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賢者の剣  作者: 陽山純樹
世界を救う者

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祈る

 翌朝、俺はラムハザに別れを告げて島を離れる。何もない海の上を進み始めたわけだが、その道中でガルクと会話を行う。


「作戦……というか立ち回りについても、おおよそ決まっているんだろ?」

『うむ、いくつかプランを練っており、相手の動き方次第で取得選択をする形を取っている』

「詳細は聞いていないけど、今のうちに憶えておいた方がいいか?」

『ルオン殿やソフィア王女には必要ない……いや、今回前線に立つ人員には必要ない』

「どういうことだ?」

『ルオン殿達の立ち回り方は変わらないということだ。目標である星神を見つけ、それを打倒するべく迫る……作戦は、それを問題なく進めるためのものであり、我らが臨機応変に対応する』


 結構大変そうだけど……神霊であるガルクに俺がとやかく言えるわけでもないので、何も言わなかった。


『星神としては、そうした想定を上回ってくる可能性は極めて高いが……』

「作戦が通用しなかったら、どうするんだ?」

『そこからは現場判断だな。なんとしても意地で、ルオン殿達を星神の近くまで連れて行く。幻獣や天使、さらに言えば魔族だっているのだ。ありとあらゆるものを使って、必ず遂行してみせる』


 自信、というよりは責任感を持っているようだった。


『我から頼むことは一つだ。ルオン殿、星神との戦いでは、脇目も振らず星神を狙ってくれ』

「つまりそれは、何かしら被害が出たとしても……」

『そういうことだ。ラムハザの話でさらに星神という存在を理解したわけだが、強大な存在であることは間違いない。故に、場合によっては神霊である我でさえも、危ないと考えている』

「死にに行くような真似はしないでくれよ」

『無論だとも。しかし、そうした最終手段を用いなければならない可能性もある……もしそうなっても、ルオン殿は走り続けてくれ』


 ……まあ、ガルクにとってみれば俺が足を止めることで星神の喉元へたどり着けないなんて状況は避けたいわけだからな。

 俺はひとまず頷いた。ガルクの語ったことは間違いないし、そうするべきだと思う。ただ、もし決戦の際にそうなってしまったら……果たして俺は、どう動くだろうか。


 今はただ、ガルク達が構築した策がちゃんと機能することを祈るしかできないか……そんなことを思っていると、さらにガルクから言葉が飛んだ。


『さて、ルオン殿。この旅が始まる前から星神を討つための修行を重ね、今回の旅においてひとまず完成の域に達した』

「神霊ラムハザに勝てた事実からも、それは間違いなさそうだな……それで、何か思うところが?」

『いや、ルオン殿は可能な限り全力を尽くしたと我は思っている。後はそれが実を結ぶことを祈るばかりだが……』


 ガルクの言葉が止まった。相手が強大であるため、本当に良いかはわからない。しかしそれでも、


「先に言っておくけど、通用しなかったとしてもガルクを恨むようなことにはならないから心配しないでくれ」

『そう思ってくれて別に構わないのだがな……そもそも、通用しなかった時はすなわち負けだ。我もルオン殿も地上にはいないだろう』

「それもそうか……」


 俺は苦笑する。星神との決戦、勝つか負けるかはすなわち生死に関わることだろう。負けが即座に死に繋がるかはわからないが、どちらにせよ世界が崩壊するのであれば、そういう意味で死が待っていると考えてもいい。


「ちなみにガルク、星神に動きはあるのか?」

『今のところないぞ』

「そっか……ま、向こう側は待ち構えているという話なのかもしれないな」


 俺はそう呟いた後、今回の旅を振り返る。

 仲間は全員が例外なく戦うと表明してくれた。今頃はバールクス王国へ集まっていることだろう。彼らと共に魔王城へ赴き、決戦へ……いよいよ、戦いの終わりが近づいてきた。


 そしてガルクが先ほど言った通り、今までやったことが実を結ぶのを祈るばかり……とはいえ、相応のことはしてきた。星神の使徒を倒し、まがい物を打ち破り……星神に類する存在を倒せた実績からも、勝算は十分あると俺は思う。

 正直言って、不安はない。神霊ラムハザから色々と助言をもらったことも影響しているのだろうか……俺は海を渡りながら色々思案し、時にガルクと話し合いつつ……バールクス王国へと、移動を続けた。






 やがて日数を掛けてシェルジア大陸まで戻ってくると、俺は脇目も振らずバールクス王国へ向かう。

 その道中で、戦士などがバールクス王国へ集結しているという噂を聞く。間違いなく仲間達であり、着々と決戦準備が進んでいる。


「俺が帰還した時、全員いたらその流れで魔王城へ、だな」

『うむ、それで良いだろう』


 ガルクも頷き、俺は街道を進んでいく。なんとなく、こうして誰かと肩を並べず旅をするのは最後な気がして、感慨深くなった。まあガルクという話し相手はいるわけだけど、それでも隣に仲間がいないということは、今後旅をするにしてもなくなるだろうと思う。


「なあ、ガルク」

『どうした?』

「改めて、の話なんだが……星神との戦いに勝利しても、俺にはまだやるべき事が残っている。それはガルクにも協力してもらうけど」

『無論だ』

「最終的に俺の死に顔を見るのは、ガルクになるかもしれないな」

『ずいぶんと遠い未来のことを語るのだな』

「ガルクにとっては一瞬だろ?」

『そうは思わないな』

「長い時間を生きてきて?」

『記憶に刻まれる一年と、怠惰に過ごしてきた十年とでは、死ぬ間際まで憶えているのは当然前者だろう? 我にとっても今回の旅路は衝撃的なものだった。神霊として役割を負え、身が果てるまで忘れることはないだろう』

「……そうか」


 ガルク自身が憶え続けることで、俺の旅……その足跡がどこまでも残るような気がして、少し嬉しくなった。


「なら、もし星神の戦いに勝利したら……歴史でも編纂してもらおうかな」

『それは人の手でやるべきではないか?』

「人の歴史の教科書に載せるようなものじゃない……星神のことを伝える以上、その戦いの歴史は、神霊が持っていた方がいいと思う」

『ふむ、そこまで考えていなかったが、確かに後世に伝えるには良いかもしれんな。とはいえ、あまりに異例で信じてもらえるかもわからんぞ? なにせ、魔族と天使と神霊が一緒に戦うのだ』

「なら、それが違和感ない世の中になっているのを祈ろうか」


 そうしたやりとりとしつつ……俺達は、ソフィアの待つ城へ歩き続けた。


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