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賢者の剣  作者: 陽山純樹
神霊の力

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戦争の兆候

 さて、アラスティン王国へ向かうことになったわけだが、旅をする間にイベントが発生するかどうかもわからない。その辺りのことを逐一使い魔で調査しつつ進んでいく。


 ただ、ソフィアが不安を抱いた要因となった噂話については、確かに訪れる町で聞かれた。もっともその内容は様々で、既に戦いが始まっているなんてずいぶんと先走ったものから、兵達が集結しているという現実味のありそうな話まである。果ては既にカナンが敵を倒したなんて話もあるくらいで――


「下手に惑わされないほうがいいだろうなぁ」


 訪れた町で、宿を探している時クウザが口を開いた。


「公的な情報としては、現在アラスティン王国はあくまで戦争準備をしているというだけ。これだって魔族が襲撃をしたというよりは、周辺諸国の情勢を考え備えているという見解が正しいと思う」

「ボクもそれには同意する」


 シルヴィもまたクウザの言及に賛同。


「ただまあ、いつ何時魔族からの攻撃が起こってもおかしくはないだろうね。宝剣を持つ国家だ。賢者の血筋とは異なるわけだけど、その力は大陸中に知れ渡っている。魔族側だって警戒するはずだ」

「現在、まだ若い王様は宝剣を扱えないんだったっけ?」


 クウザがソフィアに問う。すると彼女は一考し、


「宝剣の継承自体は十歳の時に行われ、そこから訓練を始めることになっていますので、使う事はできると思います。ただ、使うことと魔族を打ち倒すくらいの力を出せるかは別の話です」

「宝剣にも使い方があるってことか」

「まさしく……カナンもその辺りは認識していると思いますが」


 ……彼の実力については俺も調べがついていないな。ただ一つわかることは、これから始まるであろう戦いを通して、カナンが覚醒し宝剣を自在に使えるようになるということ。


 戦いの流れとしては、北と東西の三方向から攻め寄せる魔物を倒す。だが軍勢の総司令である魔族は、戦いに乗じて城へと入り、カナンと対峙する……その戦いで彼は宝剣を完全に我が物とする。

 将軍などを救う場合、この辺りも変わるのだろうか……いや、人間側の勝利が確定してから発生するイベントなので、戦争結果は関係ないかもしれない。


「ともかく、先を急いだ方がよさそうだな」


 俺が言う。ソフィア達は頷き――その日は、宿場町で休むこととなった。






 翌日以降も、旅は続く。そしていよいよアラスティン王国の領内に入ろうというところまで来て、俺はとうとうイベントの兆候が現れたことを理解する。


「都まではまだ距離があるな……とはいえ、小国だ。数日以内には辿り着くと思うけど」


 俺が言いつつ、この国についてのことを思い出す。なだらかな山に囲まれた小国で、気候も温暖で主要産業は農業。宝剣の存在により国自体は有名だが、小国かつ軍事力も低い。けれどここまでこの国が存続してきたのは、周辺の大国と連携して魔物をどうにか退散させていたためだろう。


 周辺諸国もどうにか押し返し、徐々に人間側に戦況が傾きつつあるが、まだまだ予断を許さない状況。その中で、アラスティン王国は周辺諸国との連携を一時途切れさせてしまう――もしかすると、これは魔族による分断工作なのかもしれない。


