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賢者の剣  作者: 陽山純樹
世界を救う者

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未来の観測

「リーゼ!」


 俺が呼び掛けると彼女は気付いたらしい。こちらを見て驚いた反応を見せた。


「ルオン、どうして……」

「眠って目を覚まさないから、道具に干渉して入り込んだんだ」


 その言葉で彼女は全てを理解したようで、


「心配を掛けてしまったようね……ごめんなさい」

「大丈夫なのか?」

「ええ。道具は私の手から離れているようだけど、魔法の効力はそのままだからこうして様々な世界……あり得たかもしれない世界を見ることができている」

「戻れるのか?」


 問い掛けにリーゼは苦笑する。


「実を言うと、どうしようか悩んでいたところなのよね。ただ、心配させてしまったということは、思った以上に時間が経過していたのか」

「そうだな……俺の意識がリーゼの意識に接触したらわかるようになっているから、それを利用して引っ張るとは言っていた……後は待てばいいな」


 アンヴェレートが今頃作業をしているはずだ。とすると俺は待つだけになるのだが。

 その時、広間の扉……その向こう側で爆音が聞こえた。騎士達が戦闘をしているが……多勢に無勢であるのはわかっている。この場所が陥落するのも時間の問題だ。


「……これは、あり得た未来なのよね」


 ふいにリーゼが発言。それに俺は首を左右に振り、


「でも、選ばなかった未来だ。俺は魔王との戦いの中でジイルダイン王国と手を組んだことはないけど……独力で魔族を追い返しただろ。こうはならなかった……それで話は終わりじゃないか?」

「本来ならそうかもしれないわね」

「何か気になることが?」


 会話をする間に、扉の奥から声が聞こえてくる。おそらく押し留めていられる時間はそう長くない。目前にいる人々が魔物に手によって……という結末を迎えるのは、時間の問題で間違いなかった。


「……そうね」


 リーゼはそう応じる。彼女の目線は、自分自身……この広間で奮闘するリーゼに向けられていた。


「魔王の侵攻に際し、私は全力で応じたし、動いた。その結果、魔族を押し返すことに成功した……けれど、どこかで歯車が狂っていれば、こうした結末を辿っていたでしょう。そしてどうやらそれは、かなりのケースであり得た」

「……この世界へ来るまでに、こうした結末を迎えた世界を見たのか?」


 リーゼは黙って頷いた。なるほど……。


「私は全力を尽くしたし、自分達の力で魔族を押し返したけれど、もし何か間違っていたら……正解もわからない道筋で何かが違っていたら、ジイルダイン王国は終わっていた」

「それに対し、思うところがあるってことか?」

「……なんというか、感傷的になっているのは認めるけれど」


 苦笑するリーゼ。自分の国が蹂躙されるという世界。それを目の当たりにして、思うところがあるという話か。

 ただ、目前のような状況にはなっていない……だから――と声を掛けようとした時、扉に何かが打ち付ける音が聞こえた。


 広間にいる人々が悲鳴を上げる。いよいよこの場所に魔物が……そういう心情であると共に、俺はリーゼを見た。

 結末を見るのか、それとも……そこでリーゼは一度目をつむった。刹那、扉の一部分が破壊され、魔物が入り込んでくる。


 もう扉を守っていた騎士達はいないだろう。そして広間にいた残る騎士や兵士に加え、リーゼもまたハルバードを携えて魔物へ挑み……そこで、目の前が真っ白になった。

 おそらくリーゼが自分の意思で、ある程度みたい世界を操作できる……気付けば俺とリーゼは真っ白い世界に来ていた。四方八方何もない空間。リーゼを見ると、魔物へ挑もうとする自分自身が立っていた場所を見据え、何事か考えている様子だった。


「……大丈夫か?」

「ええ、平気よ」


 応じつつも、その表情は硬い。まあこれは仕方がない。あり得たかもしれない未来……それを辿らなかったとしても、まざまざと見せつけられたら思うこともあるだろう。


「この空間は?」


 俺は一つ問い掛ける。それにリーゼは小さく肩をすくめた。


「世界を見るための中継地点、といったところかしら」

「リーゼ自身がこの場所からいくらか操作して、世界をのぞき見ると」

「そういうこと」


 リーゼはいくらか手を振った。それにより、真っ白い空間にいくつもの画面が浮かび上がる。

 空中にテレビのモニターが映るかのような光景が、空間内にいくつも浮かび上がった。この一つ一つが、あり得たかもしれない未来……そう思うと、なんだか身震いしてくる。


「ルオン、いつ戻れるのかしら?」

「それについては俺にもわからない。今アンヴェレートが色々やってくれているとは思うけど」


 まだ反応はない。ガルクもつれては来ていないので、俺はここで待つしかない。


「なら、もう少し覗いてみる?」

「別に構わないけど……なんというか、今の状況を楽しもうって雰囲気が伝わってくるな」

「私自身やらかしてしまったから反省はしているわよ? でも、どうせなら楽しまないとね」

「はあ……ま、色んな世界が見れるというのなら、そういう心情になるのは理解できるけどな」


 そのポジティブさは見習わないといけないかもしれないけど、


「ちなみにソフィアは相当心配していたぞ」

「そこは目覚めたら全力で謝るわ」


 苦笑するリーゼ。まあ彼女も望んでこうなったわけじゃないし、これ以上とやかく言う必要はないか。


「なら、どうする? というか、俺が付き従っていいのか? リーゼが道具を使用している以上、リーゼの視点で世界を見るわけだろ?」

「そこはまあ、大丈夫そうなのを選ぶだけだし」


 本当かなあ……俺はここに残っても、などと思ったがたぶんリーゼが世界を覗くと強制的に俺も連れていかれるんだろうな。

 まあ、リーゼがいいというのなら……こちらが「わかった」と応じると、リーゼは周囲を見回し始める。


 俺もまた改めて周囲を見るのだが……不思議な世界だ。なんというか、賢者の予言能力というのはこういう感じだったのだろうか?

 疑問に思いつつも、俺は別のことを考える……例えば俺が道具を使用したとして、今の俺よりも良い結末を迎えられたものがあったのだろうか?


「……なあ、リーゼ」


 ふと、俺は一つ問い掛ける。


「これは未来のことも観測できるんだよな?」

「え? ええ、そうね」

「なら俺達の未来も……」

「最初に試したわ。でも、上手く機能しなかった」


 そう述べてリーゼは再度肩をすくめた。


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