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賢者の剣  作者: 陽山純樹
神霊の力

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戦争前の密談

 ボスロと共に歩いていて気付いたのだが――将軍が歩いているというのに、あまり人々は関心を示さない。一瞥はするのだが、不審な目などを向けられることが一度もない。日常旅人を試していることもあり、こういう光景が見慣れたものだからなのか。


 やがて彼の案内により開店前の酒場に辿り着き、入る。店内はしんと静まり返り、俺達が発する足音がずいぶんと響く。


「――話をする前に、一つ確認したいことがある」


 言うや否や、彼は突如剣を抜いた。


「そちらの実力……技術を確認したい」

「……どう贔屓目に見ても、俺は将軍のような剣技は持っていませんよ」

「うむ、剣技という観点では戦士の中で上の部類ではあるが……君より上の技量を持つ人間は多いだろう。私もその中に含まれるはずだ――」


 一歩で間合いを詰める。店内は飲食する空間としては広いが、立ち回る空間にしては狭い。だから彼が詰め寄るのも一瞬で、流れるような剣戟があっという間に迫ってくる。

 だが俺は、それを瞬時に抜いた剣で防いだ。同時、ボスロが魔力を高めたのを悟った直後、俺もまたそれに応じ魔力を発する。


 腕に巻きついているガルクのリボンが熱を発する――同時、俺の一撃はボスロの体を後方に吹っ飛ばした。


「――っと!」


 だがボスロは体勢を崩すことなく、足でブレーキをかけた。俺は剣を振り抜いた体勢を維持し、ボスロを見返す。


 やがて、


「……見事。君のその剣は、いかなる技術を遥かに凌駕する、その魔力が根源というわけだ」


 剣をしまうボスロ。俺もまた剣を鞘に収め、ボスロに問う。


「最初に打ち合った時、気付いたんですか?」

「一度目で、私の剣と真っ向から対峙できる力を所持しているのは理解できた。だが次……剣を受け流した際の動きを見て、思った。どうやら君には、私の剣がはっきり見えている。次いで考えたのは、魔力強化が常人とは別格の力を所持しているのではということ」

「……正解ですよ」

「その力、どのように手にした?」

「努力の積み重ね、ですね」


 嘘は言っていない。


「俺がここまでできたのには、もっと色々理由がありますけど……」

「ふむ、誰にでもできる、というわけではなさそうだな。まあいい。そうした実力を隠しているのは、魔族に悟られると危険というわけだな?」

「はい。今は対策をしていますが、魔力の多寡を調べられてしまった場合、どうなるかわかりません」

「つまり、どうなるかわからないほど……魔族に警戒されるほどの力を抱えているわけだ」


 確認するようにボスロは言う。俺は素直に頷き、


「ですが、今回の戦いでそれをお見せすることは――」

「わかっている。露見した場合のリスクを考えてだな……仲間のことを含めて」


 ――最初、どういう意味なのかわからなかった。だが次の瞬間、俺は確認するように問う。


「あの、もしかして――」

「生きていたと理解した直後、私は心底驚き、また安堵した」


 ソフィアのことだ。変装をしてなお、気付かれてしまったらしい。ただこれまで俺達のことを看破してきた将軍だ。むしろ理解して当然と言えるのかもしれない。


「私も、白日の下に晒そうと思っているわけではない。まだこうして活動していることを隠さなければならないのは理解できる……だが」

「カナン王ですか?」

「そうだ。陛下は王女のことをいたく心配しておられた。以前、この国に従妹である騎士エイナが訪れ事情を聞き、バールクス王国奪還について協力しようと話し合った。それは全て、王女を救うため」


