水王と剣
「……た、倒したの?」
ガルクから言及したので、さすがに「ありえない」と頭から否定しようとはしないアマリア。とはいえ信じられないという態度で俺へと問い掛ける。
「倒した……とは少し違うかな。事情を説明するためにとりあえず落ち着いてもらったというか」
「そういえば詳細については聞いていませんでしたね」
ここでレーフィンが話へ割って入る。
「その戦いが、アズア様との戦いに結びつく可能性がありますし、確認したいのですが」
「ああ、そうか……と言っても、そんなに難しいことはしていないぞ。ガルクは光魔法を無効化することがわかったから、光属性を使って戦意を喪失させるべく吹き飛ばしたんだ」
「軽く言っているけど、相手がガルク様なんだから大層な事ね」
アマリアが呻くように呟く。
「つまり、光魔法でガルク様を倒すことができない……それを利用したというわけか」
「ああ。例えば他の属性だったら、ガルクを滅ぼしていたかもしれない」
『我としては笑えん話だが、事実である以上仕方がないな』
至極真面目に語るガルク。アマリアは再度息を呑み、レーフィンは俺へと尋ねてくる。
「光魔法ですが……それは『ホーリーランス』ですか?」
「最後の最後は『ラグナレク』を使ったけど」
サラリと言った俺の言葉に、レーフィンも押し黙った……いや、最上級魔法を使えることくらいは予想できたはずだけど。
「……よくよく考えれば、最上級魔法も習得しているはずですよね。その実力であれば」
「いくつかの属性は危なっかしくて習得していないけどな」
「とすると、アズア様に対しても同じように、ですか?」
アズアは水と闇を司る存在……単純に考えるとどちらかの属性で力押しということになるんだろうけど――と、ここで俺は一つ疑問が。
「……ところでガルク。質問だが、ガルクは光と地属性を司っているわけだよな?」
『そうだな』
「例えば地属性の魔法は、受けたらどうなる?」
「光魔法と同じように、我は無効化する術を所持している」
「アズアも同じなのか?」
問い掛けに、ガルクは『わからん』と応じた。
『神霊同士が戦うなどということはいまだかつてなかった。よって他の神霊がどういう性質を持っているのかは、わからない』
まあ、それも仕方のない話か……俺は思案しつつ、口を開く。
「ガルクと戦った時と同じかどうかは、魔法を相手に当てないとわからないってことだな。となれば、どういう反応を示すかによってその場で考えていくしかないな」
ただまあ、挙動はいくつかに絞られる。さすがに水と闇を司るという存在である以上、その二つの属性が通常の魔法と同じように効いたりすることはないだろう。半減もたぶんなさそう。あるとすれば、無効化か吸収か。
もし無効化であればガルクと同じようなやり方で対処も可能かもしれないが――
「――これは、確証のない話なのだけれど」
と、ここでアマリアが口を開いた。
「アズア様の特性……といっても噂程度のものだから、鵜呑みにはしないで欲しいけど」
「構わない、話してくれ」
「アズア様については、水も闇も全て吸収してしまう……って、言われてる」
吸収か……となれば思いつく手は一つ。
「思い浮かびましたか?」
レーフィンが問うと、俺は小さく頷き答える。
「例えば、闇魔法を当て続け吸収できないまで攻撃し、オーバーフローを起こすとか。さすがにそれで滅んだりはしないと思うし、大丈夫かなと」
『どのような形で吸収するのかは、考慮せねばなるまい』
今度はガルクが発言。
『吸収といっても、単純に体の内に取り込むだけではない。アズアともなれば、取捨選択は容易だろう』
「取得選択ってことは……」
『吸収しきれない魔力は放出するなどして対応できるということだ。もし貴殿の全力であっさりと対処されてしまえば……』
「なるほどな……まあ、どうにかするしかないな」
俺はそう返答した後、アマリアへ首を向ける。
「情報ありがとう。参考にさせてもらうよ」
「……本当に挑む気?」
信じられない様子のアマリアが問う。それに俺は肩をすくめ、
「大陸を救うためだからな」
――色々なことがあって、魔王が強大な魔法を使うというシナリオとなってしまった。けれどあきらめるつもりはない。この大陸にあるものを結集し、立ち向かう。
俺の言葉にアマリアは小さく頷いた。納得してくれたみたいだ。
「さて、残る問題は一つですね」
レーフィンが言う。俺はそれに頷き、
「ソフィア達と共にさらに南へ行くための、口実だな?」
「はい。南へ行けばいくほど魔物が弱くなる以上、鍛錬のためという説明には無理がありますし」
「それなら考えてある。心配ないよ」
「どのような方法ですか?」
質問に――俺は一拍置いてから話を始める。
「その前に一つ確認だけど、アマリアさん」
「うん」
「アズアの居場所は、海へ行けばわかるんだよな?」
「それは間違いない」
「わかった。俺が考えている目的地と相当遠かったとしても、おそらく対応できるはずだ。時間の掛かることだからな」
「どういうこと?」
質問に対し、俺はレーフィン達に説明を始めた。
「南部のとある町……そこに、腕利きの鍛冶師がいる。物語にも登場し、魔族などにも対抗できる武器を作れる人物だ。武器については俺が渡してもいいんだけど、少し問題があるからそこへ向かい、剣を作ってもらおうかと」
「問題、ですか?」
レーフィンが首を傾げる。それを見つつ、俺は解説を続ける。
「物語と異なる点なんだけど……魔族に対抗できる武器として使われる素材は癖が強くて、素材の力を完全に発揮するには武器の使用者に合わせた調整が必要になってくる。そういうのはやはり本職の方がいいからな。最終的に精霊や神霊の力を集めた剣を生み出すにしても、それよりも前に彼女に合った武器を確保しておきたい……ちなみにだが、ガルク。俺達が創る予定の武器の素材だけど……」
『精霊コロナが生み出す以上、いくらでも調整できるだろう』
それなら最強の剣については問題なしだな……俺は話を戻す。
「というわけで、剣を手に入れるために南へ……という説明にしようと思う」
「なるほど、ソフィア様達にもメリットがありますし、いいと思います」
レーフィンが同意し――今後の目的地はそこに決定した。
もし五大魔族に関するイベントが生じたのならば、考えなければならないが……まあイベントも発生していないので、魔法を使えば間に合うとは思う。この辺りは確実なことが言えないので、不安もあるが……剣を手に入れる機会は南部へ来た今くらいしかないので、是非ともやっておきたい。五大魔族との戦いに際しソフィアを強くしなければいけないのも間違いないので、ひとまずこの方針でいいだろう。
「よし、目的地は決定。町に入ってからアズアの居所を見つけ……発見次第、戦うことにしよう」
最後に俺がまとめ、精霊達は首肯……アマリアと一度別れ、猟師小屋へと戻ることにした。
「どう戦えばいいのか、悩みますね」
帰り道、レーフィンが語り出す。アズアのことだろう。俺は頷きつつも、一つ言及する。
「ま、ガルクに勝てた以上、俺に負けはないと思ってくれていいさ」
『誰も貴殿の心配はしてない』
ガルクが言う。
『我の時と比べて厄介なのは間違いないだろう……大丈夫か?』
「なんとかなるさ」
こればかりは戦ってみないとわからない以上、今から不安を抱えても仕方がないし。
さて、予定も決まった。明日ソフィア達と話をして、動くとしよう……そう決意し、俺は小屋へと戻ることとなった。




