純白の世界
そうして俺達は階段を降りきって、最下層へ辿り着いた……魔王城の地下に、巨大な光の球体があった。
いや、実際に魔王城の地下にあるわけではないだろう――というのも、下りている途中に変な感触があった。それは極めて小さな違和感であり、決戦ということで感覚が鋭敏化しているために、感じられたこと。気付かぬ内にどこかへ転移していた……魔王は既に星神本体の居場所を特定していた。そして決戦に備えて通路を繋げていたというわけだ。
そして、目前にある巨大な光……俺は周囲を見回した。巨大な光があるこの空間は極めて広く、それと共にここはどうやら他の場所とは空間的に隔絶しているのだと確信する。
地底奥深くに鎮座している、この世界に滅びをもたらすもの……何も知らなければ、幻想的な光景に見えたかもしれない星神の光。神々しささえ感じられるそれは、俺達がわざわざ明かりの魔法を使わずとも本来漆黒の空間である地底内をまばゆく照らしていた。
そして星神の光の前には、
「既に、準備ができているというわけか」
俺の呟きに仲間達全員が警戒を強めた……光を守るようにして存在している者達。それは白銀の狼であったり、あるいは白銀の騎士であったり……それは初めて見たはずなのに、どこか見覚えのあるような……地上で取り込んだ魔力を基にして生み出された、本体を守る防衛機構。それが目の前にいるのだろうし、どこかで見たような姿は地上にあるものを利用したためだと、俺はなんとなく思った。
「光を砕けば、俺達の勝ちか?」
そういった問い掛けをしたのは、近くにいたオルディアだった。
「目前にある巨大な力を消せば……」
『光の中心に、さらに巨大な気配がある』
応じて見せたのは、俺の右肩に出現した子ガルク。
『見えている球体の光は、その中心にあるものを守るための殻、と言うべきだろうな』
「殻ということは、破壊しなければ先へは進めないと?」
『ああ、そういうことだ。よってまずは――』
『策を弄する必要はない』
その声は、聞き覚えのないものだった。ひどく無機質でいて、俺達の心の隙間に侵入してこようとするような、不気味なもの……質的に男性に近しいその声の瞬間、光がさらに一際激しく輝いた。
俺達は即座に警戒し、フェウスやアズアが魔力障壁を構成したのだが――次の瞬間、膨大な光の奔流に飲み込まれた後……俺達は、地底とは違う空間に立っていた。
「これは……?」
俺は半ば呆然と呟いた。魔力障壁によって守られた空間の外側は、巨大な平原……と思しきもの。けれどその全てが真っ白であり、土らしき地面も、空間の奥に存在する木々も、そして空も……全てが純白であり、それがこの世界のどこかにある景色を映したものなのだろうと、想像できた。
『――もし、君達がここへ来るのがもう少し早かったならば』
ジャリ、と土を踏みしめる音と共に、白銀の魔物達の間から何者かが姿を現す。
『こんな状況下にはならなかっただろう……魔王との戦い。その際に戦いに挑んでいたら、これほど領域を広げることはなかった』
見えたのは男性。白銀の世界の中で唯一、漆黒の衣服に身を包んだ黒髪の男性だ。
『魔王はここへの道を作成した際に……いや、人間の国々へ侵攻しようとした段階で、星神という存在があとどの程度で地上へ姿を現すのか読んでいた。それと共に、どういったタイミングで戦うべきなのかも把握し、大陸を破滅させ力を得る魔法を使おうとしていた』
「……魔王が挑もうとしたタイミングでは、こんな領域を作るようなことはないと考えていたと」
俺が問い掛ける。それに男性は微笑を浮かべた。
『その通りだ英雄ルオン。既に大勢は決した……ここへ到達するより前に、様々な存在をけしかけた。結果として得た情報と、何より極まった力……それによって、全てを破壊する。今度こそ、世界を終わらせよう』
その言動は、ずいぶんと落ち着いていた。まるで今から始まることは予定通りであり、全てを把握していたとでも言うように。
「……それをさせないために、俺達は来た」
右手をかざす。魔法により剣を発動させようとして……だがそれよりも前に、白銀の魔物達が動き始めた。
『ならば、立ち向かってくるがいい』
男性は――いや、星神はあっさりと返答した。それと同時にフェウス達は魔力障壁を解除。途端、濃密な魔力を俺は感じ取る。
『世界を終わらせるだけの力……それを注ぎ、君達を倒す。ここから逃がさない。勝利か、敗北か……その全てを今ここで、決めよう』
「ああ」
星神の返答については明瞭な返事をして……全員が戦闘態勢に入った。
地底内は完全に星神のテリトリーであり、俺達はその状況下で戦う必要性がある……が、この程度はもちろん想定していた。それと共に俺は最初の目標を黒髪の男と定め、
「攻撃――開始!」
宣言。それと同時に世界を巡る戦いが始まった。