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賢者の剣  作者: 陽山純樹
世界を救う者

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竜と天使

 ――正直、目の前にいる魔族シェルダットの言動は俺達が戦ったシェルダットとそれほど変わりがない。しかし根本的な思想……人間を支配しようとしていたこの世界とは異なる考え方を持っている。魔王に仕えているのは変わりがない。だがその上位存在として星神がいることで、魔王よりもそちらに忠誠を誓っているように見える。


「……この世界のお前がいたら、たぶんお前のことを軽蔑していたかもな。考え方が合わないって」


 正直な感想を述べるとシェルダットは肩をすくめる。


「そう? ちなみにこの世界の僕は――」

「魔王と人間の戦いで滅んだよ」

「ああそうなのか。僕としてはさして興味がないね。この世界の僕は愚かだったという話だろう……いや、星神に刃向かおうとしたこの世界の魔王が、愚かだったということなのか?」

「その辺りの知識は、持っているようですね」


 ソフィアが言及する。それに対しシェルダットは、


「魔力により体を作られた時に、だね。さて、君達の世界は少し特殊な事情を抱えているようだけど、果たして星神を討つことが正解なのかどうか――」

「答えは、即座に出せるようなものではない」


 と、俺はシェルダットを見据え告げる。


「だが、俺達は……この世界で今を生きる人達を救うために戦っているだけだ」

「シンプルでいいね。なるほど、理解したよ。ならば……僕らは星神の意思に従い、君達を阻もう。例えこの世界にいる星神が僕らの信奉するものとは少し違えど、こうして呼ばれた以上は応じる……それじゃあ、始めようか!」


 相対する敵の魔力が高まった。それを受けて俺達は即座に動く。俺はシェルダット、オルディアは自分自身、ソフィアは天使でリーゼが竜。四人がそれぞれの敵と向かい合い、一騎打ちの様相を見せる。

 先んじて左右にいた竜と天使が動き出す。その力の大きさは感じられる範囲でも相当だが……俺達にとって、星神と相対してきた俺達にとっては――


「ふっ!」


 先陣を切ったのはリーゼ。ハルバードの一撃が正確に竜へと放たれる。それに対し相手は、すかさず構えた。その武器は大剣。次の瞬間、両者が激突し、轟音を上げながらせめぎ合いとなる。


「人間にしてはよくやるが……」


 竜は告げながらリーゼを力で押し返す。膂力については上――そんな風に感じたのか、竜は笑みを浮かべた。


「どれだけ力を積もうとも、所詮人間と竜の間には隔絶とした差が存在する」

「それは星神という存在に対しても同じだ」


 シェルダットが続ける。ここでソフィアも天使と剣を激突させ、こちらもリーゼと同様に押し返される格好となる。

 一見すると苦戦しているようにも感じられるが、俺やオルディアは動かない。それよりも向こうの『オルディア』とシェルダットが動かないか警戒する必要性があった。


 ソフィア達の戦いは続き、双方が武器を交わして火花を散らせる。天使の武器は長剣で、その長さはソフィアが握る物とほとんど変わらない。


「援護しないのかい?」


 ふいにシェルダットが尋ねてくる。それにこちらは肩をすくめ、


「手助けしようとしたら、そちらが横やりを入れるつもりだろ?」

「それを注意して、というわけかい? けれど、女性二人は苦戦している。それを踏まえれば、僕らに妨害されるのをわかっていても手助けするべきじゃないかい?」

「……そちらは、勝利に絶対の自信があるみたいだな」


 なおも切り結ぶソフィア達へ視線を移しながら、俺はシェルダットへ告げる。


「それは星神から力を得ているから、ということか?」

「別にそれだけじゃないさ……君達は、それこそ星神という存在を討ち果たすために修行を重ねてきたのだろう。その努力については認めてあげてもいいけど、実際のところ……無限に広がる並行世界において、君らより強い存在がいる世界というのは文字通り無数にある」

「その一つが自分達だと言いたいのか?」

「だからこそ、ここへ呼ばれた。違うかい?」


 ……自分達の力を過信しているのは当然だが、星神に呼ばれたことで確信に変わったということだろうか。

 実際のところ、それだけの自信を持つだけの力はあるのだろうと俺は思う。星神だって自分に従う世界から無作為に兵隊を呼び込んだわけでもないだろう。俺達の力をある程度認識した上で、ここへ派遣したはずだ。


 ただ、ここで星神に対し疑問がある。俺は会話の間にシェルダットを始め、この場にいる面々の能力をある程度は見極めることができた。それを考えると、どういう意図で星神がこの面々を呼び出したのか。

 朝食の折、会話をしていた星神の意図のことが蘇ってくる。彼らを俺達のところへ寄越したのは、破壊する意思かそれともからかう目的の意思なのか。


 なおもソフィア達が刃を交錯させる。ここに来てシェルダットは少し訝しむような顔を見せる。


「ずいぶんと、やるじゃないか――」


 次の瞬間、リーゼの攻撃が竜の大剣を弾き、斬撃を繰り出した。それに竜は応じたが完全に受けきれず、わずかに刃がかすった。竜は大きく後退し、リーゼを驚きながら見据える。


「貴様……」

「別にあなたが弱いわけじゃないと思うわよ。少なくとも、ここまでの旅の中で戦ってきた経験を踏まえても、あなたの実力は高いと思う」


 リーゼがそう応じつつ、ハルバードを構え直した。


「けれど、私達はあなた達より遙かに巨大な存在とも戦った……それは私一人の戦いではなかったけれど、少なくともあなた達を前にしても揺るがないだけの力を得るきっかけにはなった」

「同感です」


 ソフィアが告げる。天使と切り結んでいた彼女だが、剣先がブレることなく終始落ち着いた戦いぶりだ。反面、天使の方は猛攻を繰り出したのに通用していない――と、少しばかり顔を険しくしている。


「そういうわけだ、魔族シェルダット」


 そして俺は、相手に告げる。


「そっちがどの程度俺達について情報を持っているのかは知らないが……実力については、完璧に把握しているわけではなさそうだな」

「――なら、思い知らせてあげるよ!」


 シェルダットが叫ぶと同時、再び竜と天使が動き出した。


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