疑問の答え
「リーゼ姉さん!」
目を開けた瞬間、開口一番にソフィアが叫んだ。即座にリーゼが彼女へ謝罪し、俺は小さく息をつく。
「とりあえず、引き戻すことには成功したな」
椅子から立ち上がるとアンヴェレートへ視線を移す。彼女は小さく頷き返し、
「体調は問題ないかしら?」
「ああ、平気だよ……時間的にはどのくらいだ?」
「一時間くらいじゃないかしら」
俺とリーゼが世界を見て回っていた時間はもっと長かった。道具の影響か、それとも精神だけが世界を渡っていたためか、時間の進みがずいぶんと遅くなっていたらしい。
俺は目を開けたリーゼを見据える。彼女は寝たままの状態でこちらに小さく笑みを浮かべる。何か言いたそうな顔を示したが、結局口を開くことはなかった。
「……さすがに慣れないことをして疲れた」
俺は肩を回しつつ言及した後、
「ソフィア、俺は休むけど構わないか?」
「はい、もちろんです」
「決戦のスケジュールはどうする?」
「数日遅らせる程度で大丈夫じゃないかしら?」
アンヴェレートが言う。傍らにいたデヴァルスなんかも同意するのか幾度か頷いた。そこで俺は彼に、
「なら、スケジュールの再編成は任せていいか?」
「ああ、任せてくれ」
……返事を聞いた後、俺は部屋を後にする。そして城内にある自室へ戻ることとなった。
その日、リーゼが目覚めて以降は何事もなく一日が過ぎて、俺は部屋の中で休んだ。ベッドに入って眠った結果、夜になると目がさえてしまいなんとなく深夜の時間帯に組織の建物内を歩くことにした。
子ガルクについてはいない。気を遣っているのか、それとも何か察したかわからないが、話し掛けてくることもなかった。
そうして俺は深夜の時間帯、明かりの魔法を使いつつ誰もいない食堂へ足を向ける。コツコツと異様なまでに靴音が響く。普通なら怖いと思うところかもしれないが、俺は平気だった。その理由は――
「お、ここにいたわね」
ふいに声がした。見ればリーゼが食堂の入口に。
「どうした?」
「ルオンも同じじゃないかしら? 目覚めてから中途半端に体を休め、結果眠れなくなってしまったという」
「……そうだな」
「とはいえ、別の理由もありそうね」
リーゼが述べる。俺は嘘をつくことなく小さく頷くと、彼女は俺の近くまで寄ってくる。
「私達が見ていた選択肢……転生者としてのルオンがいるため、普通は見ることができなかったけれど……」
「部屋に戻って考えたけど、あれはたぶん、俺だけの話じゃないと思う。例えば、この世界には俺以外の転生者がいる……そうした人間が入り込んだ世界。その一つだと思う」
「そうね。ただ魔王との戦いについては、間違いなくルオンが一番影響を与えていた」
「そう、なのかもしれないな」
頷きつつ、俺は現実に意識が戻る寸前の光景を思い出す。
――あの選択肢では、俺は星神との戦いに勝っていた。賢者や魔王の助力を受け、俺は星神を討ち果たしていた。そして、今の俺と同じ見解……つまり、星神を倒しても魔力の法則上、いずれ類する存在が生まれるかもしれない――そうした可能性を考慮した。
「賢者は、星神が世界を蹂躙する未来しかないと考えていた」
リーゼは俺と向かい合いながら、腕を組む。
「けれど、実際は違っていた……」
「というより、あの選択肢を賢者は見れなかったんだと思う」
「ルオンのように、実際に転生した人間でなければ、観測することすらできないってことかしら?」
「そうだ。元々この道具を作成した人間の時代に、ああして星神を討つ選択肢はなかっただろう。けれど、賢者が多数の種を蒔き、転生者という存在が現れたことで、星神を打倒できる選択肢が現れた」
「……私達も、同じようにできるということね」
「そうだな。少なくとも、俺という存在がいることで従来の未来……その想定から外れることができるという証明にはなった。それが間違いなく、俺達にとって今求めるべき疑問の答えに違いない」
――どれだけあがいても、どれだけ強くなっても星神が世界を壊す未来は変えられないのではないか。そんな可能性もあったけれど、リーゼが持ち込んだ道具がその推測を否定した。
「勝算があるかはわからないけど、少なくとも確定していた未来を打破できるというのがわかっただけでも、良かった」
「役だったなら何よりだわ」
「……ちなみに、道具についてはどうするんだ?」
「さすがに使うことにリスクがあると判断して、今後はお蔵入りになるみたいね」
「まあ、問題が生じてしまったからな」
「……私達が見た選択肢について、喋ってはいないけどルオンは誰かに話した?」
「いや、何も言っていないよ」
「どうするの?」
「そこについては、別に話しても話さなくてもいいと思う。ただ、星神を打倒できる未来はあったとだけ伝えればいい」
――なんとなくだが、不必要に語るべきじゃないような気がした。それはリスクがあるとかではなくて、あの選択を選んだ俺自身……ルオンに対し、なんだか悪いような気がしたためだ。
なぜそう思ったのかについては、正直気分の問題としか言えないけれど……。
「だからリーゼ、このことについては他言無用で頼む」
「ルオンがそう言うのなら」
「……リーゼにとっては、理想に近い選択肢だったかな」
最後まで、彼女は俺やソフィアと共に戦っていた。ついでに言うのであれば、星神を打倒した後にあの世界のルオンは――そしてそれにリーゼは――
「どうかしらね。重要なのは今の私がどうしたいか、でしょう?」
「……俺は星神との戦いの後、旅に出る可能性は低いぞ」
「だとしても、今後協力できる手法はある」
――まるで、あの選択肢で俺やソフィアと共に戦っていた時間を今から埋めるような決意を秘めていた。
それと同時に、俺は彼女の考えを肯定する。あれは多数ある選択肢で、俺自身が選んだ一つの答え。俺自身、思うところはあったけれど……あの選択肢のように、俺達は星神との戦いに勝って未来を紡いでいけばいい。
「……厳しい戦いになるけど、最後までついてきてくれるか?」
そして俺はリーゼへ問い掛ける。
「本当なら王女様を危険な場所へ連れて行くなんて、厳禁なんだろうけど」
「当然戦うわよ」
リーゼが言う。その明瞭な答えに俺は、苦笑しつつ小さく頷いたのだった。