 ともかく間違いないのは、魔族にとっては絶好の機会だということ。


「……ん?」


 ふいに、クウザが声を上げた。距離はあるが、街道からやや逸れた場所――そこから、煙が上がっていた。


「……あれは、まさか」


 クウザの言葉と共に、さらに上がる黒煙が多くなる。この時点で、俺も何が起こっているのか察した。


 魔物達の襲撃だ。


「――行くぞ!」


 俺が声を発すると同時、全員動き出す。魔法を使い一気に移動し、現場へと到着する。そこはまさに、攻撃を受けている最中だった。


「助けないと……だが、どうする?」


 シルヴィが問う。近づくとわかるが、その魔物の種類は武装したコボルトで統一されている……能力的にソフィア達ならば楽勝な雑兵クラスの魔物。


 そこで俺はすかさず指示を出した。


「暴れている魔物の能力は、俺達にとってみれば低いみたいだ……俺が村人の状況を確認する。三人は、コボルトを倒してくれ」

「わかりました」

「わかった」

「よし、やろうじゃないか」


 相次いで返事をすると同時、三人は行動を開始する。


 その姿を見送った後、村へと進みながら使い魔を生み出す。三人を観察するものであり――時折そちらへ意識を向けつつ、村へと入る。

 村はあらゆる家が荒らされている。人間であれば略奪なども襲撃理由に入ると思うのだが、魔族が生み出した魔物の場合は、単なる破壊が目的だろうか。


 俺は家々を見回り、生存者を確認しようと動く。その中で、怪我をして倒れる男性を見つけた。すかさず駆け寄り、尋ねる。


「大丈夫ですか?」

「う……あんたは?」

「旅の者です」


 治癒魔法を使用し、手早く傷を塞ぐ。すると男性は苦しそうな表情を和らげ、俺へと言った。


「魔物が、突然……どこから現れたのかもわからない」

「そうですか……仲間が魔物の掃討に当たっています。またおそらく兵士や騎士も駆けつけるでしょう。大丈夫――」


 そこで、仲間の状況を確認する。まずシルヴィ。彼女は見つけたコボルトへ仕掛けると、全てを一撃で倒していく。

 その攻撃速度にコボルトは対応できない様子。シルヴィを見つけ攻撃を仕掛ける奴もいるが、その全てが剣を振り切る前にシルヴィの剣が炸裂している。


 次にクウザ。持ち前の能力で近づくコボルトを魔法で一掃。さらに発見した敵から魔法で確実に仕留めている。魔法の効果範囲から、村の魔物に対する殲滅能力はシルヴィより高いかもしれない。


 そして、ソフィア。精霊の力を用いつつ、的確に剣技で処理している。どうやら魔法を使えるようスタンバイをしているようだが、今回の相手にその必要はないらしく、全て剣で対処している。


 またソフィアとシルヴィは新たに手に入れた剣の感触を確かめるような様子も見せている。剣の真価を発揮するほどの強さではないが、手になじませるには丁度いい相手かもしれない。


 俺も、近くに潜んでいたコボルトを撃破しつつ、村の中を走る。生存者を見つけ介抱し、また索敵によりコボルトを発見し対処。そうした作業を続け……およそ一時間ほどで、戦いは終わりを迎えた。






「――数だけは多かったな」


 クウザが言う。コボルトを全滅させた後、村人が生存者などを確認する間に俺達は合流し、話し合うことになった。


「しかも、魔物は一種で装備している武器が統一されていた。魔族が率いていた魔物かもしれない」

「何らかの指示を受けて、悪さをしているということか?」


 シルヴィの質問に、クウザは肩をすくめた後に答えた。


「考えられる可能性は二つ。一つは、魔族が死んで魔物が散り散りになっている」

「この周辺で、魔族を倒したなんて話はないな」

「そうだな。どこか遠くの魔族がやられ、コボルト達が流れてきたという可能性も否定できないけど、アラスティン王国の噂話から考えると、もう一つの可能性の方が高いと思う」

「それは即ち――」


 ソフィアが、クウザに続いて口を開いた。


「魔族が、軍などを率い動き出している」

「ああ。戦争が始まる前、前兆としてこういう魔物の襲撃が起こり始めたという。いよいよこの国も……ということなのかもしれない」


 それは正解――タイミング的には、丁度よかったのかもしれない。

 その時、馬のいななきが聞こえた。どうやら騎士達が異常に気付き駆けつけたらしい。


「俺が様子を見てくるよ」


 言葉を発し、俺は村の入口へと歩き始めた。


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