英雄の言葉
「リーゼ姉さん……その」
「ええ、どうしたの?」
「……なんというか」
若干まごまごしている。ソフィアにしては珍しい。
「すみません、その、思った以上に周囲を見れていなかったというか……」
何の話だ? と思ったのだがリーゼはどうやら察したらしく、
「……もしかして、私が今言ったこと、本来なら自分が言うべきだっただろ、と思ったの?」
ソフィアは素直に頷いた……途端、周囲の仲間から小さく笑い声が漏れた。
「ま、共に戦うパートナーであるなら、悩みも解決すべきとかそういう風に思っているのかしら?」
「まあ、その、なんといいますか」
「別にそこまでやらなくても……」
俺は言うのだが、そこでリーゼはソフィアを察するように、
「ルオンが構わないと思っても、ソフィアが納得しないのだから仕方がないわね」
「……まあ、はい」
そこは認めるソフィア……なんというか、俺のことになると色んな意味で頑固だな。
とはいえ、それは俺の隣に立って共に戦う大切な存在だから……ということでもあるので、個人的にはちょっと嬉しいけど。
「ルオン、何か言うことはある?」
「……俺が何を言ってもソフィアは納得しなさそうなので、今回のノーコメントにしておく」
「ええ、それがよさそう」
「あはは……」
ソフィア自身自覚があるのか苦笑する……そして場は再び和やかな空気に包まれる。
――まるで、旅の最中の一ページ。多数の仲間に囲まれ、談笑し合うという何でもない日。ただこれは、明日が決戦だから意図してやっているというわけでもない。
俺達は、やるだけのことをやったのだから……勝機があるのかもわからない星神との戦い。だがそれでも、全てを費やして俺達はここまで来た……だからもう、迷いはないということ。
「……みんな」
そして俺の口からは、自然と言葉が漏れていた。
「このまま談笑して終わりとか思ったけど、さすがに最後の最後だから、一言くらいは言わせてくれ」
「二言でもいいぞー」
アルトが茶化す。それで仲間達は笑い……その後、自然と仲間達は沈黙し俺の言葉を待った。
「……俺は、転生し小さい頃から知識を活かしてひたすら修行を続けた。誰にも見咎められないよう……魔王にもバレないよう、勝つためにとにかく自分を強くした。結果的に、俺は縦横無尽に立ち回れるくらいにはなって……そして、ソフィアを始め色んな人を救った」
全員が、沈黙を続ける。そうした中で、俺はさらに言葉を紡ぐ。
「無論、一人にできることには限界があった。それに、魔王に俺の存在がバレたら話がどう転ぶかもわからない……俺がどうにかできたのは、ほんの一部だけだ。全てを救うことはできなかったけれど……それでも、魔王を倒す一助にはなれたと思っている」
そう告げた後、俺の脳裏に様々な記憶が蘇る。
「そこからは、星神という存在を追う旅だった。竜、天使、魔族、幻獣……様々な種族と交流し、この場に集っている。星神を打倒するなんて、無茶もいいところの戦いに、参加してくれている。だから」
俺は、頭を下げた。
「ここまでついてきてくれて、本当にありがとう……最後の戦い、必ず勝とう」
頭を上げた。そして仲間達の顔には――俺の言葉を受け、瞳に強い意志が確かに宿っていた。
食事の後、俺達は速やかに眠り――翌朝。決戦の日。
俺は支度を済ませ、戦う準備を完璧に整えた。ソフィアが最初に近くへと来て、視線を重ねる。
言葉を交わすこともなく、俺とソフィアはゆっくりとした足取りで魔王城へ歩を進める。他の仲間達もそこで俺達に黙ってついてきた。
見張りの天使などについても俺達へ視線を集中させ、見守っている……そうした中、魔王城の手前には既に待っている者達がいた。
「……デヴァルス」
俺は先んじて声を掛ける。すると彼は小さく頷き、
「本当なら、隣に立って援護したいところだが」
「外も警戒しなきゃいけない。デヴァルスは拠点を頼む」
「承った……そちらは後方を気にせず、星神に挑んでもらえればいい」
その言葉と共に、周囲にいた天使達が一斉に武器を掲げた。それを見て俺は、心配ないだろうと察する。
そこで俺はデヴァルスを目が合った。彼は何か言おうとして口を開きかけたのだが――途中で止まった。
「どうした?」
「いや、大丈夫か、とか言おうと思っていたが……愚問だと気付いてやめにする」
「そうか……傍から見て、問題なさそうに見えるか?」
「もちろん。別に平静を装っているわけではないだろう?」
「ああ、そうだな……ずいぶんと心は穏やかだ」
俺はそう答えつつ、別の人物へと視線を移す。そこにいたのはアナスタシア。この拠点では、神霊達と共に後方支援に従事していたわけだが、
「そちらは?」
「裏方仕事にも飽いてきたところじゃ。此度の戦い、ユスカやカトラと共に最後まで付き合わせてもらうぞ」
その言葉に対し、俺は……少し考えた後、口を開いた。