星神の中心
ひたすら押しの一手を仕掛ける俺とソフィアに対し、星神はそれでもなお真正面からぶつかるが……やがて、
『そちらも仕組みは理解しつつあるか』
何かを悟ったかそんな言葉が聞こえた。その間にも俺はさらに剣戟を見舞い――盾を押しのけ、一撃入れる。
確実に魔力を減らすだけのダメージは与えている……が、元の魔力が膨大であるため、状況的には終わりが見えない。今は俺とソフィアの剣が決まっているためこちらが優勢に思えるが、こちらが疲弊してきたらどうなるか。
『だが、長期戦になるのは目に見えている……そのはずだ。そちらが星神という存在に対しどのような手を打ってきたのかはわからないが、この状況下では――』
「それは、どうかな?」
俺は応じながら星神を押しのけた。相手はさらに後退しつつ、こちらの様子を窺う。
……どうやら、予想以上に俺達が奮闘していることで多少なりとも顔つきが変わっている。理性を抱く星神にとって、現状については不満らしい。
『どれだけ抵抗しようとも、圧倒的な力の前には通用しないはずだ』
「まあ確かに、馬鹿正直にそっちの魔力を消していく……なんて、無理な話だ」
そもそも、そんな想定はしていない……元々、星神の核をと呼べる場所を探し、そこへ必殺の一撃を叩き込むという形だった。そうした状況と比べ現在は想定とは明らかに違っているが……ここまで得た情報から、俺達は一つの結論に達する。
「ガルク、どうやら星神は――」
『うむ、同じ見解だ』
「なら、いけるな……あとは届くかどうか、祈っていてくれ」
俺は魔力を高める。それは全身だけでなく頭部……いや、目の付近に集中させて、星神という存在そのものを推し量ろうとする動き。
交戦していて気付いた情報を頭の中でまとめ、さらに魔力を探り……俺は目の前にいる漆黒の存在――その背後に、明らかに巨大な力を確認できた。
「星神の意思……それは紛れもなく、星神の中心に位置する存在というわけだ」
その言葉にこちらが何を悟ったか相手は、
『核を探していたか……ああ、確かにこの体の中に核はある。そして理性も』
「……今まで夢の中なんかで遭遇しても気付かなかったが、俺と顔を合わせる際、星神の核としての部分が顔を出していたというわけだな」
『そうだ。人格があるからこそ、星神の中心で力を操れる』
観念したように俺の質問に応じる星神……つまり、目の前の存在を倒せば、星神自体を砕くことができるというわけだ。
その後、残った力についてはどうなるかわからないが……ガルクの言葉を信じるとして、俺は相手を見据えソフィアへ声を発する。
「いけるか?」
「はい、大丈夫です」
彼女は息一つ上がっていない。ここまでは問題ない……ならば、
「星神を倒せるか否かは……この攻防で決まる」
そう断言し、俺はソフィアと共に攻撃を仕掛ける。すると星神はただならぬ気配を感じ取ったか、
『何をやるのか知らないが、こちらに刃が届かなければ意味のないことだろう?』
星神の気配も、変わる。
『今までの戦いで情報を得たのは自分達だけだとは思うな』
「ああ、わかっているさそんなことは!」
返答直後、俺は剣に魔力を収束させ……星神へ、挑む。
次に始まった攻防は、まさしく星神との死闘だった。相手はこちらの意図を防ぐべく全力で防御する。それに対し俺とソフィアはこの攻撃を決めるべく全身全霊で応じる。
先ほどまでも本気であったのは間違いない。だが、気合いの入れようが違っていた……こちらの斬撃を星神は全て受けとめ、いなしていく。明らかに動きが変わっている。今までが本気ではなかったというわけでなく、先ほどの言葉から推測すると、俺達の動きを把握して即座に応戦できるようになっているようだ。
つまり、今までのやり方は通用しない……けれど、俺とソフィアだってやり方は変えられる。これまで鍛錬を繰り返し、培ってきた技術を用いて星神の強固な防御を突破するべく剣を振る。
その時、俺ではなくソフィアの攻撃が星神の剣を大きく弾いた……星神自身、無意識なのか意識的なのかはわからないが、ソフィアよりも俺の方に注目し、警戒していた。結果、彼女に対する注意がおろそかになって防御を突破しそうに……だが、星神は即座に態勢を立て直す。
『無駄だ!』
そう叫ぶように星神は言ったが、俺達の動きは止まらなかった。さらに俺達の剣が星神へ降り注ぐ。相手は反撃できず……俺とソフィアは、なおも攻め立てる。
そして――俺とソフィアが星神の防御を突破したのは同時だった。相手は体勢を大きく崩し、こちらが踏み込めるだけの隙を晒す。
そして俺達は……剣戟を、決めた。見た目だけを言えば先ほどと同じ。だが、今までとは剣に込めた魔力が違う。今回のは――
星神は衝撃によって俺達と距離を置く。そして相手は動きを止めた。叩き込まれた斬撃。それがどういう意味を成しているのか推し量ろうとしており――
『――が、あああっ!』
咆哮にも似た、苦悶の声が星神の口から発せられた。




