世界の結末へ
「……これで、後は決着をつけるだけだな」
布陣と共に交戦を始めた仲間達。その最中、俺は星神へ向け話し掛けた。
「仲間達は魔物の対応で精一杯だが、そちらもその体に抱える力だけで対処する必要がある……そうだろう?」
『勝ったつもりか?』
「まさか。これでようやく五分五分だとさえ思っている……ようやく俺達は、お前を滅ぼせる状況にまで持ち込めた」
こちらの言及に対し、星神は表情を消した。油断などない――そればかりか、最大級の警戒をもって俺達が応戦するつもりなのだと理解した。
『……ここまで舞台を整えた手腕については見事と評価しよう。いや、人徳によるものだと言い換えるべきか?』
「どうだろうな……ともあれ、これで最後にしようか、星神」
俺は剣を構える。次いでソフィアもまた戦闘態勢へ。
「勝った方が望みを叶えられる。俺達は世界崩壊を防ぐため。そして星神は……俺という存在を取り込む」
『シンプルでいい。ああ、そうだ。ならば……今度こそ、最後にしよう!』
ズグン、と星神の体から魔力が溢れた。次いで漆黒の魔力が星神の体を侵食し、その姿を異形へと変えていく。
人の形を成したままではあったが、頭部が漆黒によって悪魔のような顔へと変じ、体も強固になっていく。
――この変化はきっと、理性を保てる限界まで魔力を放出した結果なのだろうと俺は推測した。凶悪な力を収束させながら、魔力の流れに乱れがある……自我がある星神では完全に制御しきれないレベルの力。まさしく限界であった。
『さあ、決着をつけよう』
「苦しそうだな」
こちらの挑発的な言動に対し星神は応じなかった。その代わり、
『――ガアアアッ!』
獣のような咆哮を発し、俺とソフィアへ突撃した。周囲では仲間達が魔物を迎撃する中、俺とソフィアは同時に剣を放ち、星神はそれに対抗するべく剣を盾をかざした。
そして激突する俺達の剣……先ほど以上の魔力が純白の平原内を荒れ狂い、上へと昇る。そうした魔力もアナスタシアが受け流すのを俺は肌で感じながら、剣が激突した星神の盾を見据え、それを通し力を探る。
明らかに増えた魔力と、強固な力。さっきのように崩せるとは思えないほど力は高まり、傍から見れば絶望的とさえ思える。
だが、俺達は……魔力を高める。星神の力に対抗、呼応するように剣に力を集めると、俺とソフィアは一気に押し返した。
もし俺だけなら対抗できなかったかもしれない……が、ソフィアという存在があったことで星神は後退を余儀なくされた。そこから――俺達と星神の応酬が始まった。
こちらが剣を放つ前に星神が一閃する。それに対し俺とソフィアは息を合わせて防御を行い――斬撃を、受けとめた。途端、俺達は剣を受け流して反撃へ転じる。
それに対し星神は剣と盾で再び受ける。そして衝撃によってなのか多少動きが鈍った。だから俺は押し込み、剣を差し向けたが――星神はギリギリのところで防いだ。
先ほどまでの力なら、間違いなく届いていたはずの一撃。だがそれを今の星神は防いだ……俺達は可能な限り策を施し、あらゆる対策を講じて目の前の敵と戦っている。理性という鎖によって縛られた星神は、俺やソフィアにとって打倒できる最大の好機であることは間違いない。
だが、それでもまだ届かない……五分五分と言ったが、まだあと一歩足りない。このまま押し切ることができるとしても、星神の核へ到達できるだけの一撃をあの体に刻めるかはわからない。
際限なく膨らんでいく力と、無尽蔵とも呼べる莫大な魔力……自我があるとして一度に扱える量に限界があるとしても、尽きることがないその力を前にして長期戦は不可能だ。
そしてこちらは全身全霊の力でなければ、おそらく届かない……俺はソフィアへ一瞬だけ視線を送った。彼女はそれに気づき見返して、小さく頷いた。
それで俺は決断する。届くか否か――いや、必ず届かせる。そして、決着をつける!
