賢者の協力者
ソフィアの説明を聞いて、俺はなるほどと納得した。
「星神にまつわるものだというのは間違いないから、リーゼは効果も有用なものだとして、持ち込んだというわけか……しかもそれはどうやら古の天使……つまり、アンヴェレートと同じように研究をしていたと」
「そういう物が彼女の国にあって、持ち込んだというわけね」
アンヴェレートは述べると、一度眠るリーゼへ視線を向ける。
「ただ、これだけなら眠り続けている理由にはならないわね」
「それはもう一つの道具か?」
「おそらくは、ね。ただこちらの由来は不明よ。どういった道具なのかも、これから検証しなければいけないわね」
「……リーゼをこのままにしておくのは、まずくないのか?」
俺の問い掛けにソフィアがわずかに身じろぎする。ただ眠っているだけではあるし、呼吸もしっかりしているのだが、
「検証については、今日中にどうにかするわ」
と、アンヴェレートは俺に明言した。
「彼女の容態については神霊様や他の天使様が観察して、対処する……で、いいんじゃない?」
「――そこについては、責任を持とう」
と、部屋に新たな声。見れば、デヴァルスが部屋へとやってきた。
「実を言うと、こうなったことについて責任の一端は天使側にある」
「天使に……? どういうことだ?」
「星神に対抗できる道具、ということで王女から相談を受けていた。結果的に役立つだろうと判断して今回ここへ戻る際に持ってきてもらえれば、と進言していたのだが……」
「その結果がこれだと」
「そういうことになる」
「だからといって、デヴァルス達の責任ではないと思うけどな……これは言ってみれば事故みたいなものだし」
そう告げてみるが、デヴァルスの表情は重い。そこでこちらは、
「……なら、リーゼについて頼んでいいか?」
「ああ」
ということで、デヴァルス達に任せるとして……俺とソフィアはアンヴェレートと共に研究室へと向かう。
そこで道具の検証を行うわけだが……片方は指揮棒のような大きさの杖。もう一方は革製の腕輪だ。腕輪の方は何やら紋様が刻まれた宝石が埋め込まれている。
「どちらが天使由来の道具だ?」
俺の問い掛けにアンヴェレートは指揮棒を指さした。
「現在、道具の効果は途切れているはずだけれど、リーゼ王女は効果を発揮している。特定の術式を相手に当てて、効果を維持する特性のようね」
ふむ、デバフ系の魔法みたいなものか……これで星神の能力が弱体化できるのなら非常に有用だけど。
「さっきも言ったけど、この杖だけで眠り続ける理由にはならない。杖の効果は発揮されてリーゼ王女にも付与されているけれど、意識を失うような効果は発生しないし、そもそもそういった効果でもない」
「もう一つの道具と相乗効果によって、そうなっていると仮定するのが妥当か」
「おそらくね。ただ、こちらは安易に魔力を流すと同じように眠ってしまう可能性もあるから、機具を使って検証すべきね」
だからこそ、研究室に来たわけだが……アンヴェレートが準備を始めると、部屋にアナスタシアやカティなど、研究系に携わっていた面々が顔を出す。
そして、アンヴェレート主導で検証が始まった。俺やソフィアにできることは何もないため一度部屋を出て、食堂で結果を待つことに。
「大丈夫か?」
俺は意気消沈としているソフィアへ問い掛ける。彼女は小さく頷きつつも、
「皆様がなんとかしてくれる……と思っています。けれどまさか、こういう事態になるとは予想していなかったので……」
「気が動転してしまったと。友人だし、仕方がないよ」
「決戦に際し、不甲斐なく思う面もあるのですが……」
「星神との戦いでは、例え親しい人に犠牲が出ようとも前へ……という雰囲気もあるけど、動揺して当然だとは思う」
「……そう、ですね」
そうした会話を成す間に、他の仲間達が状況を確認にやってくる。リーゼに対して心配する声が幾度も聞かれ、組織の中で彼女が非常に重要な立ち位置を担っていたのだと、改めて認識させられる。
待つ間、ソフィアはいてもたってもいられなくなって席を立ってウロウロしたりもした。俺はそれを止めることはせず、道具の検証が早く終わるよう願うばかり。
そうして、およそ二時間ほど経過した時……アンヴェレートが食堂にやってきて、俺達に報告をした。
「道具について、おおよそ検証が済んだわ」
「解明できたんだな。とりあえず事態収拾の第一歩だ」
「ええ、そうね……ただ、少し厄介かもしれない」
その言葉に、俺は顔を険しくしつつ、
「厄介とは?」
「道具の効果だけれど、まず由来はおそらく賢者に関係している」
「賢者が?」
「賢者本人が作成した物とは違うわ。これまで私達は賢者の足跡を辿り、また彼に関する情報なども得た。さらに言えば賢者の血筋に関する研究もした。その上で発言すると、これは賢者が考案した道具ではなく、賢者に類する存在が生み出した物……魔力については、賢者に寄せていると表現ができるかしら」
「それは……賢者の協力者ってことか?」
「そうかもしれないわね。リーゼ王女は道具の行使により眠ってしまったけれど、それは決して本意ではない」
「そこについては、道具の相乗効果によるものだと考えていいのか」
「ええ、それで間違いない……これは推測だけれど、賢者が何をしていたのか知っていた人間だったのではないかと思うわ」
「星神と倒すために世界を旅した……それに賛同し、手を貸した人間ってことか」
「ええ」
決戦寸前になって、ずいぶんとまあとんでもない物が出現したな……いや、決戦前だからこそ、リーゼは道具を持ってこようと考えたと言うべきか。
「それで、道具の効果は?」
「いくつかあるけれど、その一つは転移魔法に関連する物ね」
「転移? それは……賢者が旅をしやすいようにとか、そういうことか?」
「そうした目的もあるみたいだけれど、術式としてはそれがメインではなさそう」
「では本来の目的は?」
問い掛けにアンヴェレートはこちらを一瞥し、
「非常に特殊な性質……もしかすると、あなたの出自にも関係してくるかもしれない――」




