三方向からの攻撃
伏兵として押し寄せてくる異形の能力は、ファーダが率いていた個体とそれほど変わらないものだった。よって俺やカティの魔法によって迎撃することができた……のだが、やはり分裂を始める。
注意して観察すると、その動きがわかってくる。例えば獅子を象った異形については、腹部を地面に設置させるように座り込み、地面へ魔力を注ぐ。それが終わったらその場を離れ……分裂した異形が姿を現す。
人型であれば、屈んで魔力を地面へ……上空から観察しても非常にわかりづらい。俺達に悟られないよう、上手く複製を生み出している。
けれど、手法さえわかってしまえば……俺は魔法で敵を射抜く。能力を把握したことで必要な威力も見極められるようになった。それはカティも同じであり、また周囲にいる天使や精霊も同様だ。
「この調子なら、倒せそうだけど……」
使い魔で戦況を確認すると、ソフィアが向かった東側もちゃんと迎撃できていた。ソフィアが放つ『ライトニング』に加え、あちらにはロミルダが出てきており……持ち前の力によって、恐ろしい速度で敵を倒していく。
「あー、ロミルダの撃破ペースを考えると、東側が早く終わりそうだな」
「……問題は、ここから敵がどうするか、よね」
カティが口を挟む。そこで俺は城門付近の戦場を使い魔を通して確認する。
「ファーダが逃げるかもしれない、と?」
「ええ、一度退却して……となったら、さすがに面倒じゃないかしら」
「こちらが勝利する可能性は高いとしても、逃げられ異形をさらに作成されたら星神との戦いがさらに遠のいてしまうな……ここで決着をつけたいところだけど、戦況が不利となったら――」
『ルオン殿』
その時、右肩に子ガルクが姿を現して声を上げた。
『異形がいる位置などを捕捉し、障壁を作成した』
「障壁?」
『現在敵は拠点を取り囲んでいるが、その外側に魔力障壁を生成する』
「それで退路を塞ぐってことか……でも相手は星神の力を所持している以上、易々と破壊されるのでは?」
『いかに星神の力とはいえ、ここまで研究をして開発した魔法はすぐには突破できないだろう』
「……なるほど、な。もし魔力障壁が攻撃を受けたら、そこへ急行して……というわけか」
俺は戦場でファーダがどこにいるのかを探す。会話をしてから声は聞こえるが現在もその姿は見えない。透明にでもなっていそうな雰囲気だが……異形が攻めているということは、まだ周辺にファーダはいるだろう。
「ガルク、障壁は構成を終えているのか?」
『うむ、数分前に』
「それよりも前にファーダが離脱している可能性は?」
『その可能性はない……というのも、異形達がいまだ動いていることから、敵はまだ戦場のどこかにいる』
「相手がどういうやり方で指揮しているのかを、見破ったわけね」
それはカティの声だった。ガルクはそこで首肯し、
『そうだ。戦い始めてからファーダは魔力を発して異形に指示を送っていた。そして障壁を構成した後、同様の魔力を発したのを確認している』
「そこから考えると、まだファーダは戦場にいると」
『仮に我らが見たファーダは偽物で本体は別にいる……となった場合、外部から魔力による命令を行うはずだが、魔力障壁によって魔力を遮断している。それを通過できたとしても、察知できるようにしてある』
「わかった……俺達は目前にいる異形を全部叩き潰して、あとはファーダの反応を見ればいいということだな」
俺は応じながら『ホーリーランス』を放ち、異形一体を消し飛ばした。
相変わらず分裂を繰り返しているが……徐々にそのペースが落ち始めている。星神の力により魔力量を無視するかのように分裂を繰り返しているわけだが、それにも限界が見え始めた。
この調子ならば、状況は一気に進展するはず……やがて俺とカティ、そして天使達の魔法が炸裂し、西側はほぼほぼ制圧した。
なおかつ、東側の方もロミルダとソフィアの奮闘により倒すことに成功。そして城門がある南側は……シルヴィ達による白兵戦によって、異形の数は激減していた。
ファーダの姿はまだない。ただこのまま何もせずにいたらジリ貧であり……次のアクションを何か起こす必要があるはずだ。
異形がほとんど見られなくなったことで、俺とカティは一度南側へ移動を開始する。そして道中で、
「カティ、敵は次にどういう手を打ってくるだろうな?」
「戦力を増やしても勝てないようなら、一度退却してもおかしくはないけれど……東西の伏兵から考えても、ファーダという人物が行った今回の攻撃は総力戦だったはずよ。それを砕かれた以上は――」
会話をする間に南側へ戻ってくる。門の外へ出た仲間達が城門付近で待機し、まだ残っている異形達とにらみ合いになっていた。
俺達が戻ってくるより前に、異形達は大きく退き様子を見る構えを見せていたのだが……ここで、再びファーダが姿を現した。
「進退窮まって、出てきたか?」
俺は剣を構え魔法を放てるよう準備を整える。そして……ファーダはこちらを見据えた。
 




