森の伏兵
なおも押し寄せてくる異形の軍勢に対し、味方はさらに魔法攻撃の量を増やすのだが……俺はここで一つの疑問が生じた。
「これだけの異形……どうやって潜伏させていた?」
いや、そもそもこれは隠していたのか? 暗視の魔法や上空にいる使い魔を用いて戦場を見回すが……何をしているのか明確にはならない。
「こちらが観察しているのを踏まえた上で、やり方を悟られないように動いているな……ガルク、何かわからないか?」
『調べているが、敵が何かをしているのは間違いない……だが――』
その時、異形の上空に何かが飛来する。それが炎の塊であるのを認めた矢先、異形の軍勢がいるど真ん中で紅い華が咲き誇った。どうやら神霊フェウスからの援護……炎は燃え上がり、異形の体を焼いていく。
それで進軍速度を大きく鈍らせることに成功した……が、炎を浴びて燃える異形は魔力を発して魔法を打ち消した。他の異形達も相次いで同様の処置を施し……炎が、消える。
「効いてはいるが、さすがに星神の力が相手だ……一筋縄ではいかないか。それに、異形が大量発生している状況が改善しなければ拠点内に侵入されるぞ」
俺はそう呟きつつ、伏兵がいると思しき場所も警戒。まだ動いていないようだが……、
『……む』
その時、ガルクが声を上げる。
『なるほど、そういうことか』
「わかったのか?」
『異形はどうやら自らの分身を作成している。最前線へ向かうより前に、魔力を地面に注ぎ分身を作り兵数を増やしているわけだ』
「おいおい、無茶苦茶だな……でもそういうことなら、異形単体の能力が落ちそうなものだけど」
『そこで活用しているのが星神の力、というわけだ。どういうメカニズムかは不明だが、おそらく星神の力によって魔力を膨張させている……かなり強引な手法であるため、異形はその体を長く維持するのは難しいだろうが、ファーダからすれば異形はあくまで一兵卒であり捨て駒だ。個体を維持する理由はないのだろう』
「なるほど、な。俺達の能力を見て、急場に数を増やしたってことか」
であれば、急速に数が増えるのも納得がいく……さらにフェウスから炎の塊が飛来する。加えて防壁の上からの攻撃に精霊が加わり、異形は数が減っていく。
ファーダも負けじと異形を作成しているようだが、それでも撃破ペースと生成速度が拮抗しているのか、数は増えないし減りもしない。ただ、この状況はいずれ崩れる。間違いなく俺達よりも、向こうの力尽きる方が早いはずだ。
「このまま長期戦に持ち込んで……というのもアリだとは思うけど……」
『さすがに敵も消耗するまで待つことはしないだろう』
会話をしている間にもさらに敵の数は減っていく……のだが、ここで変化が。
上空から観察する使い魔が、東西で動く異形の姿を捉えた。ここで伏兵が来る――と、物見の天使もそれを発見したか声を上げた。
「伏兵……備えはしているが、異形の数が増えたら厄介だな」
『その辺りはデヴァルスが動いているはずだ』
ガルクが返答した直後、防壁を破壊しようとしていた異形の動きが止まる。見ればかなり数が減っている……分身を作成する、といってもさすがに無限というわけではないのだろう。ファーダの姿は見えないが、思った以上の損耗に対し攻めあぐねているのだと察する。
東西から押し寄せる敵が戦いにどういう変化をもたらすのか……ここでクウザとカティが動いた。
「ルオンさん、ここは一度……」
「リーゼから指示を受けていたのか?」
「ああ」
「わかった。ならその通りに動いてくれ」
声にクウザは移動を開始し、カティもまた無言で城門付近から立ち去った。さらに天使や精霊達も東西へ向け移動を開始……そこで、
「そちらは精鋭部隊だろうが」
と、どこからかファーダの声が聞こえた。
「戦力が無限というわけではない。攻め手を増やせば必然的に戦力を分散させる必要が出る」
「そっちだって、余裕があるわけじゃないだろ?」
問い返すと向こうは無言となった。代わりに、動きを止めていた異形達が再び城門へ目がけ足を踏み出す。
そこで――防壁の上から飛び降りる人の姿が。それはシルヴィであったり、アルトであったり……つまり、白兵戦で決着をつけようというわけだ。
「ルオン様」
さらにソフィアからの声。そちらへ顔を向くと、
「私達は東西の防衛へ」
「異形はシルヴィ達に任せるということか」
「はい、敵の動き方を見てそれで問題ないと判断しました」
「――言ってくれるな、王女」
ファーダの声はしたが、ソフィアはそれを無視するかのように、
「私は東へ、ルオン様は西をお願いします」
「わかった。俺は使い魔で適宜戦場を観察する。何かあれば動くよ」
防壁の上を駆け出す。そこでシルヴィ達の声が聞こえ、異形との戦闘が始まる。
……ここまでの戦いで、異形の能力などを確認。魔法による攻撃ではなく白兵戦でも応じることができると判断し、城門付近は戦力を投じて対応するということになったわけだ。
その戦いぶりは……確かにシルヴィやアルトの剣が異形を圧倒している。身体能力などを含め油断できないが、彼女達が圧倒的な能力で倒しているのを見ると、問題ないだろうと悟る。
そこで俺は拠点の西側に到着。カティがその場にはいて、既に戦いが始まっていた。
森から出現する異形達に、天使や精霊達の魔法が突き刺さっていく。俺やカティもまたそれに参戦し……光の槍が、異形達を複数体まとめて滅ぼした。




