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賢者の剣  作者: 陽山純樹
神霊の力

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二人の新たな武器

 二者択一、という場合ゲームでよく見られるのは「礼としてどちらかの武器を差し上げよう」とか、そういうものだろうか。ゲーム上両方手に入ることがないというのはもどかしい気分にさせられるが、よくあるパターンである。


 ただ、今回の場合は武器ではなく人が対象……つまりイベントに加わり、どちらか片方しか救えないという話だ。

 これについて、俺は回避したいと考えていた。つまり、騎士二人を救い、なおかつ必ず死亡する将軍もまた救う……ただ、どうするか悩んでいたのは事実だった。


 この戦い、三方向からの攻撃を受けるわけだが、当然ながら俺の身は一つ。まったく同時にまずい状況に差し掛かった場合、どうするのかという疑問は頭にあった。


 ソフィアを救う前――つまりゲームのシナリオが始まる前の案としては、カナン王に直接話をして、騎士達の動きをある程度統制してもらい、俺が敵の指揮官を倒していくというやり方だった。さすがに俺の能力で魔族の軍団を全て撃滅すると魔王側も反応すると思ったので、密かに動いて指揮官だけを倒し、後は混乱に乗じた魔物達を騎士団が……というのを考えていた。


 その方法の場合、魔族の動き次第という面もある上、さらに動きそのものが変わってしまう可能性が高い。イベントの最後にはカナンの覚醒イベントが存在するため、下手に戦い方を変えるとそれすら発動しなくなる可能性があった。南部侵攻の危険性を考えるなら、彼の覚醒はできればやっておきたいし、そう考えると元々考えていた案は色々とリスクのある勝負だったのは間違いない。


 それに騎士が死ぬ理由自体、戦死という情報以外ゲーム上では詳しく語られなかったので、やはり限界がある……ということで、悩みどころであったのは間違いない。


 ただ、今なら別の手法がとれる。ソフィア達の能力は高い。おそらくこの戦いで登場する魔物に対し十分な強さを持っている。よって、ソフィア達にそれぞれ騎士達の護衛を密かに努めてもらい、危険な状況になったら対応するというやり方だ。


 これなら敵の動きもゲーム通りのはずで、予測もしやすい……ソフィア達が危なくなった場合に備え色々と対策を実施するとして、仲間達に協力してもらうという形は、有効なのは間違いなかった。


 俺はソフィアと相談した後、食事の席でシルヴィやクウザにもこの一件について言う。二人は「構わない」と応じ……ここで、シルヴィが口を開いた。


「アラスティン王国へ行くのは構わないが……」


 シルヴィはソフィアの顔を見る。言いたいことはわかる。彼女の存在がバレるかもしれないということだろう。

 それ以上口にしないのはクウザがいるためだ。俺はソフィアを見る。カナンと話をするかどうかはまだわからないが、少なくともこっちの失態でソフィアのことが露見してしまう、というのは避けたい。


