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賢者の剣  作者: 陽山純樹
神霊の力

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森の族長

「少しばかり、面白そうな面々みたいねー」


 どこか間延びした声を発する存在は、進行方向から見て右側の森から現れた。


 見た目は十代後半――ちなみにウンディーネの容姿は基本その辺りで留められている。他のゲームなどでは水をイメージするため青い肌だったりするのだが、この世界のウンディーネは人間と同じ肌色。

 そして着るのは白いローブ。髪色が青くなければ、別の属性の精霊かなと思うくらい、水というイメージがなさそうな感じ。


「精霊といっても、やっぱり好戦的な奴はいるんだな」


 シルヴィが声を発する。剣の柄に手を掛けた状態で、相手を観察する。


「私達と契約しようとここに来たんでしょう? さっき風の精霊さんを連れていた以上、別の場所には回っている……面白いかなと思って」


 周囲からは気配も感じられるが、他に出てくる様子はない。取り囲んで戦うというようなことはしない様子だが――


「……ソフィア」


 俺はここで声を掛ける。


「さっきレーフィンが飛び去ったが、力は使えるのか?」

「契約をしている場合、レーフィンさんの魔力は体のうちに残っていますから離れた場所でも力を行使することはできます」

「そうか……このまま見逃してくれ無さそうな雰囲気だから、戦うしかないな」

「わかりました」


 ソフィアは剣を抜く。次いでシルヴィもまた剣を抜き、


「ルオンはそこで見ていてくれ」


 訓練の成果を試したいという雰囲気が見て取れる。道中魔物と戦っていたが、南部へ来ると魔物も弱くなるので、成果を確かめる相手がいなかったのだろう。しかしウンディーネならば――ということか。


 ウンディーネが動き出す。同時に腕に蛇のように巻きつく水流をまとい――その姿は、どこか武術家を思わせる。

 というか、精霊なのに接近戦……考える間にシルヴィが動いた。間合いを詰め、ウンディーネよりも先に攻撃を仕掛ける。


 剣で戦う以上、ウンディーネよりもリーチ的には有利のはずだが――刹那、ウンディーネが手をかざす。すると水流が突如腕を離れ、本物の蛇が食らいつくようにシルヴィへ迫る。

 一方のシルヴィは回避に動こうとしたが――横からソフィアの剣戟が割って入る。水流へ向け剣を振りおろし――途端、水は力を失くして地面に落ちる。


「すまない」

「いえ」


 短い会話を成した後、ソフィアとシルヴィは並んで構える……共に訓練をしてきたからこその動き。個々の戦力アップもそうだが、この二人の連携技術もまた成果と言ってよさそうだ。


「やるじゃん」


 ウンディーネは称賛……なんとなくソフィア達を見定めているようにも思えるが、目は本気。

 シルヴィが先に動いたため、次も彼女からかと思ったが――予想外にもソフィアが動いた。一瞬で相手と間合いを詰め、剣を放つ。間違いなく『清流一閃』だ。


 ウンディーネはそれに応じようとした――様子だったが、ソフィアの進攻速度の方が圧倒的に上だった。訓練を始める前よりも遥かに洗練された動き。加え五大魔族のベルーナと戦いレベルが上がったためか、その身体能力も向上している。


「っ――!?」


 ウンディーネは防御もできないままでソフィアからの一撃を受けた。相手がどれほどのHPを所持しているかわからないので、下手をするとこの攻撃で消滅なんてことも……と、ちょっとドキドキしたのだが、威力自体は抑えたのか、ウンディーネは体を震わせただけで、外傷はない。


