魔族と異形
俺達はまだ敵がいると考えて警戒し、索敵を継続しているわけだが……もし何もいなかったら徒労に終わる。なおかつ、時間を浪費していることになるわけだが――その心配は無用だった。なぜなら南北の拠点を潰した夜、こちらの拠点へ攻め寄せる一団が発生したためだ。
「ガルク、状況は?」
眠っていたが、報告を聞いて毛布から飛び出た俺は、ソフィア達が集まる天幕を訪れ問い掛けた。
『現在、拠点の周囲で様子を窺っている状況だ。魔力を探ったところ……ルオン殿達が交戦した異形と思しき存在を確認できた』
「やっぱりまだいた、ということか。そいつらはどこから湧いて出たんだ?」
『敵を捕捉してから精霊などが調べたところ、別に拠点があったらしい』
「拠点?」
『位置としては、ここから南西にある……何もないところから突如出現したことから、魔力による索敵を回避できる魔法が使われていたと考えた方がいい』
そこまで語ると机の上にいる子ガルクは、悔しそうに話を続けた。
『大地に存在する魔力を利用し、隠蔽魔法を維持していた……星神の力を利用した高度なものだろう。現在、それを考慮して再び索敵を行い、位置として真西と北東に別の拠点があることもわかった』
「結構数があるな……それがわかったのは何故だ?」
『大地の魔力を吸っている場所を探した。森などでは木々が地中から栄養や水分を取り込むと同時に魔力も吸っているため、大地から魔力の移動はそれが原因だろうと思っていたのだが……』
「敵の拠点があったと」
『自然現象と敵拠点のある場所の違いはほんのわずかだった。それ故に、我らでも捕捉できなかった』
ガルクは淡々と語っているが、言葉尻からなぜ見つけられなかった、と歯がみしているのがなんとなく伝わってくる。
これは星神が一枚上手だったという話なのだろう。もっとも、状況的に包囲されていることからも、ガルクとしては避けたかった状況に違いない。
「……神霊の索敵に引っかからなかったということは、結構前から拠点があったと考えて良いのか?」
俺の疑問に対し、答えたのは……ソフィアだった。
「ルオン様が来る前に話していたのですが、そう考えて差し支えないという結論に達しました」
「つまり敵は、俺達がここに来た時点で包囲していたと。星神の目的はこちらの技術とか先鋒を暴き出すことにあるとしても、奇襲は非常に効果的だ。なぜ今まで身を潜ませていた?」
『……それに対する推測はいくらでもできるが』
前置きをして、ガルクが語り出す。
『ルオン殿達がここへ来ようと向かっていた途中で、我らは敵と遭遇し交戦した……それを踏まえると、最初に我らが交戦した者達は囮で、本命はあの異形だったと考えることもできる』
そう語るガルクへ、この場にいた面々は視線を集中させる。
『我らは自分達と同じ存在が現れたことで最大限に警戒し、注意を向けた。ただ、ここで疑問が生じる。確かにあの姿で攻撃をされれば我らは最大限警戒し、注力する。だが、奇襲をするのであれば……こちらに打撃を負わせるのであれば、わざわざ宣戦布告をする理由はなかったはずだ』
――最初、俺やソフィアが魔王城へ向かう途中に、平行世界において星神に従う者達が姿を現した。そこから戦いに発展したわけだが、ガルクが言っているのはわざわざ姿を現さずとも、奇襲をすれば良かったのでは、ということだ。
平行世界の人間を使役する魔族が勝てると踏んで、わざわざ宣告して攻撃を仕掛けたという説もあるにはある。だが、俺達を包囲する異形がいるとわかったことで、そういった者達と一緒に攻撃すれば、こちらに打撃を与えることは可能だったはず。
そうしたガルクの言葉に対し、答えたのはリーゼ。
「こう考えることはできない? 今回異形を作成した者と、平行世界の人間を呼び寄せた魔族。その両者は星神に付き従っていたとはいえ、どちらが私達を討ち取るか競争をしていた」
『ふむ、功を得ようとして魔族が先走った……ということか?』
「魔王との戦いでもそうだったけれど、自分が功績を上げようとしたら同僚を出し抜くのが一番だから」
『本来ならば、連携した方が勝てるはずなのだが……まあ、そう考えるのが一番違和感はないか』
「星神の命令なら手を組めと言われたら従っていたでしょうけど……そもそも星神は彼らを利用して私達を倒そうとはしていないことから、あくまで能力を見極めようとした」
「……なんというか」
ふいに、ソフィアが口を開く。
「私達はあくまで決戦に臨もうとしていますが、星神は障害を用意していても、退却させないよう見極めているようにも感じられます」
「ああ、確かにそれはあり得るな」
俺は同調しつつ、さらに考察する。
「星神はこの決戦で勝負を付けようとしている……星神の特性を考えれば俺達を追い返した方がよさそうなのに、そうはせず手駒を用いて情報収集をしている……俺達は被害が出れば退却する可能性もあるけど、それをしないギリギリのラインを攻めている」
『ならば』
俺の言葉の後……次に語り出したのはガルクだった。




