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賢者の剣  作者: 陽山純樹
世界を救う者

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選択肢の一つだったもの

 リーゼを目覚めさせる具体的手法だが、端的に言えば俺やソフィアがリーゼの魔力に干渉して、意識を引き戻す……同じように意識が途切れるようなので、ミイラ取りがミイラにならないように配慮する必要性があるらしい。


「まずは俺が先んじてやるよ」


 ソフィアに提案すると、彼女は小さく頷いた。二人同時にやってどちらも目が覚めなかったら大変なことだし、何かあった時のために人員は残しておく。


『ではルオン殿、椅子に座ってくれ』


 ガルクはリーゼが眠っているベッドの横にある椅子に首を向けながら話す。俺は小さく頷き、そこへ座ると、アンヴェレートが近寄ってきた。


「意識を飛ばすから、戸惑わないように注意して」

「わかった」


 俺が応じた瞬間……アンヴェレートは何事か詠唱を行った後、俺に魔力を付与した。それと共に、全身が浮遊感に包まれた……気がした。

 意識そのものがリーゼの中へと吸い込まれていくような感覚――すると、俺の目の前に光が現れた。体を見れば、姿は変わっていないがわずかに透けており、アンヴェレートの魔法が成功したのを理解する。


 そして……次の瞬間、俺の目には新たな景色が映った。気付けば俺は街道のど真ん中に立っている。そこは俺が訪れたことのない場所……少なくともバールクス王国などではなさそうだった。

 これはもしかして、リーゼが道具によって見ている景色か? 疑問に思いつつ俺は真正面を見据えた。そこには城壁を備えた町が存在しているのだが……その場所が、業火に包まれていた。


「襲われている……?」


 リーゼが見ている景色だとしたら、あの場所はジイルダイン王国の首都ということだろうか? 俺は足を踏み出す。体は透明だし、この光景に干渉できないだろうと思いつつも、歩くことはできる。ならばやることは一つ……リーゼを探す。


「リーゼはどこかで同じように半透明になっているはずだ……同じようにこの世界を見ているなら、認識はできるよな?」


 見つからなかったらどうしよう、と思ったがまずは探すことからスタートしよう。そう思い俺は業火に包まれる首都へ足を向けた。






 城壁については半透明であるためかすり抜けることが可能で、俺は問題なく入ることができた。既に城門は破壊され、中は魔物の軍勢が闊歩しているような状況。都の空は黒煙によって包まれ、建物はそのほとんどが破壊されている。

 その惨状は、バールクス王国の襲撃のような……いや、王都はこれほど破壊されているわけじゃなかったな。あれはどちらかというと支配下に置いていたという雰囲気が強かったから。


 ただこの場所はどうやら、まるで見せしめのように……そういえばジイルダイン王国は、魔族の攻撃に対し一度追い返していた。リーゼを始め王族も全員無事であり、どうにか魔王の侵攻に対抗できていた国でもある。けれど、その抵抗からこの首都を破壊すると決断した……そういうあり得た未来、ということだろうか?


 周囲を見回してみるが、既に動く人間はいない。瓦礫に押しつぶされている人や、魔物の攻撃を受けて倒れ伏す人間などが散見される。あくまで可能性の話であるし、俺達が辿った道とは別だけど……こういう可能性があったという事実に対し、俺は多少なりとも顔を険しくした。

 リーゼはこの光景を見てどう思うのだろうか……疑問を抱きつつ、足を城へと進んでいく。町の奥に存在する城もまた焼けており、建物がかなり崩れている。


 魔族側からすれば、軍事拠点にさえなるであろう城をここまで破壊するとは……よほど魔族達は怒りを募らせたのか。俺はふいに騎士が倒れる場所に目を向けた。魔物の姿はないが、体を爪か何かで抉られた形跡がある。おそらく魔物と相打ちになったのだろう。


 そこで、魔物の遠吠えが聞こえた。城からのもので、どうやら城内ではまだ戦っている。


「とはいえ、風前の灯火だな……」


 城の外観を見れば、もはや勝敗は決したようなものだが……俺はそちらへ足を向ける。道中に存在する死体や壊れた建物を目に映しながら、城門が完膚なきまでに壊された城の中へと入る。

 そこは――徹底的な防衛を施していたのだろう。凄まじい数の騎士が倒れ伏し、床を埋め尽くしていた。魔物の狙いは玉座だろうか。俺はまず通路の奥へ足を踏み入れる。


 そこから辿り着いた王がいる広間は……玉座は無残に破壊され、多数の騎士や兵士が倒れ伏している。魔物の姿はないため多少なりとも倒せてはいるみたいだが、それでも倒れる人員の数を考えれば、勝敗は火を見るより明らかだ。

 俺は耳を澄ませて魔物のいる場所を探る。城の奥にどうやらいるみたいだが……そこにリーゼの意識もいるだろうか?


 疑問に思いつつ、俺はそちらへ足を向ける。凄惨な光景を目に映しつつ、ゆっくりとした歩調で進み……やがて、声が聞こえてきた。


「魔法照射! このまま押し返せ!」


 男性の声だった。そこで廊下に多数の魔物を発見する。それらは城の奥へ突き進んでおり……その時、轟音が響いた。

 建造物が破壊される音と共に、魔物の悲鳴もまた聞こえてくる。目前で戦闘をしている。戦いも終盤であり、勝敗は決しているが、魔物達は一つの取りこぼしもないように攻め立てている。それに対し、どうにか抗っている騎士達……そういう構図だろう。


 やがて俺はそこに辿り着く。城の最奥、頑丈な扉の前に、多数の騎士と魔法使いがいた。さらにそれと相対するように魔物の姿も。魔物の数は圧倒的で、騎士達は疲労困憊かつ、少しずつ犠牲者が増え人数が減っている。

 俺はそこで、扉の奥へと進んだ。扉をすり抜けて奥にあったのは、大広間。元々は食堂のような機能があるようで、そこに多数の避難民がいた。


 さらに言えば、リーゼの姿も……ボロボロの鎧を着てハルバードを持つ彼女は、騎士達に指示を出して最後の抵抗をしていた。周囲の騎士達は逃げるよう進言しているようだが、彼女はそれを頑なに否定している。

 最後まで、戦うつもりってことか……そこで俺は、指示を出す王女の近くに、半透明なリーゼを見つけた。俺達の世界にいるリーゼだと思うと同時、俺は彼女へ駆け寄った。


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