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賢者の剣  作者: 陽山純樹
世界を救う者

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準備と出陣

 リーゼが眠るという騒動から翌日、本格的に俺達は星神との決戦準備を始めた。

 その中で俺はガルクに星神を打倒した自分自身のことを伝えた。仲間には簡略的な説明に留めたが、ガルクに対しては詳細を語り――


『大変興味深い……もしルオン殿がこの戦いにおいても星神を討つことができたなら、まさしく神を討つ存在となり伝説になるな』

「そこまで言わなくても……」


 ここでなんとなく思い返すと、俺以外にそうした選択を取る人間がいただろうか? という疑問が生まれてくる。


『ルオン殿が星神を討つ、という共通点は何かの因果を感じるな』

「偶然見た世界が俺に関わるものだったという話だろ? 選択は無限にあったんだ。俺以外の誰かが同じように――」

『その可能性もあるとは思うが……ふむ、この議論についてはあまり意味もないためやめておこう。それでルオン殿、どう思った?』

「……やり方はどうあれ、星神を討つという未来が存在するのはわかった。魔王と戦い、星神と戦い……というあの世界の俺がどういう結末を迎えるかは完全に見れてはいないけど、世界を壊すような悲劇を生むことはない……というのは、俺にとって朗報だったな」

『うむ、星神という存在を滅することができない、というわけではないからな』

「……ただ、疑問もある。俺が城へ辿り着く前日に星神と遭遇しただろ? あれはリーゼが眠っていることを言及したんだよな? もしそうじゃなくて、道具に関する観測までわかっていたとしたら――」

『星神といえど、そこまで考慮していると思えんな』


 と、ガルクは俺の懸念をあっさりと否定した。


『星神は全能ではない。それはこれまでの戦いでわかっている』

「だといいけど……ともあれ、俺達は全力を尽くすだけか。それでガルク、準備の進捗は?」

『数日後に、城を離れ魔王城へ向かうことになる。他の場所で星神が悪さをしている兆候もない。後は、戦うだけだ』

「いよいよだな……本当に、始まるのか」

『うむ、魔王との戦い以降……ルオン殿が懸念し、それが現実のものとなり、諸悪の根源を打ち砕くための旅も、いよいよ終わる』


 感無量――とは言わないにしても、思うところがあるのも事実。まあ、全ては戦いに勝つためにやってきたことだ。ここで負ければ全てが泡と消える。感動に浸るのは、全てが終わってからだ。


「なら俺は……やることあるか?」

『現時点では特にないな。体調に気をつけて休んでもらえればいい』

「ここで風邪でも引いたらそれこそお笑い種だからな」

『ちなみにだが、ルオン殿は風邪を引いたことはあるのか?』

「そりゃあるよ。ただまあ、それは小さい頃だけで強くなってからはなくなったけど」


 ステータス異常を防ぐアイテムとかを装備した影響か、伝染病とかも掛からなくなったからな。


『体調面については問題なさそうだな。ルオン殿、何か要望があれば今のうちに言ってくれ』

「特にないけど……要望って何だ?」

『星神との戦いについてあってもいいし、そうではなくてもいい……何か気になることがあるならば、今のうちに言っておいてもらいたいということだ』


 俺達が主役だから、精神的な意味でも準備をしておくってことか……ただそう言われても特に思い浮かぶことがないので、


「なら、決戦まで腕が鈍らないよう鍛錬しつつ、ゆっくりするよ」

『そうだな……さすがにもう外には出ないか?』

「決戦も近いし、用は全て済ませたからな」


 さすがに食っちゃ寝するつもりはないけど、旅を終えたばかりだし、体をしっかりと休めておくのがよさそうだ。

 結果的に、他の仲間が準備を進める間に俺は部屋で休むことに……時折仲間が訪ねてきて、いくつか相談を聞くくらいで、ゆっくりと過ごすことができた。


 その中で、俺はリーゼが道具で見せた選択肢について思いを馳せる。ユノーがいたことからも、あの選択は間違いなく俺の人生――それすらも異なる世界だったのだと。


「たぶん、賢者による転生……その手法というか、過程自体も違う可能性があったってことなんだろうな」


 俺は幼少の頃から転生し、自分自身を鍛え始めた。それに対し、あの選択肢は……直接見たわけではないが、例えば冒険者を始める時とかに転生したとか、そういうケースだったのかもしれない。

 あるいは、もっと他に相違点が――星神を打倒した未来があったためか、意識すればどこまでも気になってしまう。この世界でも、同じように戦えばいい――そう心の中で呟きつつ、俺はベッドに横になって一度目を閉じた。


 トラブルはあったけれど、それは希望を見いだすものであり、また同時に俺達のやり方が決して間違っていないだろう――そう予想できるものだった。

 それと共に、この城へ訪れる前に遭遇した星神……さすがに、自分が滅ぶという選択肢を考慮はしていないだろうか? ガルクの言う通り、全てを理解しているわけではない……とは思うが。


「……後は、全力を尽くすだけか」


 やれることはやった。そう心の中で断じつつ、俺は眠り始めた。






 そして――いよいよ全ての準備が終わり、とうとう出陣の日がやってきた。とはいえ、大々的なセレモニーなどはない。そもそも、多くの人は星神と戦っていることなど知っているわけじゃない。だから、城から出る際も淡々としたものだった。


「武運を祈っている」


 クローディウス王もシンプルな言葉で俺達を送り出した。傍らにはソフィアがいて、こちらが視線を向けると小さく頷いた。

 俺達は城を出て、魔王城へ進路を向ける。さすがに組織メンバーが一斉に城から出ると訝しがられるので、バラバラに行動して現地集合という形になっている。俺の近くにいるのは、ソフィアとオルディア、加えてリーゼとアンヴェレートと、ユノーが飛び回っている――アンヴェレートを除けば、奇しくも星神を討った世界で共に戦っていたメンバーだ。


「……どうしたの?」


 ふいに俺の表情に気付いたかユノーが問い掛けてくる。こちらは「何でもない」と応じつつも、


「しかし、残ったメンバーがこれとは奇妙だな」

「カティさんを始めとして研究に携わっていた人は一足早く向かいましたし」


 と、ソフィアが言及する。


「他の方々も何かと理由があって先んじて動きましたからね」

「最後に残ったのがこの面子ってことか……ま、慌てても仕方がない。体力に問題がないよう、ゆっくり進むとしようか」


 そう言いつつ、俺達は都を離れたのだった。

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