 そこで将軍は、俺へ視線をぶつけ、


「だが、こうして生きている事実を知り……できれば、内密に事情を説明したいと思っているのだが」


 将軍がこうして提案する以上、カナンに話すことについてはソフィアも賛成するだろう。しかし――


「……確認ですが、それは戦いの前ですか? 後ですか?」

「今は戦争前であるため、話すべきではないと思う」

「俺も同意です。もし事情を話すとなれば、いずれくる戦いが終わった後に」


 戦いの後ならば、カナンも覚醒した後なので問題はないだろう……そう考えていると、ボスロからさらなる言葉が。


「それで、君の方も話があるらしいな」

「はい」


 頷き……こういう場だ。少々要求してもいいだろうと思いつつ、口を開く。


「お伺いしたいことは二つ。まず、俺達の扱いですが」

「戦況を見て判断しなければならない面もあるため、ここで明言はできない。だが決して悪いようにはしない。王女のこともあるからな」

「わかりました……では二つ目。正直、こうした要求を飲むことは難しいとは思いますが」

「話してくれ」

「戦争における、俺達の扱いについてです。四人を分散させることは可能ですか?」


 問い掛けに、ボスロは首を傾げる。理由もなく提案しても、受け入れてもらえないのは当然。なので――


「――俺のことについて、現時点で話せることは少ないです。ただ一つ。この戦いについて、俺自身予測できていることがあります」

「ほう、それは?」

「どういった魔族や魔物が攻めてくるかはわかりませんが、戦いの構図としては四方の城門を守るという戦いとなるでしょう。そして将軍を含め、騎士達はそれを迎え撃つ」

「そうなる可能性は高いだろう。魔物の侵攻はひどく静かだ。こちらも捕捉することは難しく、打って出るのは困難。都を守るような構図となるはずだ」

「その中で、魔族は将軍を含め、軍を率いる指揮官を狙ってくるか、指揮官を倒すための魔物を用意している可能性がある」


 こちらの言葉に、ボスロは僅かに目を細める。


「それは……私を倒す役割を持つ魔物がいるという話か?」

「はい。アラスティン王国は領土的には小さな国ですが、将軍を含め大陸に名が通っている人物もいる。今回、間違いなくそうした騎士が、門を守る指揮官を務めることになるのでしょう?」


 アティレやシェルクも、騎士達の間では多少なりとも話題になっている……そういう話を、ゲーム上でエイナが主人公の場合語られていた。


「魔族側も、それについては理解しているはずです。よって、対策を講じる可能性があります」

「……つまり、こう言いたいのか」


 ボスロは悟った表情で俺へ言う。


「その実力によって、指揮官を君達が守ってみせると」

「はい。俺の仲間の実力は、ご認識している様子。よって、そうした役回りをさせていただければ……本当なら、騎士にこういうことを言うのは失礼なのかもしれませんが、相手は魔族。どのようなことが起こっても不思議ではありませんし、備えは必要かと」

「なるほど、な」


 ボスロは俺と目を合わせつつ、言葉を零す。


「ただ、一つ疑問がある。そこまで色々と憂慮していること……何か、この町に思い入れがあるのか?」


 ――さすがに「俺はゲームでこの戦いの結末を知っている」などと言っても信じてくれないだろう。またボスロもそこまでは読み取れない様子。当然か。


「事情については、いずれお話する機会があるかもしれませんが……説明するにも長い話になりますし」

「そうか。状況も状況だ。詮索しないことにしよう」


 まるで、全てを悟りきっているかのような言い方。俺は何も答えなかったが、ボスロはさらに発言した。


「いいだろう。ただし、一つだけ条件がある」

「条件?」

「どの場所にそれぞれを配置するかは、当然ながら魔族の状況を見て考慮する他ない。どう動くかについては、私に一任させてもらいたい」


 これは至極当然の話。とはいえ、俺はボスロが戦死することを考慮し――


「……ボスロ将軍の場所については、間違いなく激戦と予想されるところになるでしょう。当然、魔族も相応の準備を行うはず」

「私のことを心配してくれているみたいだな」

「将軍を失えば、軍は大きく士気を下げるでしょう」


 こちらの言及にボスロはわかりきっていると言わんばかりに頷き、


「そうだな……その辺りについては魔族の配置が判明してから相談でもいいか?」


 相談――将軍自ら俺に対しそう語るのも変な話だが……俺の力に加え、ソフィアと共に行動しているから、一定の信用を持ったということなのだろうか。


「……わかりました」


 同意し、俺は店を出る。なんだか話がずいぶんとおかしな方向にいった。とはいえ、やり方次第では全員を助けられる可能性が一気に高まる。頑張らないと。

 そして、ソフィア達について……さすがに将軍と打ち合って、言及の一つもあるだろう――考えていた矢先、俺の目の前にレーフィンの姿が。


「ルオン様」

「あれ? ソフィアと一緒じゃないのか?」

「私だけ、将軍と会う前に外に出ていたのです」


 そう語ると、レーフィンは俺と目を合わせ、言った。


「ルオン様も、色々考えていると思います……少しばかり、話をしませんか?」


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