将軍の強さ
一気に仕留められると思ったか、それとも胸を借りるような気持ちだったのか――ともかくシルヴィの動きは直情的で、正面からボスロへ向かっていく。
まさしく真っ向勝負。彼女としては将軍の力がいかほどか試す意味合いが強いのだろう。
一方のボスロは動かない。シルヴィの動きから、どういう意図なのかはおそらく戦歴の多い彼も気付いたはずだが――
刹那、シルヴィとボスロの剣戟が激突する。轟音が周囲に響き、ギャラリーの人々も驚いた表情を見せる。
結果は……動かなくなった。シルヴィが押し切るわけでもなく、かといってボスロが弾き飛ばすわけでもない。
「……ふむ、なるほど」
その中でボスロは声を上げる。同時、剣を押し返しシルヴィと距離を置く。
だが、彼女は攻勢をやめなかった。続けざまに間合いを詰めると、横薙ぎを放とうとする。
それは間違いなく中級技の『ベリアルスラッシュ』であり――ボスロはこれも真正面から受けるか、と思ったのだが、違った。
まず剣を受け――平然と受け流した。シルヴィの技には相当な威力が乗っていたはず。それを平然と……やはり、只者ではない。
「そろそろ、反撃した方がいいか?」
ボスロが問う。声音には余裕が窺え、シルヴィとしては不服と思ってもおかしくないような状況。
だが彼女としても、この戦いの結末がわかっているのか――何も言わずボスロを押し込もうとする。
そこへ、反撃に転じるボスロ。その動きはただまっすぐ動いただけなのだが――シルヴィがまるで抵抗も無く吹き飛ばされたように見えた。
「あの齢で、力も相当有り余っている感じか」
クウザが評する。その間にシルヴィは体勢を整え直そうとした。
けれどそこへ畳み掛けるようにボスロが仕掛ける。決めにかかる――そういう意図がはっきりと見え、俺はこの攻防で決着がつくと直感する。
シルヴィも対抗すべく剣を動かす。受けるつもりだったようだが、ボスロの剣戟が刃に触れた瞬間、さらに吹き飛ばされた。
さすがに体勢を維持するのは無理そうだった――受け身がとれず倒れるシルヴィ。素早い動きで立ち上がりはしたが、ボスロはこの時点で剣を鞘に収めていた。
「今の攻防で、実戦であれば勝負がついたのは理解できるだろう」
「……まあ、ね」
シルヴィは語り、彼女もまた剣をしまう。その顔は悔しさなどはなかった。むしろ、将軍の力を目の当たりにして、満足している様子。
「しかし、ずいぶんと力押しなんだな」
「相手によって戦法は変える。そちらは力よりも技で応じる構えだったからな。ならばと、こちらは力で押してみたまで」
ボスロはそう語ると、シルヴィへ笑って見せた。
「技の勝負であっても、おそらく私が勝っていただろう。ただ、そちらの場合はもう少し健闘したかもしれん」
「……どういうことだ?」
「技自体は、練度も相当なものだ。高い技量を有しているのがはっきりとわかる」
今の攻防で相当理解したのか、ボスロは確信を持って語る。
「だが力勝負では、私の方がずっと上だった。よってこういう結果となったということだ」
「……まるで、ボクの課題がそこであると言いたげだな」
課題……その言葉によって、クウザが発言する。
「シルヴィの技量を見て、力押しで攻める存在に対し何か考えておけ、ということかな?」
――この戦い、単にシルヴィの実力を見定めるだけでなく、問題点を見出すようなものでもあったということなのか。
「確かに、ボクが今後どうすればいいかわかったかな」
シルヴィもまた認める。すると、ボスロは笑みを浮かべ、
「どうやら、何かしら目的がある様子……それも、後ろ暗い何かが」
ピクリ、とシルヴィが反応――ボスロが彼女の戦う理由なんて知る由もないはず。それなのに、今打ち合っただけでわかったというのか?
「それについて深く問うことはせんよ。今回私と戦ったことで、何か参考にしてもらえると嬉しく思う」
「……どこまでも、お見通しという雰囲気だな」
シルヴィが言う。対するボスロは肩をすくめ、
「その人間の剣術……それによって、どういう生い立ちを持っているかおおよそ知ることができる。まあ、私が長く剣と共に生きてきたためにできることだ」
極めると、そういうことにもなるらしい……これは間違いなく「人と」ぶつかり続けてきたからこそわかる、経験の力だ。魔物と戦い続け強くなった俺とは、異なる強さ。
シルヴィは「わかった」と応じ、戦いが終わる。気付けばギャラリーも潮が引くように去り始め、ようやく場が落ち着きを取り戻し始める。
けれど――俺はボスロを見て、嫌な予感がした。その表情からは、俺達への興味が失われていないことが理解できた。
「――そちらの御仁は、どうだ?」
俺へ視線を向けつつボスロは言う。
「俺が?」
「ああ、一度手合せしてみたい」
まだ続くとわかったギャラリーの幾人かが立ち止まる。いや、待て。さすがにこれはまずいかもしれない。
加減をすれば、たぶんバレないとは思うけど……いや、シルヴィの背景まで打ち合っただけで把握した将軍だ。俺の事も何かしら察するかもしれない。もしそうなったらどうなるのか……予想もできないため、色々な意味でリスクが高い。
ここは断るべきだろうな――と思っていたのだが、さらにボスロが語った。
「見たところ、このパーティーの中で一番の実力者は君だろう? さらにフードのお嬢さんのことから、従者と主人という関係の様子。さらに他の二人は君に対し少々敬意を払っている様子。となれば、リーダーなのだろう?」
……出会ってほんの少しの時間にも関わらず、そこまで見抜いたというのは最早ボスロが相当な人物であるとしか感想が浮かんでこない。
「……敬意、払っているのか?」
俺はなんとなくシルヴィとクウザに確認してみる。
「ボクはリーダーということで、何かあったらルオンを立てるつもりではいたよ」
シルヴィが言う。次いでクウザは頭をかきつつ、
「私はルオンさんに誘われた形だから、リーダーだとは認識していた」
……そういうのを、所作とかから見抜いたということなのか。
俺はボスロを見る。嬉々とした表情に、このまますんなり通してもらえるとは思えないが……断るべきだろうな。
「不服そうだな」
そこで、シルヴィが突然語り出した。
「ボクとしては、リーダーがどれくらい実力あるのか確認したいけれど」
「ああ、それは私も同意」
クウザも賛同する……って、ちょっと待てって。
俺は二人の言葉を制止しようとしたが、その時ふとソフィアの視線に気付き首を向ける。
「……ルオン様」
小声で語るソフィアの声音にも、シルヴィ達と同じような考えを持っていることがわかった。自身の素性がバレる可能性があるはずだが、それでもなお興味の方が上回ったか。
梯子が外されたような気がした……というか、こうやって興味を持たれてしまった以上、おそらく逃げ場なんてないのだろう……そう心の中で確信し、俺は言った。
「……わかったよ」
俺は言葉と共に前に出る。新たな戦いが始まるということで、残っていたギャラリーも沸き立った。
「よし、やろうではないか」
ボスロが言う。俺は彼と対峙しつつ、ゆっくりとした動きで剣を抜く。
……しかし、この場に立ってしまったはいいが、どうするべきかな。勝つのはどうなのか。かといって、一撃で倒されるような――というか、わざと負けるようなこともボスロは看破するだろうし、納得しないだろう。
これは厄介な戦い……そう心の中で思いつつも剣を構え――
直後、シルヴィの時とは異なり、先んじてボスロが動き出した。




