自分自身
魔王城周辺で俺達は決戦準備を始める。俺やソフィアが合流したことで準備が大きく進み……敵の警戒をしつつも、いつでも踏み込める態勢にはなった。
「問題は、星神が寄越した敵の動向だけど……」
「ま、無視するわけにはいかないわね」
と、俺の呟きに対して反応したのは近くにいたアンヴェレートだ。
「決戦はこれまでの戦いにはせ参じた面々が……残る者達は拠点の守護と援護などを担当するわけだけど、主力が離れたところに攻撃……とかになったら、さすがにまずいし」
「だよな。とすると敵を全滅させない限りは踏み込めないな。ガルク、索敵についてはどうだ?」
『魔王城周辺についてはおおよそ終わった。敵の位置などもわかるため、この辺りで反撃といこう』
――というわけで、俺達は拠点の中央付近にある天幕の中で作戦会議を行う。メンバーは俺やガルク、アンヴェレートに加えてソフィアを始めとした人間の面々。
デヴァルスやアナスタシアもこの場にいるのだが、彼らは拠点の警戒を優先するらしい。人間達だけで敵を倒す……星神を倒す役割を人間が担ったことで、迎撃についてデヴァルスはこちらに任せる気らしい。
『観測した敵は、増えている雰囲気はない。星神は平行世界から無尽蔵に兵隊を呼べる……そんな可能性もあったが、どうやら今回のことについてはそれがない』
「肉体ごと呼んでいるわけではないけど、数をたくさん呼べるわけではなさそうだな」
『増えるにせよ、現在は数の増減がないため、星神が次の一手を打つ前に叩いた方がいいだろう』
「敵の詳細についてはわかるか?」
俺の質問にガルクは首を左右に振った。
『意識は平行世界の存在だが、体は星神の魔力を由来としている。魔力の多寡で人間か天使か竜か……くらいの違いはわかるが、具体的にどういった人物なのかは肉眼で確認しなければわからないな』
「そうか……オルディアが現れたし、話によるとフィリやアルトなんかもいたらしいから、もっとこの場にいる誰かがいてもおかしくはないな」
「――賢者の血筋、というのが関係しているのかもしれません」
と、ソフィアは言及する。ふむ、確かに無作為に誰かを選んで呼ぶよりも、明確に力を持っていると断言できる存在を選んだ方がいいのは事実。
「賢者の血を継ぐ私達の能力は、普通の人と比べれば高いので……」
「そういうことならフィリやアルトが出てきたのも納得がいく。ただそうなるとソフィアやエイナだっているかもしれないな」
「覚悟はしておきます」
「姿が見えていないのは、切り札として温存している可能性もありそうだ」
と、ここで見解を述べたのはオルディアだった。
「最初の攻撃において、俺自身と打ち合ってみてわかったのだが、確かに言うだけあって相当な力を有していた。加えて、他にも違和感があった」
「違和感?」
「剣を交えていた時、妙な感覚に包まれた。もしかすると自分と対峙していた際に敵が何かをしていたのかもしれん」
……仮にそうだとしたら、本人同士で戦わせない方がよさそうか?
『自分自身と戦ったのはオルディア殿だけだ。その情報は参考にさせてもらおう』
と、ガルクが発言する。
『現時点で体調に問題はないか?』
「魔法で検査もしてもらったが、問題はない」
『であるならば、敵は何かを仕込もうとして失敗したか、あるいは途中だったか……今回の敵についてだが、現時点で魔王城周辺で戦っていた者も含め、全てが短期決戦だった。故に、敵が策謀を巡らせる前に仕留めることができており、問題はないかもしれんが』
「警戒は必要ってことだな」
俺はそう述べると、ソフィアへ視線を移す。
「一番の懸念はソフィアかな……今回の戦いにおいて重要な立ち位置だし、その辺りの情報くらいは敵だって星神から聞かされているだろ」
「……私はここに残っていた方が良いですか?」
「なら、二手に分かれるか。拠点を防衛する人間と、攻撃する人間。俺は当然攻撃する側で、ソフィアには拠点で防衛する側に回ってもらおう。組織においてもソフィアは重要な立場だったから、誰もが指示には従ってくれるだろうし」
「わかりました」
「攻撃する人間について、人選はどうする?」
『天使や竜がいたこともある。こちらも相応の戦力を整えた方がよかろう』
そうガルクは述べた後、視線を俺へ向ける。
『その中で、敵側にいない可能性のある人間を出すべきだな』
「……いない可能性?」
『星神を信奉している存在……なおかつ賢者の血筋のように、力に秀でた者達がこの世界に招かれている。それは間違いなく素養が関係しているわけだが、そうしたものとは無関係に強くなった者を選べば、敵に同一人物がいる可能性は低くなる』
「その代表格が俺だな」
自分のことを指さしながら指摘すると、ガルクは小さく頷いた。
『そうだ。転生者であり、なおかつその知識により力を得た存在……賢者の導きによるものだが、星神自身が別世界のルオン殿が成した出来事を観測できていないと考えれば……』
「ルオン=マディンが元々持っていた素養は、冒険者としては悪くないけど、魔王と戦うにしても力不足だと思う」
と、俺は語る。ゲーム上ではレベルを上げてカンストまで強くなることはできたが――
「そもそも、魔王との戦いで本来は死んでいた人間だ。そうした存在が星神の力を受けてどうとか、そういう状況になっているとは考えにくいな」
『うむ、転生者という事実を含め、ルオン殿が敵の中に含まれている可能性は低い』
「仮にいたとしても、さすがに転生者ではないだろうし」
『そうだ……他には自分自身を既に倒しているオルディア殿もそうだ』
名を呼ばれたオルディアは小さく頷く。
『そうした人間を集めて、迎撃に向かう……既に倒した人間の中から選抜して、行動を移すことにするべきだな』
「それじゃあ、早速……戦うとするか。ソフィア、拠点は頼んだ」
「お任せください」
そうして俺達は、天幕を出て行動を開始した。