今まで以上の勢いで俺は足を前へ。純白の平原、その大地を踏み抜きながら変貌を遂げた星神へと肉薄する。そしてソフィアも追随し――相手はそれに応じるべく剣と盾を構えた。
同時、星神がまとう武装が異常な魔力を発した。俺達が決めに来る……そう判断し、迎え撃つために魔力を注いだ。次いで星神から発せられたのは咆哮。理性をなくす一歩手前……それほどまでに魔力を引き出し、俺達を倒そうとする。
完全に総力戦の様相を呈していた。次の一撃で決まるのではないかという予想ができるほどに、双方の力が高まっていく。
それは間違いなく正解であり、まさに今、この時をもって世界の結末が決まる……その時、俺は様々なことを思い出した。走馬灯のようであり、なんだか縁起でもないような話ではあったのだが……俺は呼び起こされた記憶を抱きながら、足を前に出す。
全ては星神を打倒するため、賢者の手によってもたらされた出来事だった。転生し、死ぬ運命を避けるために必死で強くなって……俺は魔王との戦いで奔走した。
そして、ソフィアと出会った……俺はただ、彼女に降りかかる結末を回避したいと考えただけの行動だった。けれど結果的に仲間となって……彼女と共に旅をして、戦い続けた。
魔王との戦いが終わっても俺は彼女と一緒に旅して、今こうして肩を並べ星神と戦っている。その結末が、迫っている。様々な出来事を思い返しながら、意識は星神へ注いでいる。
その時、顔すら見えなくなった星神と俺は視線を交わした気がした。同時によぎったのは……いや、星神が送ってくる視線を通してなのか、俺の頭の中に別の情景が浮かび上がった。
それは、世界の歴史の断片とでも言うべきか……星神が破壊を繰り返してきた光景。古代、繁栄した世界を壊し続けた星神の記憶。何度でも繰り返したその光景を、俺は星神を通して脳裏に焼き付けた。
星神はそれをどう思ったのか――わずかに、身じろぎをした。もしかすると俺が星神の記憶を読み取ったように、相手もまた俺の記憶の断片を知ったのかもしれない。極限状態の中で、互いが視線を交錯し……それと共に生じたわずかな動き。
それはまさしく、この戦いを決定づけるきっかけとなった。
俺とソフィアの剣が放たれる。星神は身じろぎをした分だけ遅れて応じ、剣と盾を交差させ防御し、激突した。それと共に俺達はさらに力を高める。いける、という判断だった。この時しかないと断じ、この剣で決着をつけようという、明確な意図があった。
魔力が荒れ狂う中で、俺とソフィアの剣が、星神の剣と盾にヒビを入れた。俺達の力が……星神を打倒するために編み上げられた力が結実し、膨大な力を持つ相手を砕くための刃となった。そこで星神は動揺し、選択に迫られた。退くか反撃するか……だがもう、迷う暇さえなかった。
次の瞬間、俺達の刃が星神の剣と盾を、砕いた。その時俺は、再び星神と視線を交わした。それと共に見えたのは、妄執。破壊と共に消える意識が、消えたくないという強い意思。
アナスタシアの言うように、それは恐怖だった。破壊と共に到来する終わり。それを防ぐべく、星神は俺を取り込もうとした……だが今は、目前にいる俺を排除するべく応戦しようとしている。死から逃れたいという恐怖に由来するもの。その行動に勢いはなく、俺達の攻撃を阻むだけの力は生まれなかった。
「――ソフィア!」
「ルオン様!」
互いに名を呼び合った直後、俺達は同時に剣を振り下ろした。刹那、星神の体躯へと刃が入り、魔力が核を――砕いたのを、理解した。




