称賛の言葉
切り札――俺が剣を生み出すと同時に、漆黒の男性――星神は口の端を歪ませて笑った。それはひどく不気味なもので、まるで俺がこの魔法を使用するのを待ち望んでいたかのようだった。
『……それが、この体を砕くのに十分な力を宿しているのは理解できる』
その言葉の直後だった。今度は俺ではなく、ソフィアの魔力が周囲に拡散した。彼女と共に戦う――それを証明するかのように、ソフィアの魔力は際限なく膨らみ、俺と拮抗するかのように高まっていく。
それに加え、俺とソフィアは魔力を共有し……さらに、力が高まっていく。星神が作り上げた空間の中で、ともすれば俺達の力がこの場所を支配するのではないか……それほどの魔力が、純白の平原を満たしていく。
『ああ、見事だ……本当に、見事だ』
そして星神は俺達へ称賛の言葉を贈った。だが同時に両腕を左右に広げ、両手に魔力を集めていく。
『君達の力は……世界の結末を決めるのにふさわしい』
一瞬の出来事だった。右腕に漆黒の魔力がまとわりついたかと思うと腕を飲み込み巨大な剣が。そして左腕は盾の形となった。武具と体が一体化したような形状を成しており、発する魔力も俺達に準じるように高まっていく。
もし双方が激突したのならどうなってしまうのか……その間にも仲間達は白銀の魔物を駆逐していく。まだ魔物は出現しているが、先ほどと比べて明らかに生成ペースが遅い。俺やソフィアの力を見て、そちらに力を回す余裕がなくなったということなのか。
あるいは、単なるブラフで油断している時に奇襲でも仕掛けるのか……どういう手法かはわからないが、状況を見て何かしら手は打ってくるはず。
それに対し俺とソフィアは、同時に踏み込んだ。目の前にいる漆黒の存在へ向け、滅ぼすべく最短距離を突っ走る。並び立って攻め立てる俺達に対し、まず星神は俺達を注視する。
立ち位置は俺が右でソフィアが左。剣を放ったのは同時であり――星神は俺の剣を盾で、そしてソフィアの剣を右手の剣で受けた。
刹那、膨大な魔力同士がぶつかったことにより、魔力が舞い純白の平原を駆け巡った。乱気流とさえ称するほどに荒れ狂う魔力は、その大半が相殺されてやがて大気に溶け込んでいく。俺達が放った魔力についても、星神は取り込むのだろうか……? と、内心で疑問に思いつつも、魔力の大半は消え去っているため影響はほとんどないと判断する。
そして激突の結果は……俺達の剣を、星神は確実に受けとめていた。
『人の身でよくぞここまで練り上げたものだ』
そして星神は、またも称賛の言葉を俺達へ告げた。
『その力を手にするためにどれほど費やしたのか……いや、君達の年齢を考えれば、生まれてからたったこれだけの年数で到達できた……そう解釈すれば、驚愕する方が正解か』
俺は魔力を高め盾を押し込もうとするが……動かない。さすがに、それほど甘くはないか。
『見事だ、英雄。その力は間違いなく、星神という概念を滅ぼすに足るものだ。そして』
酷薄な笑み。同時、漆黒の魔力が膨れ上がり、俺達へ襲い掛かってくる。
『その力……奪い尽くしてやろう!』
叫び、俺達へ迫る星神だが……ここで俺達は一気に後退した。それでもなお迫る星神に対し、俺は剣戟を見舞って動きを鈍らせた。それによって確実に隙が生じ、距離を置くことに成功する。
そして、
「……なるほど、それが狙いだと言いたいのか」
『そうだ』
「それを成功すべく、俺達の能力を推し量るために信奉者をここへ呼び寄せ、戦わせた。それ以外にも戦力分析などの意味合いはあると思うが……俺の力を取り込めるかどうか。それを知るのが、狙いだったんだな?」
星神は再び笑みを浮かべた。同時に俺は、魔王城近くで起こった戦いについて振り返る。
俺達の能力を探る意味合いがあったのは間違いない。けれどそれだけではなく……俺達が持っている技術――ひいてはそれによって生み出された魔力。それを取り込めるか否か確かめたかった。
星神は全てを破壊するために力を欲している……どれほど膨大な力を抱えていようとも、一人の人間が保有する魔力なんて星神からすればたかが知れているように思えるが……、
「俺が取り込むこと自体に意味がある、とでも言いたげだな?」
『ああ、その通りだ』
こちらへ攻撃する気配を見せつつ、無茶な攻撃はしない……先ほどの攻防を受けて警戒しているのか。
まだ星神は手の内を見せてはいない……周囲で仲間達が次々と魔物を撃滅していく光景を眺めながら、俺は一層警戒を強める。そんな様子を見た星神は、さらに顔を歪ませて笑ったのだ。
『力に驕ることもせず、ここまで来た……理想だ。君の力を取り込めば、今度こそ――』
何を言っているのか。星神には俺を取り込もうとする理由がある……? それについて反射的に尋ねようとした時、星神は我慢しきれなくなったように俺達へ攻撃を仕掛けた。