攻める側、守る側
築城については、それこそ俺が目を丸くするスピードで進んでいった。作業を始めてわずか一日で、城壁とまではいかなくとも、内と外を遮断する囲いについては完成した。
「一夜城レベルだな……」
「何だそれ?」
デヴァルスに尋ねられたので説明をすると、
「ほう、魔法もない世界で城を……」
「まあ、単なる創作とかいう可能性が高いみたいだけど……史実的に裏付けがないみたいだし」
「なるほどなるほど……それに関わったとされる人物は、偉業を成し遂げたのか?」
「そうだな。俺が住んでいた国の話だけど、その時代は群雄割拠の戦国時代で、それを統一した人のエピソードだからな」
「面白い……今度、そちらの世界の歴史を教わりたいところだが」
「あんまり憶えてないなあ」
そんなことを会話しつつ、さらに築城は進んでいく……で、
「敵はこの様子を見ているだろうな」
「ああ、それは間違いない」
「ならば、向こうも動く必要性が出てくるはずだ。築城が完成するより前に攻撃を仕掛けるか、それとも城壁すら存在することを考慮した上で、攻め寄せるか」
「後者の場合は総力戦になる可能性が高そうだな」
「……敵の数はまだわかっていないけど、多かったらこの築城が役に立つかもしれないな」
「というより、ここからが本番の可能性も否定はできない」
思わぬデヴァルスの発言。どういうことかと問い質すと、
「魔族が呼び寄せた平行世界の存在……星神の行動を見るに、捨て石同然の扱われ方だったのは間違いないだろう」
「情報がロクに渡されていなかったからな。それは相手も認めていた」
「そもそも星神はこちらの核心的な情報を配下と呼べる存在にあまり教えていない……リズファナ大陸における騒動から考えても、だ」
俺は同意ということで大きく頷く。
「しかし、だからといって星神が何の情報も与えていない、というわけではない」
「うん、そうだな」
「星神の目的としては配下に攻撃させてこちらの持っている技術や情報を解明することにある、と考える」
「俺も同意だけど……それはつまり、星神自身が決着を付けようと考えているってことか?」
「そうだな。ついでに言えば、たぶん星神は配下で倒すことはできないと考えているんだろう」
……俺は沈黙。そこでデヴァルスは意味深な笑みを浮かべた。
「星神は自身の手勢の実力をつぶさに把握しているはずだ。その上で、俺達の実力を事細かに、つまびらかにしてみろ。どういう行動を取ると思う?」
「……実力が足りないなら、逃げる可能性もあるよな」
「そうだ。敵前逃亡――星神としては情報も取れないからこれが一番やって欲しくない。ならばどうするか。与える情報を制限して、勝てると言って煽るわけだ」
「……俺達を倒せば、さらに力を与えると吹き込んで、か?」
「ああ」
「そう考えると今の状況は納得いくけど……これまで見せてきた星神の態度からすると、ずいぶんと人間的な考え方になったな」
当て馬を使うという話だからな……するとデヴァルスは首を左右に振った。
「いや、同じだと思うぞ」
「そうか?」
「やり方が露骨になってきただけの話さ。こちらは魔王城から決戦の舞台へ踏み込もうとしているわけだが、だからこそ星神としては警戒し、より強硬的な手段に出たというわけだ」
……デヴァルスの考えが正しそうだな。
「問題は、俺達に守る能力があるかどうか……」
「ま、そこは任せてくれ」
俺の呟きにデヴァルスは律儀に反応した後、立ち去った。そして次々と天使達へ指示を飛ばす。
それによって、恐ろしい速度で城壁が組み上がっていく……敵としては迷うところだろうな。しかも考える猶予はほとんどない。
「ルオン様」
ここでソフィアに呼ばれた。首を向けると、資料を持つ彼女の姿が。
「城壁が組み上がって以降のことですが、周囲の見張りは神霊や精霊の使い魔が行うそうです」
「つまり、俺達は何もする必要がないってことか」
「はい。敵の出方次第で動き方は変わります」
「敵が来れば打って出る形にはなるけど、それまでは待機ってことか……なら、仲間には休むよう伝えておいてくれ」
「わかりました」
「ソフィアはどうだ? 休めているか?」
「それについては問題ありませんよ……というより、肉体的な疲労はありませんから、むしろ高揚しているくらいです」
問題ないとわかれば、勇んで出撃しそうだな……。
「そうか。でも、疲労は目に見えない形で来るからな。忙しいとは思うけど、体は定期的に休めるようにしてくれ……ソフィアには、決戦の際にしっかり働いてもらうから」
「はい、もちろんです」
そう言って颯爽と立ち去る……後ろ姿を見て俺もやっぱり仕事した方がいいのかなあ、などと思ったりするが、正直やることはない。
まあ、仕事を無理矢理作ることはできるけど……仲間の調子を確かめて、状況に応じて適宜休むよう指示を出すか。
そんなことを思いつつ、俺は築城真っ最中の拠点を歩き出す。そして作業をするキャルンやアルトを発見し、話し掛けるのだった。




