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賢者の剣  作者: 陽山純樹
神霊の力

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精霊の提案

 宿へ帰る前に、俺はレーフィンと会話をすべく一軒の店に入る。カフェのような店内で、冒険者と精霊という構図では目立つかなと思ったが、店員は普通に俺達を迎え入れ、席に通してくれた。


「……さて、話し合いというのは、俺のことを話すかどうか、だな?」

「はい、まさしく」


 頷くレーフィン。本題に入るかと思ったが、その前に彼女は一つ確認を行った。


「将軍は、なんと仰っていましたか?」

「俺の事を看破し、なおかつソフィアの正体も察したらしい。ただ、戦いが終わるまでは報告しないそうだ」


 ここで一拍置いて……彼女へ続ける。


「今回、この場所で戦争を引き起こす魔族に心を読むような能力はない。そもそも将軍の能力から考えれば、おそらく心を読む精神系の魔法は通用しないと思うが……ともかく、将軍が話さなければ情報が漏れる心配はないと思う」

「そうですか……ならば、本題です。ソフィア様達に、事情を話すかどうか」

「レーフィンは以前、ソフィアにまだ話すべきではないと語っていたが、それについてはどういうことだったんだ?」


 俺の質問に、彼女は一度考え込むように視線を落とし、


「ソフィア様の心情的な問題を考慮して、です」

「心情?」

「私がソフィア様と契約した時、その心の内では様々な感情が渦巻いていました……祖国を奪還しなければならないという使命感。これが一番大きかったように思います。また、強くならなければならないという重圧や、魔族に対する復讐心もあった。そして」


 レーフィンは、俺と視線を重ねた。


「剣を握り、本当に大丈夫かという……不安。これもまた、同居していた」

「つまり、その時は不安もまた大きかったと」

「はい」

「接していて、そういうのはほとんど感じなかったけど」

「役者としては、ソフィア様の方が上ということでしょうか」


 俺は肩をすくめる……しかし、レーフィンの語ったことは気になる。


「不安が多いから、俺のことを伝えないようにしていたと?」

「ルオン様の力を見れば、この方についていけば大丈夫という確信を抱く可能性もあったでしょう。しかし私は、もう一つの可能性を危惧した。ルオン様の存在を目の当たりにして、自身の力を否定する可能性を考慮したわけです」


 ――私の力は必要ない。王女という立場から、引き下がるべきだ――ソフィアがそんな風に考える可能性を考えたのか。


「……レーフィンには説明したけど、最初ソフィアは俺の教えを受けようとして必死になっていた。その時点で、王女という身分から戦うべきではないという考えは、捨てたと思っていたんだが」

「その時は様々な感情はあれど、前に進むしかないという精神状態だったのでしょう……強くなるにつれソフィア様には迷いが生まれた。魔王打倒ではなく、祖国解放の時点で剣を置く……そうするべきではないかと考えたのです」

「……その時、俺が魔王打倒にはソフィアが必要だと語った場合――」

「迷いと不安……ソフィア様がどう判断するかは、予測がつきませんでした。人間側が優勢になっている現状も、剣を置くという考えをさらに強くした」


 ……レーフィンはソフィアの感情を察するからこそ、そういう考えに至ったのだろう。俺としてはやりようもあったんじゃないかと思うが――


「レーフィン、一ついいか?」

「どうぞ」

「そっちのスタンスとしては、ソフィアを戦わせる方向に持っていきたいのか?」

「私はあくまで、ソフィア様の意志を尊重したいと考えています。迷いの果てに剣を置くという結論に達したならば、私を含め契約した精霊は、従います。今の私にできることは、ソフィア様が今後戦い続けることを表明した場合に備え、色々と段取りをしておくことだけです」


 そこにはきっと、彼女なりの期待も含まれているんだろう。


「……レーフィンの言い分は理解した。で、ソフィア達に話すかどうかを決める以上、今は心境にも変化が?」

「このアラスティン王国を訪れ、潮目が変わりました」

「変わった?」

「はい。大きな戦いが差し迫る中、ソフィア様はこの国の行く末を、バールクス王国と重ねているようです。そして、カナン王の存在を改めて思い出した。彼は間違いなく、宝剣と共に前線に立ち続けるだろう。ならば王女である自分もまた、人々を鼓舞し戦い続けるべきではないかと考えるようになった」

