精霊達との話し合い
ソフィアと新たに契約する精霊も、族長というウンディーネの中でも上位の存在……ただ、そんな簡単に承諾して大丈夫なのか?
「その、大丈夫なんですか?」
俺と同じ疑問を抱いたらしいソフィアが声を上げる。
「アマリアさんは、族長なんですよね?」
「ああ、その辺は大丈夫よ。契約する以上誰かに族長の座を渡さないといけないかな。まあなんとでもなる」
びっくりするほどアバウトだな……本当に大丈夫なのか?
「族長って、面倒事しかないのにやりたがる子もいるからね。一日だけ待ってもらえれば、話をまとめられると思う」
「……と、アマリア自身が言っているので、任せましょうか」
レーフィンはこちらに提案。俺としては頷く他なく、ソフィアやシルヴィも同意の意向を示した。
「なら、さっさと話をまとめてくる」
そう言って、アマリアは俺達を通り過ぎ森の奥へと消えていってしまった。
なんだかな……と思っていると、レーフィンが言う。
「実力は私が保証しますので」
「そこは疑ってないが……一応確認するけど、ソフィアは大丈夫か?」
なんとなく訊いてみると、彼女は取り立てて平気な様子。
「アマリアさんが契約すると言った以上、相性的な問題はないのでしょうし、私としては特に問題ありませんよ」
……相性の問題とか把握しているのかわからないくらいに即決していたように思えるけど……まあ族長を務めていた以上、能力も高いだろうしその辺りの判別はつくんだろう。たぶん。
「それで、今日はここで一泊ということになりそうですが……どうしましょうか?」
レーフィンが問う。野宿でも俺は平気なのだが……ソフィアやシルヴィも大丈夫との返答。
「なら、今日はここで待つことにしましょう。どこで休むかはアマリアに確認を取るべきでしょうけど」
レーフィンが語り、とりあえず話は終わり……と、ここでレーフィンが俺へと視線を投げた。
それはほんの一瞬であったが、何が言いたいのかは理解できた。レーフィンはすぐさまソフィアと話を始め、シルヴィは泉や森へと視線を巡らせる。
その中で俺は……アマリアが去って行った方角を眺めつつ、ここでしなければならないもう一つのことを、頭の中に浮かべることとなった。
ウンディーネ達の話によるとここにも獣の類はいるようで、それを狩る人間もまたいるらしい。精霊達はそうした人間と共生もしており猟師小屋があるとのことで、今日はそこで休むこととなった。
ただ、精霊達が意外と干渉してきてちょっとした宴のような感じになった。森を訪れた直後にウンディーネと打ち合ったことが、原因のようだ。
とはいってもさすがに酒などが出てくるようなこともなく、森で採れる果実などを口にしながら話をする。ソフィアは話したがりな者から延々と話を聞き、シルヴィはガーナイゼで起こった出来事などを話している。一方俺は旅の途上で出会ったことなどを話し、笑うウンディーネを見て、なんだか接待でも受けている気分になった。
ただ話をしていて結構疲れる……と思っていた時深夜を迎え、とうとう解散となった。精霊達が泉へと戻り、ソフィア達は休むことにする。
「その、ルオン様……」
「構わないって。それに一番体力があるのは俺だからな」
小屋にはベッドが一つしかないし、なおかつ手狭であるため三人はさすがに寝られない。よって俺が外で休むことになり……俺は何度も「大丈夫」と言い、ソフィア達を押し込めることとなった。
ただこれは、俺としても都合がいい。
それから少し待つことにする……ウンディーネとの契約はあっさりと終了。アマリアの力はレーフィンのお墨付きでもあるし、ソフィアの能力がさらに強化されたのは間違いないだろう。
ここから俺がやらなければならないのは、神霊である水王アズアの場所へ向かうこと。場所についてはガルクの住まう聖域のように多くの人間が見知っているわけではないのだが、その辺りの情報をアマリアが持っている可能性が高いと、レーフィンは言っていたので問題ないだろう。
ただ少なくともここからさらに南……海に到達する場所であるというのは、文献にも載っている。だからさらに南へ向かう必要がある。
「ソフィア達にどう説明するかという話だけど……ま、あれしかないか」
浮かんだ手は一つある。さらにソフィア達の強化にもつながるので、ベストだろう……そう思っていると、レーフィンが俺のところへやってきた。
「ルオン様、どうも」
「ああ。二人は?」
「眠りました。ちなみにロクトは話し合いに参加するつもりはないようです」
「え、そうなのか? 理由は?」
問い掛けると、レーフィンは肩をすくめる。
「女王と族長……もっともアマリアは明日になれば元族長になるわけですが、ともかくそういう間柄における話し合いということで、遠慮したみたいです」
「……その中に、俺が混じっていいのか?」
「むしろ主役はルオン様でしょうに」
そう言えなくもないんだけどさ……ま、いいや。ともかく行動することにしよう。
――事前に俺とレーフィンは、アマリアと話をすると決めていた。もっとも当初の予定ではアマリアが契約するという前提で話をしていなかったのだが……まあ、話がわかりやすくなったということで、よしとしよう。
俺とレーフィンは黙ったまま小屋を離れ、アマリアのいる泉へと足を運ぶ。そこに最初人影はなかったのだが、気配を察したかアマリアが泉の中から出てくる。
「二人してどうしたの?」
小首を傾げ、泉から歩み寄ってくる。ちなみに衣服はまったく濡れていない。魔法か何かで弾いているらしい。
「ここに来た目的は、精霊の契約という意味合いもあるけれど……他にもやらなければならないことがあるんだ」
「それは私が質問に答えて解決する話?」
「おそらくな……一から説明するよ」
俺とレーフィンはアマリアに説明を開始。途中ガルクまで登場し、アマリアは驚きつつも話を聞き――やがて、
「なるほど……つまりソフィアさんを強くする以外に、あなたも色々と動かなければならなくなったと」
「そういうこと。で、ここからが本題だ。レーフィンの話によると、アマリアさんなら水王アズアの居所を知っているという話だったんだが……本当か?」
「厳密に言うと、私もアズア様の住処を訪れたことはないから、確定的なことは言えないよ」
アマリアは肩をすくめつつ答える。
「それに、アズア様は住処を転々とさせるし」
「転々と、か。探すのは大変なのか?」
「海に行くことができれば、調べるのは難しくないと思う」
「なら、このまま南へさらに進むということで決まりだな」
俺が言うと、レーフィンもガルクも同意を示す。
「けど、一つ懸念が」
そこでアマリアが語り出す。
「アズア様は、自身のテリトリーに踏み込む者は何人たりとも容赦しないというか……」
面倒な神霊みたいだな。まあガルクと最初に出会った時のことを考えれば予想できる。
ともかく、戦いは避けられない様子……俺は、一応ガルクに尋ねてみる。
「そっちが交渉してみても駄目か?」
『フェウスならまだそれなりに話をしたこともあるが、アズアは無い。戦いは避けられないだろうな』
「……そうか」
「戦う気でいるの?」
アマリアが目を丸くする。それに対し――ガルクが発言した。
『我を倒せる実力を有する御仁だ。勝算は十二分にあるだろう』
――そんなことを言われては、さすがのアマリアも息を呑んだ。




