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賢者の剣  作者: 陽山純樹
世界を救う者
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最終手段

 俺達が魔法準備を行う間に、相手は視線を向けてくるだけで無言に徹する。ようやく顔を出して何か仕掛けてくるのかと思ったが……何もしない。

 ただ、その間にも戦況はこちら側に傾いていく……天使や精霊の魔法はなおも放たれており、ただでさえ数を減らした異形がさらに減っていく。


 伏兵であった東西の異形についてもおおよそ決着がついた以上、他に方法は……と、考えたところで俺は一つだけ可能性を見いだした。


「……待て」


 俺は口を開いた。咄嗟の言葉だったのだが……ファーダは俺へ鋭く眼光を向け、


「――もう、これしかないようだな」


 何かを覚悟するような声音。直後、ファーダの全身から魔力が溢れた。


 一瞬の出来事であり、その場にいた者達が即応することはできなかった。彼が放った魔力の色は漆黒であり、彼自身の体を取り巻くようにうごめく。

 同時、天使達の魔法が彼へ集中した。異形を倒しきるほどの威力がある以上、ファーダの能力が単なる人間止まりであるなら、決着がつく……はずだった。


 けれど魔法が直撃したにもかかわらず、漆黒の魔力はファーダの体に巻き付いたまま。やがて闇に彼の体が飲み込まれた。そこで俺は、魔法を発動させる。

 それは『ラグナレク』であり、巨大な光の剣が出現すると――勢いよく、放たれた。


 一片の容赦もない魔法だった。収束させた魔力は全力であったし、大気を切り裂く勢いもかなりのもの。だが、闇に光が直撃した矢先……こちらの光が、闇に飲み込まれた。


「なっ……!?」


 横にいたカティも驚いた。無理もない。まさか、俺の魔法を無効化とかでもなく、吸収したのだから。


「……最後の敵は、本当に面倒なやつだな」


 闇がやがて形を成す。闇夜の中に存在する、漆黒の戦士……全身を鎧で身を固め、右手には長剣。ただ、鎧は騎士が身につける物とは明らかに違っていた。なぜなら鎧自体が脈打っている。

 城門前にいたアルトやシルヴィが剣を構える。臨戦態勢……というわけだが、俺はここで城壁上から地面へ下りた。


「ここは俺に」


 そして仲間達へ告げる。俺を見てシルヴィなどは驚いた様子だったのだが、


「ルオンでなければ倒せないと?」

「シルヴィでもいけるとは思う……が、俺の魔法を吸収するような敵だ。何か仕掛けてくる前に、短時間で仕留めた方がいいと思ってさ」


 俺はそう呟くと、いくらか詠唱を行い……剣を生み出す。

 以前、神霊ラムハザと戦った時のような金色の剣ではない。あれは切り札の中の切り札ではあるが……それよりも一段、劣る剣。


「星神の力を得た狂信者……仕留めさせてもらう」


 俺の言葉に対し、ファーダは咆哮を上げる――いや、闇に取り込まれ理性は消し飛んだかもしれない。実際、周辺にいた異形達は動きを大きく鈍らせていた。命令していたファーダが異形へと変化してしまって、命令する存在がいなくなったためだろう。

 彼としても、自分自身が異形となるというのは最終手段だったはずだ。そもそもこの戦いに勝ったとしても、元に戻れるかどうかわからない。


 俺がファーダと相対した瞬間、相手は再び咆哮を上げて突撃を開始した。狙いは俺であり、その動きは鋭く俺という存在をしっかりと見極めているのがわかる。

 漆黒の剣が俺へ向け振り下ろされる。剣筋は正確で、脳天を狙ったものなのだと明瞭にわかる。だがその剣を俺は真正面から受け、いなした。そしてすぐさま反撃に転じる。一閃された刃は――ファーダに当たる寸前で空を切った。


 相手がギリギリかわした形だが、無理な動きだったのかわずかに体勢が崩れた。俺はすかさず追撃を見舞い、ファーダはそれも強引に……体を無茶苦茶に動かして避けた。到底人間ではできないような挙動であり、それと共にまたも隙が生じる。


 こちらの動きに対応できていない……というのもあるが、異形となって体の扱いに慣れていないという面だってあるかもしれない。不可逆な変容である可能性を考えれば、この戦いの前に異形となった自分の検証なんてできるはずもないため、最終手段だとしてもぶっつけ本番しかあり得ない。


 そういう意味でも、俺達を倒し得る有効な手段なのか疑問だったため、ギリギリまで使わなかったわけだが……続けざまに放った剣は、ファーダに直撃した。浅い剣戟ではあったが、相手に苦痛を与えるのに十分だったらしく異形は咆哮を上げた。

 そして強引に体を動かして立て直したかと思うと、反撃してくる……が、俺はそれを全て容易に受け流した。すぐさま反撃に転じると、ファーダは途端に防戦一方となる。


 ……俺がこれまでの修行や旅で得てきた技術。それを用いれば目の前にいる異形については倒すことができる。隔絶とした実力差がある……星神が彼を用いてどういった情報をとろうとしているのかわからないが、俺が全力を出さずに倒せることで、少なからず決定的な情報を与えないという点は間違いないはずだ。


 ファーダは斬撃を受けてもなお攻めてくる。逃げることはせず、滅びるまで戦う様子……ならば、次で終わりにしよう。


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