本拠と彼女
一度『ソフィア』と戦った拠点と比べて、今回のはさらに規模が広い……まだまだ兵力が残っている、ということだろうと俺は予想する。
「――お待ちしていました」
まるで出迎えるように、にこやかに『ソフィア』が俺達へ言葉を向けてくる。声音も優しく、こちらの到来を待ち望んでいたかのようだ。
「いよいよ決戦というわけですが……正直、予想外でしたよ。ここまで徹底しているとは」
「俺達が、賢者の血筋を連れてこなかったことか」
指摘に『ソフィア』は素直に頷いた。
「こちらの策を看破してリスクはある……ですが、こちらも本気である以上は相応の危険を考慮した上で部隊を編成すると考えたのですが……」
「俺達の目標は星神だ。ここでそちらの策にはまって欠員が出るのは避けたいからな」
その言葉に――彼女の周囲にいた面々は怪訝な顔を見せる。それは意味がわからないという反応ではない。
「つまり、こう言いたいわけですね」
すると『ソフィア』が周囲にいる者達の内心を代弁する。
「私達はあくまで前座……全力で戦う必要はないと。あるいは、私達程度この戦力で倒せなければ、星神に挑む価値などないと」
「どういう風に思ってくれてもいいけどな」
「……本来ならば怒り狂うところなのかもしれませんが、あなた達の脅威は知っている以上、そう明言するのもおかしくはないかと思います」
あっさりと受け入れる『ソフィア』だが、周囲にいる者達の反応は良くない。
「とはいえ、本当にその戦力だけでいけるのか……試してみましょうか」
拠点にいる者達が、一斉に武器を構えた……『ソフィア』の横には『エイナ』に加えて他の賢者の血筋と、魔族『シェルダット』がいた。強引に突破するのは危険だろうし、ここは周囲の戦力を減らしてからじゃないと難しいだろう。
「……ここで、仕留めさせてもらう」
俺は一方的に宣言すると、剣を構えた。他の仲間達も相次いで戦闘態勢に入る。同時、敵方の天使や魔族なども警戒を強める。
来る、と心の中で呟いた瞬間に天使や竜が先んじて動き出した。こちらへ向け一斉に突撃するような状況であり、俺達の方はリーゼが前に出て対抗する構えを見せる。
そして彼女の手によって先端が切り開かれた。攻め寄せる天使へ向けリーゼは豪快な一閃を決め――二人まとめて消し飛ばすことに成功する。
次の瞬間『ソフィア』の顔が驚愕に染まったのを確認する。この本拠にいる者達が相手でも、リーゼは構わず斬った……この事実に、彼女はある結論を抱いたようだ。
「まだ、本気を出していなかったと?」
そんな問い掛けを『ソフィア』が行う間に、残る面々も戦闘を開始する。俺は迫る天使や竜、魔族の攻撃を剣でいなしながら反撃で倒していく。シルヴィは目にも留まらぬ剣戟で敵に防御させる暇すら与えず倒し、残る仲間達も連携によって敵を崩していく。
それでも数は圧倒的に敵が上。それを活かして取り囲むように布陣されると面倒だったが、そこはクウザが対処した。無詠唱魔法によって敵の動きを制限しながら、相手側の連携を阻害していく。
魔法による援護はクウザだけではなくロミルダも参加した。彼女の場合は戦況を見ながらフォローしていく……というわけではなく、押し寄せる数がもっとも多い場所へ狙って魔法を撃ち込んでいく。
ロミルダの攻撃も全力というわけではなかったが、竜や魔族が消し飛んでいくのを見ると、それでも十分すぎる威力を持っている……と、ここで敵の動きが止まった。
迎え撃つ格好だったがそれでも俺達が圧倒する状況。それによって敵側も動きを止め様子を窺う……ここで選択に迫られる。逆に俺達が仕掛けるのか、それとも沈黙を守り攻撃されるまで待つのか。
「……ルオン」
やがて近くにいたリーゼが俺へ向け声を上げた。
「どうする?」
――俺は一考する。目前にいる『ソフィア』達と、周囲にいる敵の数。最初の激突では圧倒したが、それは続くのかどうか……やがて、口を開く。
「周囲はリーゼに任せる。俺は、賢者の血筋を倒す」
「わかった」
リーゼは頷くと仲間達へ身振りで応じる。それをきっかけとして、彼女達は足を前に出した。このまま猛攻を仕掛けるようだ。
敵はこちらが攻め寄せるため、再び動き始めた。そして激突し――リーゼのハルバードが、ユスカの剣が敵を屠っていく。
そうした中で賢者の血筋はまだ動いていない……単純に切り札で温存しておきたいからなのか、それとも俺を警戒してのことなのか。
「……この場には竜も天使も、魔族もいる」
俺は乱戦の様相を呈する戦場で『ソフィア』へと告げる。視界の端に、魔族を指揮する『シェルダット』の姿が見える。
「だがそれでも、あんたの近くにいるのは賢者の血筋……現状、こちらが優勢なのに温存しているのは、同一人物を狙い攻撃を仕掛けるという理由だけではないだろう。つまり、そちらの切り札というわけだ」
「……ええ、その通りです」
観念した、という風に『ソフィア』は答える。そこで俺は、
「魔族や天使ではなく、人間が……というのは、賢者の血筋だからか?」
「……星神は、私達に一つ力を与えました。過去、私達の先祖である賢者は星神を滅ぼそうとした」
それは同じ……となれば、賢者はこの世界と同じように活動していたのかもしれない。
「それによって星神は……自分自身を滅ぼそうとした人間に敬意を表し、力を与えることにした」
「なるほど、だからこそ特別というわけか」
俺は剣に魔力を注ぐ。それに対し『ソフィア』は、
「どこまでも、お一人で戦うのですね」
「ああ、そうだ。賢者の血筋相手には俺だけで十分……なんて言うつもりはないが、勝算があると判断しての行動だ」
「舐められたものですね……いえ、それだけの実力を持っているというわけですか」
彼女達は臨戦態勢に入る。平行世界にいる賢者の血筋……しかし俺は『ソフィア』達を相手に、戦おうとしている。
星神としてはどう考えているのか。この戦いは予定の内か、それとも――
「この戦いで、終わらせる」
「できるものなら――」
彼女は叫び――賢者の血筋が、一斉に俺へと攻撃を仕掛けた。




