異形を率いる者
漆黒の異形は、拠点に接近したことで魔法の明かりによってその姿が闇の中で浮かび上がる。様々な形をした異形ではあるが、それらが理路整然と並んでいる様子は……佇むだけで空気を重くするほどだ。
そうした中、先ほど使い魔を通して見つけ出した黒いローブ姿をした人物が異形の前に出てきた。もしかして、俺が城門の上に立っているため、挨拶でもしようというのか。
「……名前くらいは聞かせてもらえるのか?」
手始めに俺は問い掛けた。夜であるためか、俺の声は異様なまでに響き渡る。そこで、
「ファーダ=レギウムだ」
男の声。次いで明かりに照らされた人物は……銀髪の好青年、といった風体の男性だった。
「一応、この大陸の出身者だ」
「……自己紹介をきちんとしてくれるとは。それで、なぜ異形を伴いここまで来た?」
「決まっているだろう。星神の力を得るためだ」
異形達がうなり声を上げる。既に臨戦態勢といった様子。
「恐ろしい力……強大で、世界を滅する力。それに魅了され、ここまで来た」
「まさしく信奉者ってわけか……星神の力は世界に破滅をもたらすとわかっていても、か?」
「だからこそ、力を求めた」
……何か力を手に入れたい理由がある、ということなのか。
「さすがにその理由までは、教えてくれないか」
「答えるつもりはないし、そもそも答えても意味はないだろう」
「ま、そうだな……理由を知ったからといって、矛を収めるわけじゃない」
答えつつ……質問に答えてくれるだろうか、と胸中で考えつつ俺は尋ねる。
「なら、別の疑問だ。あんたと同じように星神の力を持つ魔族がいたはずだ。そいつと手を組めば勝率を上げられたかもしれないのに、そうはならなかったんだな」
「戦場を訪れた際、既に交戦が始まっていた。それに乗じて仕掛けてやろうかとも考えたが、そちらの戦いぶりを見て中断した次第だ」
なるほど、魔族は先行していたという形なのか……と、ここでファーダはさらに続けた。
「星神の言葉はシンプルだ。自分に害をなす存在を狩れ……そちらの武勇は情報の上でしか知らないが、戦いぶりを観察していればわかる。真正面から挑んでも勝つのは難しいだろう」
「それをわかった上で、戦うつもりなのか?」
今やろうとしているのは、まさしく正攻法の戦いだが……まあ相手は潜伏している魔物がまだいる。彼自ら率いて攻撃を仕掛ける間に別働隊が――という計画なのだろう。
「既に準備は済ませた。そちらを欺く策は」
「ああ、そうか……今まで、星神からに魅入られた敵とは幾度となく戦ってきた。そうした人間は……なんというか、似たような言動をするんだな」
……別に挑発的な物言いではなく、純粋な感想だったのだが相手は少し気に障ったらしい。俺へ向け眼差しを鋭くした。
「ずいぶんと余裕だな……まあ、昼間の戦いぶりを踏まえれば当然か。だが、背後にいるこいつらは人の姿に擬態していた存在とは違うぞ」
ファーダがそう語った瞬間、異形達が一歩前に出る。
「他に質問はあるか? どうせ最後なのだ。どんな質問でも答えてやるぞ」
「……星神はいずれ、世界を破滅させる。その中でお前はどうするつもりだ?」
「力を手に入れてから考えることにするさ」
……世界の破滅などまったく興味がない様子。ただまあ、これはある種当然と言えるか。世界のことなど気にしていては、星神から力を手にしようとは思わない。
「他に質問はあるか?」
「……なら、あんた以外にもこの周辺にいるのか?」
「ふん、それは自分で調べるんだな」
まあさすがに喋る気はないか……ただ、なんとなく勘ではあるがこれで終わりという気がしてくる。
「ああ、わかったよ……なら、始めようか」
防壁の上にさらに人が。それはカティやクウザといった魔法を扱える面々だ。
「いいだろう」
俺の言葉にファーダは応じた後、手を掲げた。
「これで最後だ――俺の糧になれ! 英雄!」
異形が動き出す。それに呼応するように、多数の魔法が防壁の上から放たれた。カティやクウザの魔法以外にも、精霊や竜の魔法も異形へ向かっていき――轟音が響いた。粉塵が舞い、視界が一時見えなくなる。
「全員、注意を!」
俺は警告を発しながら、自分もまた魔法を撃つ準備を始める。まずは直接戦闘ではなく、魔法により異形を倒す……俺が使用した魔法は『グングニル』であり、光の槍が夜の闇を切り裂くように……勢いよく、防壁の上から放たれた。
その狙いは、ファーダの立っていた場所だが――既に相手の姿はなく、拠点へ近づく異形の一帯に直撃した。
刹那、閃光と爆音が生じて多数の魔物を飲み込んだ。しかしそれでも効果範囲外だった異形達は構わず接近してくる。そこでさらに魔法が照射され……単なる戦闘ではなく、文字通りの攻城戦が始まった。




