表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賢者の剣  作者: 陽山純樹
世界を救う者
1075/1082

力の反動

 目前に迫る、圧倒的な力……星神の気配。だが俺とソフィアは表情を変えぬまま、迎え撃つ構えを取った。


「ソフィア!」

「はい!」


 返事を受けたソフィアと共に、俺は迫る星神へと一閃する。相手は両腕――漆黒の両腕にまとわせる形となっている剣と盾をかざし、こちらの刃に対抗する。

 二度目の激突と、さらなる爆発的な魔力の発生。純白の平原内を荒れ狂うように俺達と星神の魔力が拡散し、それが相殺されると突風となって吹きすさぶ。今度の攻防も……最初と同じようにせめぎ合いとなり、双方動かなくなる。


「……なぜ、俺を取り込もうとする?」


 俺はふいに、先ほど星神が発した言葉に対し問い掛けた。正直、返答なんて期待していなかったが――


『それに答える義務などないが、勝利する前に語っておくのも一興か』


 そんな言葉が返ってきた。つまり、


『星神という存在について、ただ一つ……致命的な欠陥が存在する』


 ――そして紡がれた言葉は、俺達を驚愕させるものだった。


『といっても、君達がそれを利用して出し抜けるようなものではない。圧倒的な破壊衝動と共に、この力は世界を焼き尽くす。だが、それと共に星神の意思もまた消滅する』

「力を出し尽くした反動で、というわけか」

『そうだ。それは星神という存在そのものが、力の塊であり意思が存在していたとしても、極めて不定形かつ、非常に曖昧な存在であるためだ。力を放出すれば消えてしまう泡沫の意思。それが、破壊を行う星神の正体だ』


 ――先ほどまで見せていた笑みから一転、星神が見せる表情は鬼気迫るものとなっていた。


『取り込んだ魔力によって得られた意識は、自我と呼べるかどうかもわからない存在だが、同時に確かに理性は存在する。それと共に、いずれ来る終わりの未来に対し……意思は消えたくないと反抗する』

「抗えない破壊衝動と共に、逆に留まろうとする意思が存在するというわけか」


 刃はかみ合い続ける。少しでも力を緩めれば弾き飛ばされてしまうであろう圧倒的な力だが、俺とソフィアは応じることができている。


『その通りだ。君も星神が幾度となく姿を現したこと……疑問に思っただろう? それは星神が統一した意思によってもたらされたものではない。破壊する意思と、留めたい意思。それらが混ざり合って生じた結果だ』


 ……人間のような自我があるのか、他ならぬ星神すらも疑っているようだが、確実に言えるのは人が死を恐怖するように星神も手にした理性を失いたくない……消滅したくないと嘆いているというわけか。

 力を放出した星神は、消えるというのが目の前の存在から判明した。しかしそれと共に溜め込んだ力を使って全てを壊したいという願望もある……ひどく矛盾した存在だが、それが星神というものなのだろうと俺は心の中で断じる。


 魔力の集合体である以上は、一つの意思など存在していない……それが目の前にいる星神の語った言葉で理解できた。同時に、あらゆる矛盾を内包した存在であることも……俺は剣に力を込める。ソフィアはそれを感じ取ったか俺に合わせるように魔力を高め……まったく同じタイミングで剣を振り払った。

 結果、星神が反動で弾き飛ばされる。といっても精々数メートル。すぐさま体勢を立て直して反撃に転じてくる程度のもの。


 だが明確な隙であることは事実であり……俺達は同時に踏み込んだ。

 いけるか――と、ソフィアへ問い掛けたくなったが、そんな余裕はなかった。星神に生まれた隙は、すぐにでも消えるだろう。短い会話をしている暇さえない。だから俺は半ば本能的に足を前に出した。そしてソフィアは俺の攻撃を理解し、同時に踏み込んだ。


 俺と彼女の剣が、まったく同時に繰り出された。それはまるで一つの意思のように……示し合わせたわけではないが、魔力を共有しているが故に――そして共に戦ってきたからこそわかる、同時攻撃だった。

 星神はこちらの攻撃を再び受ける。だが勢いを伴った俺達の剣戟に初めて顔を歪ませる。


 この攻防で、剣を決めることができる……そう確信した俺は、さらに魔力を高めながら踏み込んだ。刹那、俺の剣は星神の盾を押しのけることに成功。ソフィアもまた星神の剣を弾き飛ばし……俺達は、とうとう星神の体へ剣戟を叩き込んだ。

 魔力を大いに注ぎ、なおかつ星神を討つために鍛錬してきた技術を用いての一撃……星神は、剣を受けた反動を利用して俺達から大きく距離を取った。さすがにこれで終わりとはいかない。だが、星神の表情は……喜悦のような、あるいは怒りのような……極めて複雑な表情をしていた。


『見事だ』


 その言葉と共に立ち止まる……俺はここで、問い掛ける。


「お前の意思がどういうものなのかわかったが、それと俺を取り込むこと、何が関係している?」

『星神を討つ力……そして、驚くべき力を持っている存在。その強固な力があれば、星神という存在の中でも一つにならず、力を御せるのではないかと考えた』


 ……なるほど、な。そういう目的で俺を……とはいえ、


「俺の目的は星神の破壊だ。残念だが、ここで滅んでもらう」


 そう明言した時、星神は再び笑みを浮かべた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