平行世界の王女
俺達が来ることは既に把握していたようで、この世界に星神の信奉者を呼び寄せた魔族と、リーダーである『ソフィア』は本陣と思しき天幕の手前で待ち構えていた。
「……既に準備は整っているか」
そして、竜や天使、魔族まで俺達を迎え入れるように並んでいる光景が。拠点にいる全兵力が集中させているようだ。
「ガルク、昨日観測できた人数と比較して、ここにいる人数はどのくらいいる?」
『おおよそ全体の三分の二ほどだ』
「先ほど『エイナ』が率いていた部隊に加えて、退路を確保していると思しき隊……その合計でどのくらいだ?」
『詳細な人数は断定できないが、観測できた人数とほぼ同じだと考えていい』
「……カティ」
俺は近くにいたカティへ指示を出す。
「前衛の面々で前に出る。カティは周囲を探ってくれ」
その言葉で――カティは俺が何を言いたいのか察したようで「わかった」と応じた。
「それでカティ、もし敵が何か仕掛けていたら――」
「それを打破するには多少なりとも力がいる……ロミルダがいればなんとかなると思うけど」
「リーゼ、どうだ?」
「護衛は大丈夫か、という話よね? 乱戦になるのなら、ロミルダは後方に控えて置いた方がよさそうね」
「わかった……なら」
俺はカティにロミルダに加えいくらか護衛をつけた後、敵の拠点へ向け歩き出す。相手は動かない。このまま仕掛けてもいいが、馬鹿正直に敵陣のど真ん中へ行くわけでもない。
俺達は一度敵の間合いの外で立ち止まり、真正面にいる『ソフィア』へ向け、声を掛ける。
「総大将、ってことでいいんだな?」
「――はい、その認識で良いかと」
応じた『ソフィア』は、俺の隣で戦い続けたこの世界のソフィアとそっくりだった。けれど、
「……思想は違えど『エイナ』に対してはこの世界の彼女と似たものを感じていたが、あんたは違うな」
「ほう、それはどうしてですか?」
「星神の力によって体をもらったとかじゃなくて……純粋に、気配が違う」
俺と共にいたソフィアが純粋可憐で儚いイメージを想起させる人物であるとしたら、目の前の『ソフィア』は……似た雰囲気ではあるのだが、その背後……いや、彼女の背中だろうか。そこに、何か得体の知れないものが潜んでいるような気配がある。
「そっちの世界のあんたは、どうやら俺達が想像もできないような経験を得たみたいだな」
「……あなた方にとって、私が得たものは奇っ怪この上ないでしょう」
と、他ならぬ『ソフィア』がこちらの発言を肯定する。
「けれど、私達の世界にとっては……それこそ、星神という大いなる存在による、天恵と呼べるもの」
「なるほど、どういう理屈かわからないが……賢者の血筋であるため、星神から寵愛を受けているというわけか」
「ええ、その通りです……残念ながら『エイナ』は敗れてしまいましたが、彼女は見事に役目を果たしてくれました」
ズアッ――と、彼女がまとう気配が濃くなり、異質感も増す。
「この力であれば、あなた方に勝つことができるでしょう」
発された気配は……近しいもので表現するとしたら精霊。ただ、ここまでの戦いで精霊と遭遇したことはない。ガルクによれば、呼び寄せることができないはずだが――
『なるほど、な』
合点がいったようにガルクの納得したような声が頭の中で響いた。
『ルオン殿、目の前の王女が放っている気配は精霊由来のものだ……ただし、レーフィンといった通常の精霊ではない。おそらくこれは……』
「……どういう力なのか、当ててみせようか」
俺はガルクからの言葉を聞いて、口を開く。
「気配からすると、精霊に近しい何かであるのは間違いなさそうだ」
「ええ、正解ですね」
「けれど、単純に精霊と契約したわけじゃない……いや、この場合は契約ではなく融合といったところか?」
相手が笑みを浮かべる。凜とした美しいものではなく、どこか含みのあるものだった。
「しかもその力はどうやら、普通の精霊とは違う……」
「おおよそ正解ですね。言わば、人工の精霊……精霊に星神の魔力を付与し、人間と融合できるようにした」
「人工と表現しているが……基になった精霊は、人間の手で生み出したわけじゃないだろ?」
「それも当たりです。精霊を捕らえ、星神の技術で融合したのが私です。とはいえ、誰も彼もが使えるわけではない。相当な素養がなければ……それこそ人間であれば賢者の血筋であり、なおかつその中でも特に秀でた存在でなければ……」
「そういうことか……」
もしかすると彼女達の世界では精霊という概念が相当減っているのかもしれない……とにかく、人間かつ人工精霊の力があってそれが星神の力によって再現できたからこそ、竜や魔族と共にこの世界へ招かれリーダーとなったわけだ。
「私の目から通してもわかります。あなたの力は相当強い」
さらに『ソフィア』は俺へと語る。
「けれど、どちらが上か教えて差し上げましょう」
……俺の方は彼らと邂逅して以降は全力を出していない。星神から直接情報を得れば実力については把握できるはずだが、やはり核心的な情報を保有していないということか。
やはり星神そのものはあくまで力を与えるだけ……俺は『ソフィア』の後方にいる魔族に目を向ける。地味な印象を与える黒髪の魔族。ただ顔にはいくらか皺が存在し、人間の見た目で言えば四十代くらいの印象だ。
「……あんたのことはエーメルから聞いている」
俺はその魔族へと口を開く。
「わざわざこうやって俺達と同等の存在を呼び寄せてまで戦おうとしたのは……本当に魔王として君臨するためか?」
「――そういう理由もある」
淡々とした口調で魔族は答えた。
「だが、それが全てではない。魔王となるのは、覇業のための第一段階に過ぎない」
「覇業、ねえ。平行世界から人員を呼び寄せたというのは確かに目を見張る技術ではあるが、自分の力ではなくあくまで他者の力を利用する……本当に、覇業とやらを実行できるだけの実力があるのか?」
挑発的な問い掛けに魔族は不快だったか顔を歪ませたが……怒ればこちらの思うつぼだとでも思ったのか、すぐに表情を戻した。




