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賢者の剣  作者: 陽山純樹
世界を救う者

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認識阻害

 俺達はその後、敵の姿を確認するべく移動を始める。とはいえ、敵に気付かれれば面倒なことになるし、何より敵が逃げてしまうと追うのは難しい。気取られないよう細心の注意を払いつつ、進んでいくことに。


「ガルク、使い魔を飛ばして観察できると思うか?」


 なんとなく訪ねてみるが、ガルクは否定的な見解を述べた。


『認識阻害系の魔法が使われているため、使い魔の目を通しても観察するのは無理だろう」

「それもそうか……」

『加え、魔力の塊である使い魔は察知される可能性が高いだろうな。例え上空にいたとしても』

「……場合によっては俺達の居所まで探知されそうだな。ならやめておこう……それでガルク、周囲はまだ大丈夫そうか?」

『敵はまだ気付いていないな』


 ガルクが言う。索敵については細心の注意を払い、少しずつ進んでいく。


『万が一気付かれたならばその場で退却する』

「ああ、それでいい。今まで俺達は圧倒的したけど、主力部隊が相手だとどうなるかわからないからな」


 敵の人数や姿などを確認し、改めて作戦を組み立てる……そういう方針にして、俺達は進んでいく。ただ、近づいても相手の姿を具体的に確認することができない。


「思った以上に近づかないと難しいか?」

『もう少し進んでくれ。ある程度近づけば、相手の妨害魔法を貫通してその姿を確認できるはずだ』

「……どういう手法で?」

『星神対策として、敵の数や気配などを捉える魔法を考案した。敵が姿を隠す可能性を考えた上でのものだ』


 なるほど、そのくらいはあって当然か。


『それを応用すれば、星神にまつわる妨害魔法は回避できる……ただ、有効距離がそれほど長くない』

「なるほど、使うには今よりも近づかなければいけないと」

『そういうことだ』


 説明を受けて、俺達は森の中を歩む。魔王城周辺は元々人の手がほとんど入っていなかったために、森は結構深く敵側としても注意していなければ俺達の姿を捉えることは難しい雰囲気。ただ、この深さは逃げるのにも苦労するため、敵から奇襲だけは受けないよう立ち回る必要性がある。


「索敵に重点を置いて先へと進もう」

『うむ』


 俺の指示にガルクは応じ、俺達は敵がいないかを逐一確認しつつ前へ。可能な限り音を立てないよう、そして周囲に気配がないかを五感で確かめつつ……やがて、


『よし、この距離ならば可能なはずだ』


 ガルクが発言したため、俺達は一度立ち止まった。


「ガルク、認識阻害を貫通できるなら遠視系の魔法も有効だよな?」

『敵の姿も確かめたいというわけか。可能ではあるが、多少なりともこちらの動向がバレる可能性もあるぞ?』

「……どう思う?」


 俺は後方にいる仲間達へ問い掛けると、


「見ておいた方がいいでしょうね」


 カティはそう述べた。


「現状、周囲に敵の気配はないから見つかっても逃げおおせることはできるでしょう。なら、敵の姿を確かめて詳細をつかんでおいた方が後々戦いが有利になるのではないかしら?」

「俺も同意です」


 フィリが賛同。他の仲間達も準じるようで、俺はガルクへ提案する。


「というわけだ。頼む」

『わかった。ただ大規模な魔法を行使すれば相手に露見される危険性が増すため、ルオン殿だけ観察するという形でよいか?』

「ああ、それでいい」


 ――ガルクは速やかに準備を始める。その間も俺や仲間は索敵を怠らないが、結局周囲に敵の気配は皆無だ。


『よし、いけるぞ。妨害魔法も突破できる……ルオン殿、発動する』

「了解」


 俺の言葉と共に、視界が変わる。森を抜けた先……そこに、まるで俺達が形成したような大がかりな拠点が存在していた。

 天幕もきっちりと張られており、どうやら敵側も長期戦の構えをとっている様子。ただ、相手は魔力の塊である以上、食事などの必要性はないと思うのだが……いや、これは軍隊というか、規律を維持するためのものだろうか?


 敵の状況をかいつまんで説明すると、ガルクは見解を述べた。


『魔族や天使といった多種族をまとめ上げる必要性があるため、そうして拠点を作成しているのかもしれんな』

「意味はないのに、か?」

「魔力の体であるため、休息の必要性もない……と我らは考えているが、実際は違うのかもしれん」

「なるほど、仮初めの命と言うことで、食事も睡眠もできるってことかな」


 推測を述べる間に、俺は拠点内を見回す。こちらの魔法に気付いた様子はないが……、


「遠視系の魔法だと、気配がつかみにくいな」

『その辺りも調整しよう……どうだ?』


 魔力の質を変えたのか、気配が明瞭となる。


「ああ、これなら大丈夫……と、天使や魔族が並んで歩く光景は傍から見たら異様だな……」

『他に何か気になるところはあるか?』

「……中央に一際大きい天幕がある。たぶんだけどそこにリーダー格がいるのかな?」

『その存在は相当な力を有しているはずだ』

「……何でそう思う?」

『星神が支配し、その影響により言うことを聞いている……というわけだが、指揮官についてはどうしたって必要だろう。その場合、天使、魔族、竜……ありとあらゆる種族が納得できる存在でなければならない』

「そうじゃないと統制が執れないからな」

『これまでの戦いぶりは、誰かが指揮を執り作戦を組み立てているのは間違いない。よって、リーダー格の存在は相応の力を所持し、天使達に指示できる存在だと考えられる』

「逆に言えばそいつを倒せば……だな」

『残る問題は、この敵軍を呼び寄せた存在が拠点にいるかどうか……星神の手によるものでないとしたら、十中八九拠点にいると思うのだが』

「中央の天幕にいるかもしれないが……あまりこの場に長居はできないな」


 どうにか観察できないか……と思っていると、中央の天幕から人影が現れた。遠視であるため会話は聞き取れないが……どうやら作戦会議でもしていたか、魔族や天使……強そうな装備を持つ者達が続々と出てくる。


「見覚えがないな……」

『我が魔法により記録をする。それで確認するとしよう』


 うん、もし仲間で知っている人がいたなら、それだけで能力なども推察ができるかもしれないからな。

 そこからさらに俺は観察を続けていると……見覚えのある人物が、俺の目に飛び込んできた。


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