人でなければ
こちらへ見せる星神の不気味な笑み……俺はそれに構わず、再び足を前に踏み出した。勢いを付け、一歩で間合いを詰め――ソフィアもそれに続く形で星神へ迫る。
とはいえ、先ほど剣戟を当てた時の感触は……再び剣が交錯する。多大な魔力が乱れ飛ぶ中で俺は、次の一撃を決めるタイミングを見計らおうとする。
星神は、こちらを見定め受ける姿勢……その間に俺の胸には様々な疑問が宿る。先ほど決めた剣だが、人に近しい感触であり、確かな手応えはあった。だが、反動で後退するまでの間に思ったのは、見た目以上に重い……いや、目の前の存在は人間の見た目をしているだけなので当然だが、とにかく岩でも斬っているかのようだった。
加え、どれだけダメージを与えているのかもわからない……確実に魔力を削っているのは間違いない。だが、目の前にいる存在がどれだけの魔力を抱えているのか……それを捉えることも難しい。
まして、目の前にいる星神を倒せば終わりなのかどうかも――
『ルオン殿』
そこへ、ガルクの声が頭の中に響く。
『目の前の存在についてだが、この大地から魔力の供給を受けている』
それはつまり――
『推測だが、星神はこれまでルオン殿の目の前に現れる場合、人の形をとってきた。それはこちらに説明しやすいようにという意味合いもあるとは思うが……もしかすると、人の形でなければ人格を形成できないのかもしれん』
人でなければ――というわけか。
ガルクの声を聞く間に俺とソフィアは再び間合いを詰めて斬撃を放った。結果、再び星神は受けたが……俺は瞬時に剣を切り返し、盾を弾く。次いで、その体に一閃する。
さらにソフィアの追撃も加わり……さらに星神は後退する。ここで俺は動きを止めた。周囲の状況は……なおも味方が魔物を倒し続けている。
白銀の魔物は強いが、仲間であれば対応できている。今以上の敵はいないのか? それとも、まだ切り札が存在しているのか――
『こちらの策を読もうとしているな』
星神が言う。だが俺はそれを無視しつつ、周囲の気配を探る。
『これで終わりのはずがない。自分を取り込もうなどと考える存在が、これで終わるわけがないと』
「……お前は」
ここで俺はガルクからの言葉を受け、
「人の形をしなければ、人格を形成できないのか?」
――その言葉は、星神にとって少なからず驚愕だったらしい。目を見開き、こちらを値踏みするように、
『宿している神霊の考察か? なるほど、色々と策を仕込んでいたのを見ていたが、分析能力も相当なものだな』
『――これほどの存在を相手取るのだ』
と、俺の右肩に子ガルクが出現。
『可能な限り情報を得ようとするのは当然だろう?』
『ああ、その通りだな……答えはイエスだ。こうした体でなければ、人格や理性は生じない。やろうと思えばできるが、破壊衝動などが圧倒的に勝るため、例え理性を得ても消し飛ばされると言うべきか』
……俺は星神の使徒を思い出す。あれほど巨大な存在となってしまった場合、例え元が幻獣クラスであっても思考を維持することはできないと。
「なら、俺が入り込んでも無意味じゃないか? 天使や魔族、竜ではなく人間という身で望みが叶うとは――」
『強い意思……それが備わっているかどうかだ。この力の内側に入れば、いかに強大な魔力とて意味はなくなる……だが、賢者のように鋼のような意思があれば、理性は残る』
「力の大きさは関係ない、と」
『そうだ』
「……なるほど、な。まあさっきも言ったが俺の目的は破壊だ。例えそちらの望みが叶うとしても、お断りだな」
剣を構え直す。それと共に俺は、もう一つ質問を行った。
「なるほど、人格形成には俺達と同じくらいの姿をしなければならない……それは理解できた。ならもう一つ重要な問い掛けだ。どうやらお前はその体の内に、現在残っている星神の意思を集結させている。そうだな?」
『ああ、相違ない』
「ならそれを滅ぼせば……星神という存在から理性がなくなり、暴走が始まるということか?」
『それについては解答しない。そう思うのならば、どうする気だ?』
「……まあ、さすがに答えが返ってくると思ってはいなかったけど――な!」
再び踏み込む。先ほどの質問とは裏腹に、俺は全力で星神に挑む。
そして――その間に、姿を消したガルクの声が頭の中に響く。
『星神は地上へ降臨できる寸前だが、まだその域には至っていない……理性をなくした星神がどうなるのかわからないが、即座に地上に這い出てくるとは考えにくいな』
……どちらにせよ、目の前の敵を倒さなければ事態は進展しない。
「ガルク、確認だが――」
『地底内で暴走する可能性は検証している。加えてアナスタシア……彼女の存在によって、対処は可能だと考える』
彼女が――現在アナスタシアはユスカ達に守られつつ何事か準備をしている。状況を見て仲間の援護をするつもりか、あるいは俺と戦う星神の対策か。
どちらにせよ、選択肢は一つ――俺は決断し、なおも星神へと迫った。