「……手を抜いたつもりかな?」


 ウンディーネが問う。攻撃に全然殺気がなかったということだろう。


「そういうわけではありませんが……聡明なあなたであれば、ご理解されるかと思います」


 ソフィアは応じつつ剣を構える。技により彼女が背後に回った結果、ウンディーネを挟み込むような形となっている。


「あなたはどうやら、先ほどの動きについていけなかったご様子。その状況で挟み込んだ以上――」

「勝ち目がないと言いたいってことだね」


 嘆息するウンディーネ。すると彼女は肩の力を抜いた。


「なるほどなるほど、理解したよ。残念だけど私の負けってことだね」


 残念そうな言葉……シルヴィは「終わりか」とどこか残念そうに声を発する。

 仕掛けたウンディーネは魔力の多寡から考えてそこそこの実力を所持しているだろう……精霊とこうして打ち合っても勝てるというのは、以前よりも実力が上がっていると言えそうだ。


 ここからさらに別のウンディーネが押し寄せてくる可能性もあったが――それより前に、レーフィンの声がした。


「お待たせ致しました」

「あらあら、もう一戦やり終えちゃったか」


 レーフィンの言葉と共に聞こえたのは、どこかおっとりとした話し声の精霊。

 見た目が十代後半というのは先ほどの精霊と変わりない。ただしその精霊は白いローブではなく青いローブで身を覆っている。


 そして交戦したウンディーネと異なり、ずいぶんと気品がある。口調はともかくとして、その雰囲気は紛れもなく森を治める族長だ。

 彼女を見て、白いローブのウンディーネは声を上げた。


「……アマリア様」

「彼女達は私の客人。これ以上の争いは控えてもらえるかな?」


 レーフィンが連れてきたウンディーネ――アマリアが口を開くと、彼女は承諾するように森の奥へと退いた。次いで周囲にあった好戦的な気配も消え失せる……個々に活動するといっても、やはり森を統括するような存在ならば多少なりとも敬意を払うということか。


「申し訳ないわね。せっかく来訪してもらったのに」


 苦笑を伴いアマリアが語る。ソフィアとシルヴィは剣をしまいつつ、彼女へと体を向ける。


「けれど、同胞達が接触したがるのもわかる。レーフィンが契約していたくらいだから中々の使い手だと思ったけれど、実際に見て相当な修練を積んでいるのがわかる」

「ありがとうございます」


 ソフィアが礼で応じる。するとアマリアは手を小さく振り、


「お礼はいいの……さて、道中自己紹介でもしながら、私が住む泉に向かうことにしましょうか」


 そう述べて、アマリアは俺達の案内を始めた。






「しかし、驚いたわ。シルフの女王自らが動いているなんて」


 訪れた泉は森の奥。背後には山が森の背を守るように鎮座している。俺達は輪になるように話を始め、アマリアはなおも語る。


「どういう風の吹き回しかな?」

「事情がありまして……ソフィアさん、ロクトを呼び出してもらえませんか?」

「はい」


 応じソフィアは目を瞑る……すると彼女の横に、ノームのロクトが現れる。


「へえ、なるほどね」


 するとアマリアは声を上げた。どうやらロクトのことも知っているらしい。


「つまり、シルフもノームも契約者であるその女性に、期待をしていると」

「はい。より詳しく言うと、ソフィア様達は最初私の所を訪れ、色々あって共に戦うことにしました」

「何かしら理由があるのよね?」

「はい。それについては説明します」


 レーフィンは話し始める。ソフィアが賢者の末裔でありさらに王女であることに加え、五大魔族を倒したことも説明……すると、アマリアは納得の声を上げた。


「そういうことか。レーフィンが同行するのも頷ける」

「そして今回、この森を訪れウンディーネと契約を。騒動がありましたが、元々の予定ではアマリアに会おうと思っていました」

「私にソフィアさんと相性がよさそうな同胞を教えてもらおうと思った、と」

「その通りです」

「わかったわ。それなら――」


 アマリアは自身の胸に手を当てつつ、告げた。


「私が協力するわ。族長として、魔族との戦いもしかと見ておかなければならないし」


 ――シルフやノームに続き、ソフィアと契約する精霊は、またも実力者ということで間違いなさそうだった。


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