破滅回避への第一歩
「ちょっと待ってくれないか」
「ん?」
振り向くと、リチャルは険しい顔をしつつ俺のことを見ていた。
「……なんとなく、あんたのことについてなんだが」
「ああ」
「今後……ずっと先の話だが、強大な敵と戦う予感がする」
――ずいぶんと抽象的な発言だな。
「それは、魔王のことか?」
「魔王……たぶん、そうだと思う」
曖昧な返事。眉をひそめると、彼はさらに述べた。
「いや、常識的に考えて魔王以上の存在なんていないと思うんだが……」
予言の力が働き、彼なりに思うことがあったということか。
「……記憶に留めておくよ」
俺はそう返答し立ち去る。砦を出ようとした時、ガルクから声が。
『面白い御仁だったな』
「ああ……そして南部侵攻が厄介な戦いだということもわかった」
『対策はあるのか?』
「色々とやるしかないな……レーフィン、その辺りはどうだ?」
質問すると、レーフィンは俺の真横に出現し、話し始める。
「リチャルさんの話を聞く限り、南部の戦いは相当大変のようですね……魔族に対しこれまで以上に対策を立てないといけないようです」
「レーフィン達も協力してくれるか?」
「無論です」
『やることが三つになったな』
ガルクが言う。
『武器作成と魔法封じ。そして南部侵攻対策か……どれもすぐに解決できる問題ではないな』
「この中で後回しにしてもいいのは武器作成かな」
俺はガルクの言葉に応じる。
「魔王の魔法と南部侵攻については時間制限がある。五大魔族は残る三体で、このうち二体を撃破すれば南部侵攻が発生し、それを乗り越えれば魔王の強大な魔法が待っている……この二つは連動していると考えてもいいから、五大魔族を四体倒すまでにしっかり対策をしておかないといけないな」
最悪、武器作成は二つのイベントが終わってからでもいい……そう考えていた時、レーフィンから質問が。
「ルオン様、南部から魔族が押し寄せてきた時の話ですが、物語の中では当然人類が戦いの主軸でしたよね?」
「そうだな」
「となると、盟主となるような人物がいてもおかしくありませんが」
「ああ、その人物は決まっている」
俺はそう発言すると、今後発生するイベントを頭に浮かべつつ、続けた。
「実は、俺が干渉したい出来事に、その盟主が関わっているものがある。今はまだその出来事は起こっていないが、使い魔を飛ばして観察はしているから、何かあればすぐにわかるようになっている」
「そうですか……ソフィア様の正体を明かして兵を集めるという手段もありますが、まだ生きていることを隠す必要があるでしょう……五大魔族との戦いやソフィア様の素性を公にできるタイミングを考えますと、兵を集められる時間がない状況になる可能性もあると思いまして。そうした盟主と協力関係を結び、対応するというのも一つの手かもしれません」
「確かにそうだな。どの道、盟主とは関わるつもりだった。イベントが発動したタイミングに合わせて色々話をしたいところだな」
――そうした会話をしつつ、俺は故郷の町へ戻ることとなった。
用事は大体済ませたため、そろそろガーナイゼへ戻るか……と考えていたのだが、最後に一つやっておこうと思ったことが。
町へ戻り、俺は再度本来のリチャルを訪ね宿へ。しかし不在で町の中を歩いていると、レテと二人で歩いているところを発見した。
「どうも」
「ああ、ルオンさん。どうしたんだ?」
「二人にちょっと質問したいことがあってさ」
そう述べるとリチャルは首を傾げる。
「質問?」
「今後、さらに魔族が侵攻してくる可能性がある……そうした場合、どうするかと思って」
砦にいたリチャルによれば、彼らは魔族と戦うよりも避けるように動いていた。それが五周目のリチャルでも変わらないのかどうか。
「……俺達は、この町の依頼を受けて魔物を倒すことはある。けどまあ、身の程はわきまえているつもりだよ」
その言葉はつまり、同じように避けるよう動くということだろう。
「そうか……」
使い魔を用いて観察している以上、砦にいるリチャルは彼らについて対策はしているのだろう。けどまあ、こうやって関わった以上、何かやっておこうかと思った。
「……この町の依頼を受けてくれた礼に、何か渡そうと思ってさ」
「いや、そんなことをしなくても――」
「それに、こうして縁ができたからな……俺も仕事をする時だってあるから、今後また出会うかもしれない。よろしくという意味を込めて、受け取ってくれ」
――そう言って俺が渡したのは、ちょっとばかり魔力を強化する効果のあるアクセサリと、ソフィアにも渡している危なくなった時に緊急回避できる腕輪。リチャル達は俺の行動に戸惑った様子ではあったが、やがて「どうも」と礼を言い受け取ることになった。
「悪いな、なんだか」
「気にしなくていいさ……二人とも、元気で」
「ルオンさんも」
「ああ」
頷き、俺は歩き出す。そうして町を出て、俺はガーナイゼへと移動を開始しようとする。
その寸前、俺はふと気配を感じ空を見上げた。リチャルの使い魔らしき鳥が、俺にわかるように旋回していた。
「……礼、かな」
俺は軽く手を振ると、使い魔は旋回をやめて町へ戻る。それを見送った後……改めて移動魔法の詠唱を開始した。
途中休憩などを挟み、どうにかガーナイゼへと戻ってくる。到着時点では故郷を離れてから翌日の朝になっていた。
通りにある市場などが開き人々が集まるくらいの時間……訓練場を訪れると、話し込んでいるソフィアとシルヴィ。そしてそれを見守るイーレイがいた。
「イーレイさん」
「ん? ああ、戻って来たのか」
「どうですか?」
「ひとまず完成だろう。私が保証する」
なら間違いないだろう。ソフィア達に近寄ると、先んじてソフィアが声を上げた。
「ルオン様、お帰りなさいませ」
「ああ……終わったみたいだな。ちなみにシルヴィは?」
「こちらも上々だ」
「なら心強い……出発はいつにする?」
「今日休んで、明日にでも」
シルヴィの言葉に俺は「わかった」と答えた。ソフィアも賛同し――訓練は終わりを告げた。
「もし何かあったら、ここに来れば相談に乗ろう」
イーレイが言う。ソフィアは彼女に丁寧に礼を示し、
「本当にありがとうございました」
「構わないさ……武運を祈っている」
そうして俺達は訓練場を出る。そこでシルヴィが声を発した。
「さて、ここからの予定は……ウンディーネの住処へ行く、ということでいいのか?」
「ああ、そうだな。ソフィア、構わないな?」
「はい。同時に大陸の情勢に関する情報を収集しましょう」
「それについては俺に任せておけ」
胸を張ると、ソフィアは「お願いします」と言った。それから今日は明日に備え休むことにした。
宿へ向かう間に、俺は思考を開始する。リチャルとの出会いにより、さらなる難題が増えた。とはいえそうした情報を得ることができたのは幸運と言っていいだろう。
五大魔族の二体目を撃破した以上、話はどんどん進んでいる。三体目がどの時点で戦うことになるかはまだわからないが、それを撃破した時点でゲームのシナリオとしては後半に差し掛かったくらいと言えるだろう。
理想的には四体目を撃破するイベントが始まる前に、準備を整えておきたいところ……そのための第一歩として、まずは水王アズアを従わせる。
南部侵攻に対する人間側の盟主はまだ動いていない。今後はそちらも注視するべきだろうと考えつつ……俺は、ソフィア達と共にウンディーネの住処へと向かうこととなった。




