを食らった。
「それじゃあ、行ってくる」
俺はソフィア達に告げると、宿を出た。指定された場所はなんと王宮だった。
ソフィアのことを考慮してか赴くのは俺だけ。しかし仲間と話し合い……結果、懸念があった。
「ボクらはあくまで部外者だ。将軍の提案だから無茶はやらされないと思うけど、さすがに拒否権がないような状態はまずいな」
シルヴィはそう述べた。クウザもそれには同意で、対策が必要という結論に至った。
というわけで、俺には同行者が、その相手は――
「この判断は正しいと思いますよ」
「そうだな」
レーフィンだった。彼女は俺の周囲を飛び回りつつ、話を行う。
「それでルオン様、私はどうすれば?」
「将軍にもレーフィンの存在は話していないけど……ま、あの人なら事情はすぐに理解するだろ。建前上はレーフィン自身が挨拶をしたかったから、ということにしておくか」
「わかりました」
「ちなみにだが、レーフィン。カナン王と会ったことは?」
「ありません」
「城に忍び込んだことは?」
「二回ほど」
あるのかよ。内心ツッコミつつも、それ以上言及しないことにした。
城を訪れると門の前でボスロが待っていた。挨拶をした後レーフィンについて紹介すると、彼は笑った。
「なるほど、彼女を抑止として同行させたわけか」
あっさりと看破。けれど将軍の言葉には続きがあった。
「残念だが、そうした行為は無駄になった……今回案内するのは、私の部屋だからな」
「私室ですか。その方が逆に驚くんですが」
ボスロは笑う。それから俺達は、中へと入る。
城内は色々と動き回っているのか、靴音を始めとして物音が聞こえてくる。それに耳を傾けつつ、歩くことしばし。部屋に到達し、その中へと通された。
大きな家具がベッドぐらいしかない、極めてシンプルな部屋だった。むしろ客間なんじゃないかと思うくらいに物もないのだが……テーブルの上に書類が山積みなっている辺りで、どうにか使用している部屋なんだと認識することができる。
「さて、既に戦闘態勢に入り、城内も動き出している。魔物の進軍速度から考えて、数日中には戦いが始まるだろう」
「国側は、どう対応するんですか?」
「迎え撃つ。魔物達は北と東西の三方向から攻め寄せてきている。それに対し、我々は都の城門を固め、四方を守るような形になる」
ゲームでは、南門に敵は存在していなかった……が、それはあくまでゲーム的な演出で、実際にはそれなりに魔物や兵力がいたと考えた方がいいだろう。もし敵がいなくとも、門の警戒を緩めるわけにはいかない。
「偵察部隊の確認によると、魔物の主力はコボルト。武装しているが能力的には下級クラスで、こちらの一般兵でもどうにか対応できるだろうと予想している。そして、北側にどうやら敵の主力部隊がいるらしい」
「では将軍は、そこを?」
問い掛けに、ボスロは頷いた。
「うむ、北から押し寄せる戦力が数も一番多い。敵の出方次第ではあるが、まずはそこを対処する必要がある」
「東西については?」
「それぞれ騎士が受け持つことになるだろう」
「……その指揮官の名を、聞くことはできますか?」
問うと、ボスロはアティレとシェルクの名を口にする……色々とあったが、ひとまずアラスティン王国側はゲーム通りの防衛をすることで間違いなさそうだった。
ここで俺は考える――今回の戦いは軍団と軍団のぶつかり合い。ゲームにおいて騎士が戦死するという悲劇はあれど、クリア自体の難易度は低い。だが、亡国の危機に晒されているこの状況で、ゲームのように簡単にいくのかという疑問がある。
それは今後の戦い……特に南部侵攻についてもあてはまるだろう。リチャルの証言から考えても魔族の南部侵攻については鬼門と考えていい。今回の戦いがどのようなものかをしっかりと確認し、こうした軍団同士と激突がどのようなものなのかを、理解しておく必要がある。
「状況はわかりました。それで、俺達についてですが」
「うむ、そこだ。今回は、それについて相談をしたい」
「相談?」
聞き返した俺に対し、ボスロは難しい顔で頷いた。




