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賢者の剣  作者: 陽山純樹
世界を救う者

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リーダー格

「ガルク」


 俺はある人物を捉えると、名を呼ぶ。それに対し、


『……どうやら、リーダー格のようだな。明らかに他の者を従えている』


 ガルクが応じる。それで俺は深々と頷いた。


『加えて、あの者達を呼び寄せた存在もいるな』

「黒いローブを着た男のことか?」

『ああ。気配はどうやら魔族だが……他とは明らかに魔力の質が違う。呼び寄せられ仮初めの肉体が与えられた者達とは異なる……本物の魔族だ』

「ということは、ヤツが星神の力を使って……というわけか」

『これで目標は達成したな……どうする?』

「もう少し観察してから一度拠点へ戻ろう。敵の数なども把握できたし、改めて作戦を練り直すか」

『いいだろう』


 俺は仲間達へ呼び掛けると、賛同し頷いた。そこからもう少しの間拠点を観察し、ガルクによって記録を行い……俺達は、戻ることにした。






 さて、敵の見た目についてはおおよそわかったのだが……ガルクが記録した映像と照らし合わせて、色々と情報を得ることができた。

 俺達のところには、天界の長や、魔王候補になっていた者もいる……よって、天使や魔族の素性についてはおおよそ解明することができた。


「デヴァルスがわかっていたのは納得できるけど、エーメルが色々知っていたのは意外だな」

「そう言われても仕方がない」


 と、他ならぬエーメル自身が語ったわけだが、


「とはいえ、強い者をチェックしておくのは当然じゃないか?」


 ああ、うん。そういう理由なら知っているのも頷ける。

 そして、肝心のリーダーと呼び寄せた存在について。当該の魔族について、エーメルは知っていた。


「魔王の反目していた魔族だな」

「反目……?」

「まあ言ってみれば自分こそが魔王にふさわしい、と主張していた輩だ。おそらく魔王が星神の研究をしていたため、自分もまた調べて今回、星神の下で仕掛けたんだろう」

「……その魔族の目的は何だろうな?」

「内面が変わっていなければ、魔王を倒した存在を自分の手で始末することで、現魔王の座を奪う足がかりにする、とかかな」

「……俺達としては絶対に避けたいな。ここで決着を付けないと」

「実力そのものは魔王となるだけのものはあるが、魔王候補となっていた者達と比べれば……というレベルだから対処は難しくない……問題はリーダーだな」


 ――そこで俺達は、一斉にある方向へ目をやった。そこにいたのは、


「私、ですか……」


 ソフィアが言う――そう、他ならぬ彼女が、天使や魔族を率いるリーダーだった。ついでに言えば、エイナも側に控えている。二人の関係性は星神が支配する世界でも変わっていないらしい。


「エーメル、ソフィアをリーダーにしたのは理由があるのか?」

「少なくともヤツはこれまで私達が戦ってきた情報については星神からもらっているはずだ。それを踏まえると単なる当てつけという可能性もゼロではない……魔王を倒した存在だとして採用したという線もあるが……ただそれだけで魔族や天使を束ねる理由にはならないな」

「これまで賢者の血筋が戦線に加わっていたことからソフィアがいるのは当然だとして、天使や魔族を納得させるだけの力を有している……と解釈していいんだよな」

『おそらくは』


 ガルクが応じる。その言葉で俺は、


「なら……俺が戦うことにする」

『やりにくくないか? 敵はそういう意図もあってソフィア王女をリーダーにしたのかもしれんぞ』

「仮にそうだとしても、やることは変わらない」

「そうですね」


 驚いていたソフィアも表情を戻し、俺へ視線を向けた。


「私はここで拠点の防衛を」

「わかった……ガルク、敵の戦力についてはおおよそ理解したけど、どう動く? さらに人を増やすか?」

『そうだな。おおよそ敵の詳細もわかったため、こちらにはいて敵にはいない人物を選抜して、攻撃を仕掛けるとしよう。敵の主力は天使や竜、それに魔族が主だ。故に、人間から選べば問題はない』

「デヴァルスとかがいるかどうかは気になるけど……目視できなかったんだよな。ガルク、気配はなかったか?」

『観測はしていないな。あの拠点以外にも敵がいると考えた上で戦略を考えていくとしようか』


 ガルクの言葉で俺達は頷き……その後、会議を続け一定の結論が出た段階で終了し、俺は外へ出た。


「今日のところは休んで、明日攻撃だな」

『そうだな……我やフェウスが警戒をしておくからゆっくり休むといい』

「神霊の守護か。これ以上にない助けだ……と、そうだ。今回敵に精霊の姿はないよな?」

『そもそも精霊は肉体を持たないため、呼べなかったという可能性がありそうだ』

「呼べない?」

『うむ、敵の数が有限である理由を考えていたのだが、もしかすると仮初めの肉体には限度があるのかもしれん。であれば、人数が限定されているのも納得はできる』

「まあそれなら……で、肉体を作成しても意味がない精霊達は呼べなかった?」

『おそらく、器を用意してそこから数多ある平行世界から力になる存在を呼び、その器へと意識を埋め込む……そういう方式だと推測できる。仮にそうであれば、精霊は招き寄せても器に入ってくれないだろう』

「なるほど、呼び寄せることはできるけどこの世界に留めることができないって話か。であれば、精霊達も作戦に参加するか?」

『そこについてだが、直接的ではなく支援という形になるな。ルオン殿達は修行によって星神の力に対抗できるが……』

「精霊達はできないからか。この戦いはどこまでも組織に所属していたメンバーが主軸になるというわけだ。ま、それならそれで動くまでだ」

『負担が大きくなるな』

「そのために強くなったんだ。この場にいる全員、誰も文句は言わないさ」


 ――そうしたやりとりをしつつ、時刻は夜を迎える。周囲を警戒しつつ食事を済ませるが、決して雰囲気は悪くない。

 さすがに決戦前なので酒を飲むような輩はいないし、野営で問題になることはないだろう……ソフィアはしっかりとこの場にいる者達をまとめているし、俺の方は明日の戦いに意識を集中させればよさそうだ。


 とりあえず、明日共に戦う面々に声を掛けつつ……その日は穏やかに終わりを迎えたのだった。

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