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賢者の剣  作者: 陽山純樹
神霊の力

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魔王討伐の関門

 どういう内容を尋ねるか頭の中で吟味する……そうだな、まずは――


「次の質問だが……俺はあんたがいた塔に入ったことがある。魔物が残っていたんだが……」

「生成し、どこまで遠隔で操作できるか試していたんだよ。ある程度……国をまたぐくらいの距離では制御できなくなった。まあ塔を守護しろという命令を予め与えていたため、外にでるようなことはなかったはずだ」


 そういうことか……俺は「なるほど」と呟きつつ、さらに問い掛ける。


「……俺の名を訊くのは、初めてか?」

「ん? どういうことだ?」

「四度時間を逆行したわけだが……その間にルオンという名を聞いたことは?」


 リチャルは一考し……やがて、首を左右に振った。


「いや、ないな。こうやってあんたが行動しているのも初めて見た」


 ……うーん、俺は彼の時間軸からすれば五周目の世界に転生してきたということになるんだろうな。この辺りどういう仕組みなのか……ただまあ、これについては考えても仕方がないか。


「……こちらから、質問をしても?」


 今度はリチャルが話す。俺が即座に頷くと、疑問を投げかけてくる。


「地底には二度ほど訪れたはずだが、最初訪れた時の戦い……あれも俺は使い魔を通して見ていた。実力は相当なようだが……それに、ああした魔物がいると知っていた様子にも思えたが?」


 ――ここで、彼に事情をどこまで話すか考える。地底における戦いでは全力を出したわけではないのだが、力の一端を知る彼としては気になるところだろう。それにいくらか疑問も生じている様子。

 それを納得させるには……思考し始めたところで、ガルクの声が聞こえてきた。


『現段階では、全てを話すようなことはしなくていいだろう。そもそも、別世界から転生してきたと話して信じてもらえるかどうかもわからん』


 まあ確かに……そうだな、ひとまず死んで人生をやり直しているということにしようか。一応転生系の魔法が存在するという話もあるので、彼としてはすんなり受け入れてくれるはずだ。これから起きることを全て知っているなどと言うと、干渉して話がこじれる可能性もあるので、今のところは話さないでおくか。


 先ほど五大魔族から生じた光について質問をしたが、反応から考えて魔王を倒すのに賢者の力が必須というのは知らない様子。その辺りについてはどうするかと考えたが……もうシナリオルートは確定してしまったし、彼に話してもいたずらに不安を煽るだけか……ふむ、この辺りも必要となったら話すことにするか。


「……俺は、原因はわからないがリチャルさんのように時をさかのぼった経験のある人間なんだ。ただ、俺の場合は一度赤ん坊からやり直している」

「転生というやつか……ふむ、確かにそういう魔法も存在する。前回の人生でそういう魔法を使われたということか」

「ああ。その辺りの記憶はないんだが――」


 彼に話を合わせつつ説明……結果、完全に納得したかどうかはわからないが、彼は「わかった」と応じた。


「それで、今はどういう行動を?」

「俺が経験した中で、死んでいた人物を助けた……それが従者のソフィアだ。で、彼女には色々と素質があったから、鍛えているという感じだな」


 そう語った俺は、さらに湧き出た疑問をぶつけた。


「そういえば、キャルンという名は憶えているか?」

「ああ、もちろん」

「彼女に魔法を教えたのは、理由があるのか?」


 彼は僅かに沈黙。そして、


「……彼女が、今後魔族と戦うと判断したからだ」


 ソフィアが以前語ったのと同じようなことを、発言した。


「それは、根拠があるのか?」


 逆に問い掛けると、リチャルはすぐさま頷いた。


「……信じてもらえないかもしれないが」

「言ってくれ」

「まず……俺はおそらく、賢者の末裔だ。推測しかできないのだが、賢者に関する能力を一つ持っている」


 驚くべき発言。眉をひそめると、彼は話し出した。


「文献に、賢者には未来を予知する力があるという話がある。とはいえ末裔全てにそうした力が出るというわけではないらしいが」

「あんたにはそうした力があるってことか?」

「何度も時を戻るに従い、魔力を減らしながらもそうした力が発揮されるようになった……彼女はこれまでの経験で魔族との戦いに参戦したことのある人物で、さらにその能力により今後、五週目の世界でも戦いに参加するとわかったため、魔法を教えた」


