戦いの筋書き
翌日以降、ガルク他神霊達が魔王城周辺の索敵を開始した。多少なりとも時間が掛かるらしかったので、俺は戦いの後ということもあって一日休むことに。
デヴァルスなどとは顔を合わせて色々と話をしたりもするが、剣を振ることはしない。拠点では主にソフィアがリーダー的な役割を果たし、指示を出して仲間が動いていた。
「何か手伝えることはあるか?」
何気なく彼女に話を向けてみるけど、彼女は「大丈夫です」と答え、俺は引き下がった。結果、やることもなくなり拠点の隅で忙しなく動いている人を眺めることに。
「暇そうだな」
そんな折、クウザが声を掛けてきた。
「そっちは?」
「あー、戦った後ということで、念のために検査してもらって休養って感じだな。シルヴィとか、今回戦った仲間は全員そんな感じだ」
「そうか……」
「ルオンさんは、敵がまだいると思うか?」
問い掛けに俺は沈黙した後、
「……そうだな、星神の妨害が一つだけとは思えない。仮に周辺の森にいなくとも、星神へ向かうまでの道の中で……とか、いくらでも考えられるな」
「相手も相当抵抗しているというわけだ」
「だからこそ、是が非でも決着をつけないといけない」
俺の言葉にクウザは重々しく頷き、
「ま、神霊様の結果が出るまでゆっくり待とう」
「……正直、この拠点に長期間滞在する想定はしていなかったけど」
「でも備えはしていた。よって問題はないさ」
クウザの指摘に俺は頷く……もし索敵によって他に敵がいるとわかれば、俺達は後顧の憂いをなくすために戦う必要が出てくるだろう。敵の数にもよるが、もし多ければどうなるか……今回起こった戦いのように、すんなり勝利できればいいが――いや、そもそも星神はこちらの戦いぶりを見て情報や戦術を引き出すつもりだ。そういう観点から見ると、平行世界の『ソフィア』達との戦いに勝利はしたが、相手の目論見についても成功していることになる。
かといってこれ以上情報を出さないようにするためには、すぐさま決戦に挑むことになるわけだが……それもまたリスクがある。残っている敵を放置すればどうなるのかわからないためだ。
ただし物資は限りがある以上、どこかで見切りを付けなくてはいけないのも事実。敵の数などを捕捉次第、早急に対策を講じる必要がある。
「眉間に皺が寄っているぞ」
ふいにクウザから指摘が入った。確かに、険しい顔をしていたかもしれない。
「決戦間近だし、なおかつ星神が妨害をしているという嫌な状況だからな。無理もない。ただ、この場には竜も天使も魔族もいる。いくらでもやりようはあるさ」
「……この場にいる面々でどうにもできなかったら、そもそも星神に挑んでも勝つことはできないよな」
そんな風に呟くと俺は苦笑し、思考を切り替えることにする。
「とりあえず寝ようかな」
「うん、それが良いんじゃないか?」
「クウザはどうする?」
「もう少し拠点を見て回ることにする。戦いに参加していたとはいえ、結構余裕もあったし」
「そうか」
俺はクウザと別れて自分が寝泊まりしている天幕へ向かおうとした時……リーゼと顔を合わせた。
「あらルオン、どうしたの?」
「寝ようかと思って」
「昼間から良いご身分……と言いたいところだけど、あなたが主役だししっかり休んでもらうべきかしら」
「リーゼの方はどうなんだ? 戦いでは先頭に立っていたし」
「平気よ。もし疲労が溜まっていたらソフィアにでも言って休ませてもらうわ」
「ああ、そうするといい……」
そこで俺は彼女がこちらを凝視していることに気がつく。
「……何が気になることが?」
「いえ、なんとなく思ったことなのだけれど」
「ああ、どうした?」
聞き返すと、リーゼは何かを言いかけて……結局、声には出さなかった。
「やっぱりやめておくわ」
「気になるじゃないか」
「戦いのこととは何も関係ないし、ちょっとばかりソフィアに申し訳ないし」
「……何の話だ?」
急にソフィアのことが話題に出てさらに聞き返す。それにリーゼは肩をすくめた。
「何でもないわ……さて、私ももう少し仕事をして休むことにするわ」
「なんだか気になるけど……まあいいや、リーゼも体調には気をつけて」
「ええ」
颯爽と歩き去るリーゼ。なんというか、絵になるな。
そんな後ろ姿を見て、俺は彼女を通して見た平行世界の光景を思い出す。辿る筋書きによっては、俺は彼女と共に旅をしていた……ソフィアを縁としていたのは間違いないけど、それでもシルヴィやクウザではなく、彼女を仲間に入れて旅をしていたかもしれなかった。
もしそうなっていたら、この戦いの筋書きも変わっていたのだろうか? 平行世界の俺は星神を打倒してから、旅を始めた。その仲間にはリーゼの姿もあった。つまり魔王を倒した後、ソフィアやリチャルと一緒に旅をしたように……その隣にいたかもしれないということだ。
ただ、結果として彼女は星神との戦いに参戦し、今は主導的な立場をとって動いている……それは平行世界で縁があったためか、それともあっちの世界と同様にソフィアという存在がきっかけになっただけか。
「……さすがに、平行世界云々でというのは眉唾かなあ」
俺が辿った道筋では、顔を合わせる機会がなかった……ということだろう。ソフィアがいればきっと彼女がついてきた。でも、それをするきっかけがなかった。
とはいえ今は共に戦っている……リーゼはもしかすると、平行世界の自分と今の自分を重ね合わせ、差を埋めようとしているのかもしれない……そんなことを思いつつ、俺は自分の天幕へ向かうことにしたのだった。