「王族であるソフィアがそれを成せば、人々の結束はさらにゆるぎないものとなるだろうな」

「はい。ですが、そこに至るにはまだまだ力が足りないと考えている」


 それに、重圧も感じているんだろう――ソフィアの存在がはっきりと公表できる状況となれば、人間側も士気が上がることは間違いなく、魔王や魔族に対しても脅威となるだろう。南部侵攻についても、さらに戦況が改善されるかもしれない。しかし、ソフィアは果たして自分にその役割を全うできるのかと考えている――


 考える間に、さらにレーフィンが言う。


「ともかく、この国に来てソフィア様は自分自身がどうすべきかを、再考している様子なのです」

「つまり、話ができる状況になるかもしれないってことか」

「まさしく。そこで、ルオン様にご提案が。今回の戦いを通して、もしソフィア様が決意を新たにしたら、話をするというのは」

「……確認だが、ひとまず話をしなくとも、現状の関係が崩れる可能性は低いよな?」


 俺はレーフィンに尋ねる。


「例えばシルヴィについては、俺の実力の一端を知っているが、態度に変化はない。加え、クウザもそうだが敬意を払っているということだし、いずれ話すと言えば、完全に納得しないまでも承諾はしてもらえると思う」

「ソフィア様も、それは同じでしょうね……しかし、少しでも早い方がいいというのが、私の考えでもあります」

「早い方がいい?」

「はい……もう一つ確認ですが、カナン王に事情を話し、協力を得ることについてはどう思いますか?」


 さらなる質問。話が見えてこないのだが、俺はひとまず彼女の問いに答える。


「南部侵攻が脅威である以上、話すのもアリだとは思うが……」

「もし話すのであれば、これから起こる戦いが終わった後……そのタイミングで、ソフィア様がご決心されたら話すというのはどうでしょうか?」

「……なぜそこまで性急に?」


 こちらが逆に問うと、レーフィンは目を伏せた後、


「カナン王に話をするタイミングとしては、戦いが終わった後……これでギリギリになるのではと、考えたからです」

「ギリギリ?」

「南部侵攻の対策です。兵を集めるには当然、時間が必要でしょう?」


 確かにそうだが……ただレーフィンの話す内容は、やはり性急のようにも感じられるが――


「ルオン様。さらに確認ですが、人間側が優勢になっているのは間違いありませんよね?」


 さらに唐突な問い掛け。俺はちょっと戸惑いつつも、応じる。


「え? あ、ああ。それは間違いない」

「そして五大魔族との戦い……そのうちの二体は、前提となる出来事が存在する」

「ああ、そうだ」

「その前提となる出来事がいつ起きるかは、わかりませんよね?」

「使い魔で確認しているから、イベントが起こればわかるが……」


 そこまで言った時、俺はレーフィンが何を言いたいのか察した。


「……つまり、こう言いたいのか。五大魔族との戦い――人間側が優勢となったため、これまでよりも魔族に対する活動が増えるだろうと予想した」

「はい」

「となれば、三体目と四体目……同時に攻略が始まる可能性があると」


 レーフィンは頷いた。なるほど……今までの戦いだってその可能性があったわけだが、人間側が優勢となり、さらにその可能性が高まっているというわけか。


「もしソフィア様達に事情を説明するにしても、危急の時に話をすれば、どうしたって戸惑うでしょう。それよりは、ルオン様の実力が把握できる余地を少しでも残している状況である今、話をした方がいいと思うのです」

「仲間にも事前に話しておいて、今後の戦いがどういう方向になっても、応じれるよう備えておくということか」


 レーフィンの主張は確かに理解できるが……俺は頭をかきながら、彼女に言う。


「確かに、今後の事を考えると早めに済ませた方がいいかもしれないな」

「ちなみにルオン様。五大魔族は残り三体。そのうち二体は前提となる出来事があるようですが、残る一体は?」

「北部の方に居城を構える魔族で、人間側もそこまで行動範囲を広げていない。加え、その魔族については他にも色々とやらなきゃいけないこともあるから、おそらくその魔族と戦う人物が出ることは、ないとは言えないが可能性は低い。他の二体が先に動き出すだろうな」


 俺は歎息しつつ、レーフィンが語ったことを頭の中で整理する。


「言いたいことはわかった。確かにタイミング的に、できるだけ早く語った方がいいんじゃないかと思うのは、理解できる」

「では、提案を――」

「ソフィアの決断次第だけど……もし、迷ったままだったらどうする?」

「カナン王に事情を説明するのは、やった方がいいとは思っています。よって、王に相談するのが良いのではないでしょうか?」


 それしかない、かもしれないな。


「……状況は流動的に変わりそうだな。ひとまず、戦いの後再度相談しよう」

「わかりました」


 レーフィンは応じ――こうして、将軍及びレーフィンとの話し合いが終わった。


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