 なるほど、これで事情は理解できた……しかし、ソフィアも同じ結論を出したとなると、彼女もまた予言の力を持っているということだろうか? ただ、その場合でもソフィアは「なんとなく」というレベルであるのは間違いなく、実際その力が活用されることはあまりないだろうな。


 そして――彼から聞いた情報の中で一番大事なものは、魔族の南部侵攻のようだ。そこをクリアすることが、魔王を討つための大きな関門。


 南部侵攻のイベントについては多少特殊で、この部分だけはシミュレーション的なものに変わる。こういった戦いは幾度か存在するが、南部侵攻が一番大規模で難易度も高い。


 ゲームのシステムとしては、南部に存在する平原に敵と味方の軍勢がそれぞれ配置され、チェスや将棋のように交互に動かし戦闘をこなしていく。敵とぶつかったら主人公達はその場で戦闘。それ以外は能力などによって結果が出る。


 ゲームではそれまでのシナリオ進行などによって共に戦ってくれる面々が決まった。多くのサブイベントをこなした場合はそれだけ味方が増えたのだが……ゲームでは極端な話、本陣である町に侵略されなければ負けはないため、最悪主人公達だけでも勝てるといったら勝てる。まあ連続で戦闘する場合能力が大幅にダウンしてしまうため、やり方を工夫しないと敗北するけど。


 しかし、現実ではそうもいかないのはリチャルの話から間違いない。ゲームのように交互に動くわけでもないし、攻めてくる魔物の数も相当なもののはず。だからこそ入念の対策が必要となる。


 もっとも南部侵攻について言えば、最悪俺一人全力で立ち回ればなんとかなるかもしれない。そのイベント以後は魔王との決戦を控えるだけなので、全力を出してもよさそうな感じではある。


 ただ……これまである程度シナリオに沿っているにしても、予定外のことが数々生じているのは間違いない。だから南部侵攻の際も……例えば南部にある平原だけではなく、様々な場所から同時進行で魔物が攻めてくるなんて可能性も否定できない。


 俺がどれだけ強くとも、同時に攻められてきた場合はさすがに対応も難しい。そういう可能性を想定して、可能な限り戦力を整えておくべきなのは、間違いないだろう。


「……リチャルさんの事情はわかった。それで、今後どうするつもりなんだ?」


 尋ねると、彼はしっかりとした意志を持って俺に応じた。


「南部の侵攻に対し兵力を確保する」

「魔物を利用して対抗するってことか?」

「そうだ。どのくらいの数なのかは俺も二周目の時参加したため把握している。俺にどこまでできるかわからないが……」

「人間側の騎士達に呼び掛けることはしないのか?」

「俺に発言力はないからな。言っても信じてくれないだろう」


 あー、それもそうか。俺は南部侵攻イベントが発生することが最初から頭に入っているけど、他の人はそうもいかないからな。

 ふむ、俺が現時点で思い浮かぶ戦力といえば、レーフィンを始めとした精霊達か。他にもソフィアの発言力ならば南部に人が集まる可能性は高い。


 今後、介入したいイベントでも兵力確保に有効なものがある。ソフィアを鍛えつつ、そうしたイベントを片づけていくのもいいかもしれない。


「そちらは、どうする気だ?」


 リチャルが問う。俺は彼を見返し、


「……こちらも、やれるだけのことをやるつもりだ」

「わかった……頼む」

「ちなみにだが、南部侵攻のタイミングは?」

「……五大魔族を四体滅した後だ。これは全て同じだった」


 それについてはシナリオ通りのようだ。


「わかった……あ、少し話は変わるんだが」

「どうした?」

「この世界には現在、リチャルさんが二人いるわけだが……もし戦いが終わったら、その辺りどうするんだ?」

「……一周目に戻るなんて真似はできないだろうから、静かにひっそりと暮らすことになるかもしれないな。どっちにしろ、今は考えなくてもいい話だ」


 五周目の世界にいるリチャル達が幸せになれば――そういう気持ちなのかもしれない。


「わかった……リチャルさん、死ぬなよ」

「ああ、そちらも」


 ――やがて俺達は協力を約束し別れることにしたのだが、立ち去ろうとした寸前、彼の呼び止める声が聞こえてきた。


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