 ただ、その話をする場合、当然事情を知らないクウザに伝える必要性がある。この場でクウザだけ中座してもらうなんてのもどうだろうと思うし――


「ルオン様、私は構いませんよ」


 そこで、ソフィアが口を開いた。


「クウザ様の人となりを見ていて、大丈夫だと判断しました」

「ん? 私の話か?」


 途端にクウザが驚く。すると、シルヴィが息をついた後、話し出す。


「ソフィアが言うのなら、ボクも構わないと思う。もし何かあったら、ボクも対処しよう」

「ちょ、ちょっと待て。何があるんだ?」


 戸惑うクウザ。俺は彼の言及を半ば無視しつつ、シルヴィ達に言う。


「まあ、俺も滞在中魔物と戦い続ける様子から大丈夫だとは思うけど……」

「ちょっと待ってくれよ。こっちを置いて話を進めないでくれよ」


 慌て始めるクウザ。ここで俺達は同時に彼に視線を注ぎ――クウザは動きが止まる。


「……まずいことがあるのか?」

「――ルオン様、事情を話しましょう」

「わかった」


 ――というわけで、俺は改めてクウザにソフィアのことについて説明。結果、彼は「なるほど」と呟いた。


「単なる冒険者じゃないとは思っていたけど……で、問題としてはアラスティン王国の王様に見つからないようにしないといけないってことか」

「ソフィア自身、会うかどうかは迷っているけどね……とはいえ、こちらが失敗して見つかるというのは避けたい」

「そうだなあ……えっと、王女――」

「ソフィアでいいですよ」

「……ソフィアさん、もし戦いとなったら、その王様が前線に出てくる可能性は高いのかい?」

「あり得ない話ではないと思いますし、そもそも将軍などにも顔を知られていますから」

「なるほどね」

「ソフィア、アラスティン王国の人達と最後に接したのはいつだ?」


 俺が質問。ソフィアは少し考え、


「……二年ほど前でしょうか」

「それなら体格なんかを見て判断される危険性は低そうだな。顔を隠せば、大丈夫だと思う」

「鉄仮面でも被りますか?」

「その装備でそれはおかしいだろ……仮面とかかなあ。説明する場合、傷とかがあって目立たないようにしているとか言えばいいかな。傭兵の中にはあまり顔を晒さないようにしている人間とかもいるし、変に目立たなければ大丈夫だろ。俺達もフォローするし」

「とはいえ、どういう変装道具にするかはボクらのセンスが問われるね」


 なんか楽しそうに語るシルヴィ。


「この町の規模なら、それなりに物はあるだろうし、なんとかなるとは思うよ」

「……戦いになるかどうかもわからない状況だが、準備だけはしておくことにしよう」


 そう俺が発言し、会話は終了。以後、ソフィアとシルヴィは変装道具を探すべく町を歩き回ることとなった。


 俺の方は、さらに情報収集を行う。まだイベントの兆候は見られないが、確かに何かありそうな雰囲気にはなっている。もしかすると旅をする間にアラスティン王国で戦いが勃発するかもしれない。


 それと並行して、ガルク達の活動についても報告を聞きつつ……俺達は、剣が完成する日を待つこととなった。






 そして――とうとう剣の完成と、出発の日。クウザを含めた俺達四人は、ガナックの店を訪れる。


「待っていたぞ」


 ガナックと奥さんが快く迎え入れてくれて――いよいよ剣が渡される。


「結構な物ができ上がった。これを使って、魔族を追い払ってくれよ」


 ソフィアとシルヴィに、それぞれ武器が渡される。ソフィアの方は髪色と同様銀色の鞘に収められている。彼女は柄を握り僅かばかり抜くと、青い刀身が目に入った。

 青く、深海を想起させる刀身。ソフィアはしばし剣を眺め……やがて、鞘にしまった。


「魔力に反応して力が高まる。その剣を自在に使えるようになるためには、そちらの腕にかかっている」


 ガナックが述べる。ソフィアは小さく頷き――今度はシルヴィが剣を抜いた。


 ソフィアと異なる真紅の鞘に、刀身は白銀。窓から入る太陽光に照らされ、光り輝く様はどこか幻想的。

 見た目がずいぶんと異なるのは、二人の特性を考慮してのものだろうか。


「ルオン……本当にいいのか?」


 ここでシルヴィが確認。二人の剣を作成するという段階で、彼女は「金は払う」と言っていたのだが、俺は「ソフィアと共に戦ってくれる礼」ということで、最後まで押し切った。


「ああ、構わないさ。その代わり、活躍してくれよ」

「無論だ」

「私も何か作ってもらえればよかったかな」


 クウザが周囲の武器を眺めつつ言う。俺は肩をすくめつつ、ガナックへ礼を述べる。


「ありがとうございました」

「そちらの武運を祈っている」


 彼らに見送られ、店を出る。さて――


「旅の再開だ。次の目的地はアラスティン王国」

「そこで、この剣が活躍するかもしれないな」


 シルヴィが剣を腰に差しつつ言う。ちなみに元の剣は俺が預かっておくことに。


「そうかもしれないな……では、行こう」


 俺の言葉と共に、進み始める。アラスティン王国ではどのような出来事が待っているのだろうか……色々と想像しながら、町を出ることとなった。


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